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ユダヤ人成功の智恵『タルムード』から、考えさせられるエピソード5選を紹介

イスラエルを中心に世界各国で活躍し、富豪や天才など多くの成功者を生み出しているユダヤ人

成功の秘訣は当然人それぞれですが、その一つとして考えられるのが「子供のころから、自分の頭で考える習慣を積み重ねて来たこと」ではないでしょうか。

(もちろんユダヤ人だけではなく、他の民族だって子供のころから自分の頭で考え続け、成功を収めた人がたくさんいることは言うまでもありません)

「自分の頭で考える」とは、例えば日本における旧態依然とした学校教育のように

「大人が望む答えのみを善とし、その応用として権力者の望む、あるいは社会大衆に受けのよい答えを忖度させる」

受け身な生き方させるのではなく、

「答えを自分で見つけ出し、その良し悪しは自分で判断し、判断の結果について、自分で責任を持つ」

という主体的な生き方に目覚めさせる。これこそが「生きる力」の基本ではないでしょうか。

そのためには、子供に「自分で判断させる」機会が必要で、ユダヤ人の家庭では『タルムード』をその教材として使うところもあるようです。

『タルムード』とはユダヤ教徒の預言者モーセの口伝をはじめ、様々なエピソードをまとめた教訓物語集で、宗派によってはユダヤ教徒の聖典(※ヘブライ語で書かれたもののみ)としていることもあります。

今回はそんな『タルムード』から、興味深いエピソードを5つ選んで紹介。子供向けとあなどるなかれ、大人が読んでも結構考えさせられるので、よかったらおつき合いください。

一〇個のクッキーの与え方

もしここに一〇個のクッキーがあって、それを子供に与えるとしたら、どのように与えますか?

ユダヤ人の家庭では、最初の日に一個、次の日に二個、その次の日に三個、そして最終日に四個与えるそうですが、こうすると、子供は一日ごとに楽しみが増えることを覚えます。

次に、最初から一〇個すべて与えてしまい「後はもうないよ」と伝えると、子供はそれをどのように食べていこうか自分で計画を立てるキッカケを得るでしょう。

そして今度は最初の日に四個、次の日に三個……と一日ごとに与える量を減らしていき、こうすると子供は先細っていくことに不安を覚えるようになるそうです。

このように「物事には選択肢や方法がいくつもあるし、自分で考えることもできる」ことを教えた上で「いいことが最初にあるのと、後にあるのとどっちを選ぶか」と尋ねると、大抵の子は「後からいいことがあった方がいい」と答えるでしょう。

人生も同じことで、後からよい思いをできるという希望があれば、目先の苦労は我慢し、乗り越えられるようになります。

また、そのための計画を立て、自分の人生を長期的な視点から見渡すことで物事を冷静かつ的確に判断できるようになるでしょう。

母鳥と三羽のヒナ

ある時、大嵐に見舞われた鳥の巣が崩壊してしまいそうなので、母鳥は三羽のヒナたちを避難させようと海を渡ることにしました。

ただし、一度に三羽は運べないので、一羽ずつくわえて飛ぶことにします。

最初の一羽を運びながら、母鳥はヒナに尋ねました。

「坊や、お母さんは命がけであなたを助けようとしていますが、その見返りに、あなたは何をしてくれるの?」

母親の愛は無償じゃないのか!なんて声が聞こえてきそうですが、ともあれヒナは母鳥に答えます。

「お母さん、今はそんなことを考える余裕なんてありません。まずはとにかく僕を安全なところまで運んで下さい」

その答えを聞いた母鳥は失望して、ヒナを海に落としてしまいました。緊急事態に際してただ助けを求めるような無能では、この先生きていけないと見切りをつけたのでしょうか。

