国際情勢

中国の「表と裏」普通の中国人の生活はここまで苦しい 〜物価・教育・老後の不安

画像 : 上海 イメージ

日本のメディアが報じる中国のイメージは、華やかな大都市の発展か、政治的な緊張に偏りがちだ。

しかし、大多数の中国の一般市民、特に都市部で働く若者や地方の庶民が直面している日常は、厳しい試練に満ちている。

まず、多くの人々を悩ませているのが物価高で、特に食料品や家賃の高騰は目覚ましい。

中国の消費者物価指数(CPI)は公式には比較的安定しているとされることが多いが、庶民の肌感覚としては、実感できる物価上昇率は遥かに高い。

大都市の住宅価格は手の届かないレベルにあり、若者にとってマイホームを持つことはほとんど非現実的な夢と化している。

そして、この物価高を加速させているのが、根強い格差の拡大である。

富裕層はさらなる富を築く一方で、中間層以下は生活コストの上昇に苦しめられている。
高給のIT・金融セクターと、薄給の製造業・サービス業との賃金格差は広がる一方だ。

多くの国民は、政府の宣伝する「共同富裕」の恩恵を感じられずにいる。

教育は投資、競争の重圧

画像 : 中国大学統一入学試験 イメージ

中国の親にとって、子どもへの教育は人生最大の「投資」だ。

このため、受験競争は極めて熾烈であり、親たちは子どものために高額な塾や習い事、さらには教育環境の整った「学区房(学区の良い物件)」に大金を費やす。

しかし、政府が「双減政策」を導入し、過度な学習塾通いや宿題を規制したことで、教育市場は混乱した。

この政策の狙いは、格差を是正し、子どもの負担を軽減することだったが、結果として富裕層は家庭教師や非公式なルートで質の高い教育を確保し、むしろ新たな形の教育格差を生み出しているとの指摘もある。

また、熾烈な競争を勝ち抜いた若者を待ち受けているのは、「996」(朝9時から夜9時まで週6日働く)に象徴される過酷な労働環境だ。

経済成長の鈍化に伴い、高学歴でも良い職に就けない「就職難」が深刻化しており、多くの若者は将来への希望よりも疲労感と不安を感じている。

画像 : 中国の都市スラム地域の老朽化した集合住宅 Ermell CC BY-SA 4.0

老後の不安とセーフティネットの限界

「普通の中国人」にとって、最も大きな不安の一つが老後の問題だ。

急速な少子高齢化、そして「一人っ子政策」の遺産により、一組の夫婦が双方の親4人を扶養しなければならない「4-2-1」構造が一般的になっている。

農村部では、年金制度や医療保険が都市部ほど整備されておらず、十分な社会保障がないのが現状である。

都市部の年金制度も、物価高や医療費の増大に追いついていないと感じる国民が多い。
退職後も生活費を稼ぐために、清掃や警備などの低賃金労働を続けざるを得ない高齢者も少なくない。

「養老(老後の生活)」は、かつての大家族制度のもとでは家族が担うものだったが、核家族化が進んだ現代では、その負担が個人に重くのしかかっている。

政府の社会保障制度の充実が急務とされているが、その進展は緩やかだ。

自由への渇望と政府の統制

画像 : 中国の旅行人気スポット上海 イメージ

経済的な不安に加え、普通の中国人が無視できないのが政治的な統制である。

彼らはしばしば、政治とは無関係な日常を送りたがっているが、政府による監視システムの強化や、情報統制は生活のあらゆる側面に影を落としている。

インターネット上の言論の自由は厳しく制限され、少しでも政府を批判するような発言は検閲の対象となる。

このため、多くの人々は、本音を語る場をソーシャルメディア上ではなく、よりプライベートなグループチャットや友人との会話に求めている。

また、政府への不満や意見を表明する「請願(陳情)」活動も、厳しく取り締まられることが多く、庶民の声が政治に届きにくい状況が続いている。

彼らが望むのは、経済的な安定だけではない。安心して発言できる自由な空間、そして、社会の変化に能動的に関われる市民としての権利の保障である。

普通の中国人は、発展の果実を享受する一方で、物価高、教育競争、老後の不安、そして自由の制限という四重苦に直面している。

こうした状況を知ることは、私たち自身の社会を考える鏡にもなるだろう。

参考 :
『学区房』から見る中国義務教育の格差 張奇
Housing in Chinese Urban Villages: The Dwellers’ Perspective 他
文 / エックスレバン 校正 / 草の実堂編集部

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