
画像 : サルからヒトへ pixabay cc0
生物は長い年月のあいだに世代を重ね、少しずつ環境に適応しながら姿や形を変化させてきた。
これこそが進化である。
興味深いことに、まったく異なる系統の生物であっても、似通った環境で生活を続けるうちに、よく似た体の構造や習性を獲得することがある。
この現象を収斂進化(しゅうれんしんか)と呼ぶ。
今回は、そんな摩訶不思議な収斂進化をいくつか紹介したい。
昆虫の収斂進化
昆虫は、地球上でもっとも多様な生物群である。
現在確認されているだけでもおよそ100万種に達し、未発見の種を含めればその数はさらに膨大になると考えられている。
これほど種類が多いからこそ、昆虫の世界には収斂進化の例が数多く見られる。
その代表的な一例が「スズメガ」科である。

画像 : スズメガ illstAC cc0
名前のとおり蛾の仲間でありながら、飛ぶ姿や体の形は鳥によく似ている。
中でもホシホウジャクは、その飛翔の仕方が、北米から南米にかけて生息するハチドリに酷似していることで知られている。

画像 : ホシホウジャク KENPEI CC BY-SA 3.0
ハチドリは、体重がおおよそ2〜20グラムほどの小型の鳥で、高速で羽ばたきながら空中で静止する「ホバリング」ができる唯一の鳥類である。
花の蜜を主食とし、ホバリングしながら長いクチバシを花に差し込み蜜を吸う。

画像 : ハチドリ pixabay cc0
一方、ホシホウジャクも同じようにホバリングを行い、細長い口を使って花の蜜を吸う。
共通の目的を持つ異なる生物が、環境への適応の結果として、似た姿と生態にたどり着いた。
これこそが収斂進化の興味深い証である。
他にも収斂進化の例として、カマキリの前脚も見逃せない。

画像 : カマキリ illstAC cc0
カマキリの前脚は鎌のような形をしており、鋭いギザギザが並んでいて、獲物をしっかりと捕らえて離さない構造になっている。
このような鎌状の前脚を持つ昆虫は、カマキリだけではない。
カメムシの仲間であるミズカマキリやタイコウチ、さらにはハエの一種であるカマバエなども、同じように前脚を捕獲用に特化させている。
これらの昆虫は、いずれも獲物を効率よく捕らえるため、長い進化の過程で前脚を鋭利に変化させてきた。
捕食という共通の目的が、異なる系統の昆虫に似た形状をもたらした好例である。
植物の収斂進化

画像 : スイレン(左)とハス(右) photoAC cc0
植物もまた地球上に豊富に存在し、その種類はおよそ三十万種に及ぶといわれている。
その中でも収斂進化の興味深い例として知られるのが、スイレンとハスである。
いずれも水辺に生育し、スイレンは水面に丸い葉を浮かべ、ハスは水面より少し上に葉を持ち上げている。
見た目がよく似ているため混同されがちだが、両者は系統的にまったく異なる植物である。
植物が生きるうえで欠かせないのは光合成であり、光が届きにくい水辺という環境では、広く平らな葉を発達させて、効率的に光を受ける形へと進化する必要があった。
その結果、異なる系統でありながら、似た姿の植物が誕生したのである。
また、食虫植物の進化も収斂進化の一例として興味深い。
ウツボカズラは東南アジアなどに分布し、甘い香りで虫を袋状の葉に誘い込み、内部の液体で消化・吸収するという独特の仕組みを持つ。
その捕食機構の巧みさは、自然界の進化の多様性を象徴しているといえる。

画像 : ウツボカズラ(左)とサラセニア(右) photoAC cc0
ウツボカズラによく似た植物として、北アメリカを中心に分布するサラセニアが挙げられる。
サラセニアもまた香りで虫を誘い込み、筒状の葉の中に落とし込んで捕食するという点で、ウツボカズラとよく似た仕組みを持つ。
かつては両者が同じ系統の植物と考えられ、「ウツボカズラ目」にまとめられていた。
しかし、近年の分子系統解析により、サラセニアはツツジ科に近い系統に属することが判明し、ウツボカズラとは全く異なる進化の道をたどってきた植物であることが明らかになった。
地理的にも系統的にも離れた場所で、同じ捕虫構造を獲得した点は、収斂進化を示す典型的な事例といえる。
魚のように進化したワニたち

画像 : 「声マネ」で相手を呼びかけるイルカ イメージ
イルカやクジラが魚のような体形をしているのも、収斂進化の結果である。
水中で効率よく泳ぐためには、流線型の体とヒレを備えた姿が最も適していることを、彼らは体現している。
もし人類が水中での生活を続けるような環境に置かれたなら、数百万年後には神話に登場する人魚や半魚人のような姿に進化しているかもしれない。
我々人類が誕生するはるか以前、古代の海には「魚のような形をした爬虫類」が数多く存在していた。
巨大なトカゲの仲間であるモササウルス類、長い首を持つ首長竜、そして見た目がイルカに酷似した魚竜などがその代表である。
彼らはいずれも水中生活に適応するため、前脚と後脚をヒレ状に変化させていた。
さらに興味深いことに、現生のワニの祖先の一部もまた、海に適応した姿をしていた。
中生代(約2億5千万年前から約6600万年前)に繁栄したこれらの海生ワニは「中鰐亜目」と呼ばれ、当時の海洋生態系における強力な捕食者であったと考えられている。

画像 : メトリオリンクスの想像図 wiki c Mette Aumala
代表種のメトリオリンクスは、その化石から復元された姿がまさに「ワニの頭を持つ魚」のようである。
歯の形状や胃の内容物から、アンモナイトや最大20m級と推定される巨大魚リードシクティスなどを、強靭な顎で捕食していたと推測されている。
一方で、産卵時には陸に上がり、トドやアシカのようにヒレを使って移動していたと考えられる。
ただし、胎生であった可能性も指摘されており、その生態の詳細は今後の研究に委ねられている。
このように、生物は環境に適応するために、時にまったく異なる進化の道を歩みながらも、同じ形へとたどり着くことがある。
収斂進化とは、自然が織りなす不思議な反復の証であり、地球上の生命がいかに多様でありながら、同じ法則に従っているかを示す美しい現象だといえるだろう。
参考 : 『Convergent Evolution: Limited Forms Most Beautiful』他
文 / 草の実堂編集部























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