母鳥は巣へ戻ると、二番目のヒナを運びながら、同じことを尋ねます。すると今度はこう答えました。

「お母さんが私を助けてくれて、無事に成長できた暁には、やがて年老いたお母さんのために、毎日食べ物を運んで恩返しをします。これでどうでしょう」

その答えを聞いた母鳥は失望して、ヒナを海に落としてしまいました。普通に考えれば「親孝行な、よい子」だと思いますが、求めているのはそういうことではないようです。

母鳥は巣へ戻ると、最後のヒナを運びながら、やはり同じことを尋ねます。すると

「お母さん。私はお母さんが今回してくれたことを、必ず私の子供にもします」

これを聞いた母鳥は満足して、最後のヒナを海の向こう岸まで運び届けたのでした。

親の愛は返せないが、ただ報いる方法があるとするなら、その愛を他の誰かに注ぐこと。それは我が子に限らず、他の誰でも構いません。

そうした助け合いの精神こそが次世代へ受け継ぐべき最大の資産であり、同胞を助け合うことで苦難の歴史を乗り越えて来たユダヤ人らしい教育哲学が表れています。

パラダイスを見つけた男

とある村に住んでいた粉屋の男。妻と二人の子供がいて、毎日々々一生懸命に働いていましたが、そんな日々の繰り返しがいいかげん嫌になってしまいました。

「ここでないどこかに、もっと素敵な場所……そう、パラダイスがあるに違いない!」

以前、お客と雑談していた時に、お客がこんなことを言っていたのを思い出します。

「旅に出た夜、枕元に靴を置いて眠ると、その靴は翌朝にパラダイスの方角へ向いている」

……そんな異国の言い伝えがあるとかないとか。

「よし、パラダイスを探しに行こう!」

居ても立っても居られなくなった男は、何の準備も相談もなく、パラダイスを探す旅に出てしまいました。妻にも告げず、子供たちも置き去りです。

その晩はお客から聞いた通り、枕元に靴を置いて眠ると、果たして靴の向きが変わっています。

きっと風や小動物などが動かしたのでしょうが、男はこの先にパラダイスがあるのだと確信しました。

「この方向だな!行こう!」

男はその方角に歩き続けます。道中には様々な困難があったでしょうが、この先にパラダイスがあると思えば乗り越えられます。

かくして何十日もの旅路を経て、ついに男はパラダイスを見つけました。

「……あれ?」

見つけたパラダイスはずいぶんと見すぼらしく、よく見ると元いた村にそっくりです。

「ともあれここがパラダイスなのだろうから、調べてみよう」

男は村の中に入っていくと、見たことのある顔、聞いたことのある声が出迎えてくれます。

「あなた、お帰りなさい!」

「お父ちゃんだ!」

「わーい、お父ちゃんが帰ってきた!」

妻にそっくりな女性が一人と、子供たちにそっくりな子供が二人。それはもうパラダイスにふさわしい満面の喜びようだったので、やはりこここそがパラダイスに違いないと男は確信を強めました。

やさしい妻と、かわいい子供たち……そんな歓迎に応えるべく、男は一生懸命に働きます。仕事は昔と同じ粉屋ですが、毎日々々喜ばれて、前の場所とは比べ物にならない満足感を得ています。

「捨ててきた妻と子供たちには悪いが……俺はこのパラダイスで一生を暮らすことにしよう」

こうして男は、家族たちと幸せに暮らしたのでした……って、いや気づくでしょ普通。

「ただ回り道をして元の村に戻って、元の家族と元通りに暮らした」

それだけの話なのですが、同じ場所、同じ環境であっても、とらえ方一つで人生は大きく変わることを教えてくれます。

ナポレオンとニシンの話

かつてナポレオン・ボナパルトがヨーロッパの征服を実現したとき、各国の協力者に対して「望みのままに褒美を与えるゆえ、何が欲しいか言ってみよ」と伝えます。

フランス人は言いました。「ブドウ畑と、それをワインに醸造する工場が欲しいです」ナポレオンはそれを与えると約束しました。

ドイツ人は言いました。「大麦とホップの畑、それをビールに醸造する工場をたまわりたい」ナポレオンはそれを与えると約束しました。

イタリア人は言いました。「小麦畑と、それをパスタに製麺するための向上を下さい」ナポレオンはそれを与えると約束しました。

そしてユダヤ人は言いました。「ニシン(鰊)を二尾ほどいただければ、私はそれで十分です」ナポレオンは不思議がって尋ねます。

「なに、そんなものでよいのか?もっと求めてよいのだぞ?」

他のフランス人、ドイツ人、イタリア人らも口々に笑いました。

「バカなヤツだ、せっかく皇帝陛下が褒美を下さるのだから、どっさりと要求すればいいものを」

それでもユダヤ人は「ニシン二尾で結構です」と譲らず、ナポレオンはその場でニシン二尾をユダヤ人に与えました。

さて、その後間もなくナポレオンは失脚。フランス人とドイツ人とイタリア人は褒美の約束を果たしてもらえませんでしたが、ユダヤ人だけはニシン二尾を手に入れたということです。

