野山も街も淡い桜色に染まる春がやってきました。
見事に咲き誇った満開の桜は、花開いてから舞い散るまでが「あっという間」に過ぎるように感じます。
そのため「桜=短命」というイメージもありますが、一般的に桜の木自体の寿命は品種にもよりますが60年くらいだそうです。
けれども、その「60年」をはるかに超え、樹齢2000年近くで日本最古とも称されながら今でも毎年懸命に花を咲かせる、驚くほど長寿の桜の木があるのをご存知でしょうか。
今回は、そんな實相寺の「山高 神代桜」をご紹介しましょう。
樹齢は2000年近くの巨大な神代桜
樹齢2000年とも伝わる「山高神代桜」は、山梨県北杜市武川町にある、日蓮聖人を開祖とする日蓮宗の寺院「實相寺(じっそうじ)」の境内にあります。
神代桜は、エドヒガン種(※1)の古木で、「日本三大桜」(※2)の一つです。
※1 本州、四国及び九州の山地に自生する天然のサクラの一種。桜の中ではもっとも寿命が長いといわれる
※2 ほか2つは、岐阜県本巣市「板尾谷 薄墨桜(ねずだに うすずみザクラ)」と福島県三春町「三春 滝桜(みはる たきざくら)」)
實相寺の「神代桜について」の記述によると……
〜日本武尊(ヤマトタケルノミコト)が東国へ遠征された際この地に立ち寄られ、記念にこの桜をお手植えされたと伝えられています。また、鎌倉時代に日蓮聖人がこの地を訪れた際に、桜の衰えを見て憂い、樹勢回復を祈願されたところ再生したと伝えられおり「妙法桜」の名でも呼ばれています。〜
とのことです。そんな神代桜は、大正11年(1922)に国の天然記念物に指定されました。
枯死宣告を受けるも見事に復活
北杜市教育委員会が発行している「山高神代ザクラ」という冊子や、境内にある神代桜の変遷が書かれた説明書きを読むと、天然記念物に指定された後、環境の変化などによって樹勢が衰えてしまったそうです。
一番勢いがあったのは、幕末から明治初期ごろと推測されていますが、残されているモノクロ写真を見ると、明治40年(1907)頃や大正時代も実に威風堂々とした立派な姿を見せています。
枯死宣告を受けるも見事に復活
衰え始めた神代桜は、昭和23年(1948)には「3年以内に枯死する」という宣告を受けてしまいます。さらに、昭和34年(1959)の台風7号により太枝の折損など大きな被害を受けてしまったのです。
そこで、この希代の桜を再生しようという動きが起こりました。
平成13年(2001)までの調査で、樹勢の衰弱は「根圏における環境の急変や悪化」がもっとも大きく影響していると考えられたので、大規模な土壌の入れ替えやコントロールなど、神代桜への影響に十分配慮しながら様々な改良工事を実施することになったのです。
平成14年(2002)、「山高神代ザクラ樹齢回復事業検討委員会」が組織され、樹勢回復が検討され計画がまとまり、本格的な桜の樹勢回復工事がスタートしました。工事も2年目が終了した平成16年には、樹冠下部の枝は勢い良く伸び、葉の枚数も多くなってきたそうです。
その後も慎重な樹勢回復工事やそれに携わった関係者・地元の人々、数多くの神代桜のファンの想いが伝わったのか、ここ数年間は春になると見事な花を咲かせるようになりました。
桜並木や水仙が咲き誇る畑などまさに百花繚乱に
神代桜がある實相寺は桜をはじめとする「花の寺」としても有名です。
山門をくぐると、境内右手には見事な桜並木が続き、左手には約8万株とも10万株ともいわれる、ラッパ水仙が咲き乱れる畑があります。
季節になると、桜の淡いピンク・水仙の黄色・葉っぱの緑が混ざり合い、晴れた日は青空や遠くに連なる雪を頂いた甲斐駒ヶ岳など南アルプスの山々が広がり、まるで絵画のように美しい風景を楽しむことができるのです。
宇宙に旅立った神代桜の種は「宇宙桜」へ
また境内には、珍しい「宇宙桜」も花を咲かせます。
平成20年(2008)11月、神代桜の種は、「花伝説・宙(そら)へ!」プロジェクトで、全国各地の花の種と共にアメリカのNASAからスペースシャトル・エンデバー号で、国際宇宙ステーション日本実験棟「きぼう」に向けて旅立ったのです。
ふるさとを離れて無重力の宇宙空間を旅していた種ですが、平成21年(2009)7月に宇宙飛行士・若田光一さんと一緒に地球に帰還。その後発芽したものが、實相寺境内に戻り植えられました。
この「宇宙桜」は、神代桜と比べるともちろんまだまだ小振りながらも、毎年すくすくと成長しています。
通常、桜の花びらは5枚なのですが、この桜では、一部で6枚の花びらが見つかっているそうです。
神代桜の生命エネルギーに触れたい
神代桜は、樹高10.3m、根本周11.8m(平成18年測定値)という巨大な桜です。
いまは、桜が倒れるのを防ぐ意味もあり、枝の要所要所を多くの支柱が支えています。しかし、そのことが2000年というこの桜が生きてきた時の時間の長さを、見る者に感じさせるのです。
ゴツゴツとした根本や幹の力強さと、枝先を彩る可憐なエドヒガン桜の花のコントラストは見事の一言。満開の神代桜の前に立つと、古からこの土地で根を張り、花を咲かせ、人間界を見てきた神代桜の生命力が伝わってくるようです。
実際、春になると、神代桜のこの不思議なエネルギーにあやかりたいと、想いを込めて桜を見上げている人、無心に桜の前で手をあわせる人などがたくさん!
筆者も毎回、春が来ると必ず神代桜の力強い生命力をいただきに實相寺を訪れます。満開の時期は毎年異なりますが、だいたい4月の上旬ごろで、土日は「ひと目樹齢2000年の桜を見てみたい」「今年も、元気な姿をみたい」という多くの人で賑わいます。
境内で販売されている「山高神代ザクラ」の冊子は、再生の様子や明治・大正・昭和へとモノクロの写真で綴った変遷などが書かれてあり定価は100円。収益は神代桜保存のために使われるそうです。
實相寺の公式HPでは、神代桜の日々の「開花速報」を見ることができます。参拝する際には、チェックするのがおすすめです。
参考:
日蓮宗大津山 實相寺 公式ホームページ
北杜市教育委員会「山高神代ザクラ」冊子
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