いつか遠くの夢物語より、今ここで確実に手に入るものをこそ積み重ねよ。ユダヤ人の成功哲学は、この確実性にあるのでしょう。

兵士とパスポート

時は1980年代、アフリカ北東部のエチオピアではユダヤ人に対する迫害が行われており、国内にいるユダヤ人の逮捕・投獄が相次ぎました。

死刑にこそされなかったものの、食事が与えられないなど劣悪な環境で、一度捕まったら生きて出られる保証はありません。

そんな中、とあるラバイ(ユダヤ教の聖職者。ラビとも)がおりましたが、希望を捨てずチャンスをうかがっていたところ、看守の隙をついて脱獄に成功。

追手の眼をかいくぐって国境へ向かい、国外行きのバスに乗ることが出来ました。

「このまま上手くいけば、助かるぞ……」

バスは順調に走っていましたが、あと少しでエチオピア国外へ脱出できるというところに検問所があり、そこで止められてしまいます。

「動くな!」

自動小銃を抱えたエチオピア軍の兵士2名がバス車内に乗り込んで来ました。

「お前ら全員、パスポートか身分証明書を提示しろ。手に持って頭上に掲げるんだ」

さぁ、まずいことになりました。着の身着のままで脱獄してきたラバイは、そんなものを持っていません。

「よし……よし……」

兵士は前席の乗客から順番にパスポートと顔などをチェックし、徐々にラバイの席まで近づいてきます。この様子だと、あと2~3分しか猶予はありません。

(どうする……どうする……)

今しがた、パスポートも身分証明書も持っていないユダヤ人が社外へと連行されていきました。ワンチャン期待していた「落とし(なくし)ちゃいました、すみません」はやっぱり通用しないようです。あ、もう一人連行されていきました。

(そうだ!)

ラバイはニコニコしながらゆっくり立ち上がると、周囲の席にいる者たちからパスポートを集めました。

「ひとり一人チェックしていては、兵隊さんが大変ですから、今から皆さんのパスポートを集めます。どうかご協力下さい」

表面上はにこやかに、しかし有無を言わせず他の乗客からパスポートを集め、十数名ぶん集めると、兵士の一人に差し出して言います。

「兵隊さん、お役目ご苦労様でございます。一人ずつチェックしていたら大変でしょうから、この席(適当な席を指さして)から後ろにいる乗客のパスポートを『私含めて全員』分集めておきました。まとめてチェックをお願いします」

思わぬ「協力者」の出現に少し調子が狂ったのか、あるいはパスポートのかたまりにうんざりしたのか(あるいはその両方か)、その兵士は十数名分のパスポートにざっと目を通したフリをすると「よろしい」とラバイに伝えました。

「それでは、パスポートは皆さんにお返ししておきますね」

「うむ」

こうしてラバイは逮捕を免れ、バスも無事にエチオピア国外へ脱出できたということです。

最後まで諦めない根性と機転。それが数々の苦難を乗り越えてきたユダヤ人の哲学と言えるでしょう。

終わりに

ユダヤ人の物語と聞くと、何となく旧約聖書的というか、神話とか寓話ばかりと思いがちですが、ナポレオンだの1980年代だのと言った近現代のエピソードも盛り込まれており、歴史や伝承が現代に生きる私たちと地続きであることを実感します。

これらのエピソードを聞いて「自分ならこうする」あるい「こんな方法や解釈もあるんじゃないか」などと思った方もきっと多いことでしょう。それが大切なのです。

『タルムード』にはまだまだたくさんのエピソードが収録されているので、是非ともお気に入りの一話を見つけてほしいと思います。

※参考文献:

石角完爾『ユダヤ人の成功哲学「タルムード」金言集 (集英社ビジネス書)』集英社eビジネス書、2019年1月

角田晶生(つのだ あきお)

角田晶生(つのだ あきお)

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