
画像 : ミャンマーの位置 Valegos Mangenuit CC BY-SA 4.0
ミャンマーは、地政学的に極めて重要な位置に占めている。
インド洋への出口を持ち、東南アジアと南アジアを結ぶ接点であるこの国は、中国が進める巨大経済圏構想「一帯一路」において、戦略的な要衝とされてきた。
しかし、近年の中国による大規模なインフラ投資と経済介入は、ミャンマーを「債務の罠」に陥れ、国家の主権を実質的に侵食する「経済的侵略」の様相を呈している。
一帯一路とミャンマー経済回廊の正体

画像 : 2018年時点の一帯一路主要プロジェクト地図。鉄道、パイプライン、港湾、発電所の分布を示す『Infrastrukturatlas』 CC BY 4.0
中国のミャンマー戦略の中核にあるのが「中国・ミャンマー経済回廊(CMEC)」である。
これは中国雲南省からミャンマー北部を経由し、インド洋に面したチャウピュー港までを結ぶ巨大な鉄道、道路、パイプラインのネットワークだ。

画像 : 中国・ミャンマー経済回廊(CMEC)※拡大図
一見すると、発展途上にあるミャンマーの近代化を助ける恩恵のように映るが、その実態は中国のエネルギー安全保障を確保するための「生命線」の構築に他ならない。
中国はマラッカ海峡を通過せずに中東からの原油や天然ガスを国内に引き込むルートを渇望しており、ミャンマーはそのための通り道として利用されている。
建設資金の多くは中国からの融資で賄われており、ミャンマー側には莫大な借金が積み上がっている。
プロジェクトの利益の多くは中国企業に還流し、現地住民には低賃金の労働や強制立ち退きといった負の影響が押し付けられているのが現状だ。
チャウピュー深海港と軍事利用への懸念

画像 : 中国・ミャンマー経済回廊の終点とされるチャウピュー周辺の港湾地区(2018年) Tetsuya Kitahata CC BY-SA 4.0
最も象徴的な事例は、ラカイン州のチャウピュー深海港建設である。
このプロジェクトは中国国営の「中信集団(CITIC)」が主導しており、ミャンマー側は返済能力を大幅に超える債務を抱えるリスクに直面している。
スリランカのハンバントタ港が債務不履行の結果、99年間にわたって中国に租借された例があるように、チャウピューも同様の道を辿るのではないかという懸念が現実味を帯びている。
さらに、この港が商業目的だけでなく、将来的に中国人民解放軍の海軍拠点として利用される可能性も指摘されている。
もし中国がインド洋に軍事的な足場を確保すれば、地域のパワーバランスは劇的に変化し、ミャンマーは中国の「属国」に近い状態へと追い込まれることになる。
クーデター後の混乱に乗じる中国の影

画像 : 2021年2月の軍事クーデターを主導し、現在も軍政トップを務めるミン・アウン・フライン氏(撮影年不詳) Council.gov.ru CC BY 4.0
2021年2月のミャンマー軍による軍事クーデター以降、欧米諸国は軍政に対する経済制裁や武器禁輸を強化してきた。
一方、中国は同国の軍事政権との関係を維持し、インフラ投資や資源開発を通じて経済的影響力をさらに強めている。
国際社会から孤立した軍事政権にとって、中国は主要な「後ろ盾」であり、その代償として国家の利権を切り売りせざるを得ない状況にある。
ミャンマー北部のカチン州やシャン州では、希少金属(レアアース)や宝石、森林資源が中国資本によって乱開発されている。これらの資源は中国のハイテク産業を支える糧となり、ミャンマーの将来の発展に必要な富が吸い取られている。
また、国境付近では中国系マフィアによるオンライン詐欺拠点の形成など、経済的侵略は裏社会の拡大とも結びついている。
経済依存が招く主権消失の危機
経済的侵略とは、単に市場が占有されることではない。経済的な首根っこを掴まれることで、外交や内政における決定権を失うことである。
ミャンマーは今、中国の巨大な資本力という「静かな武器」によって、地図上の国境線はそのままに、その中身を徐々に変質させられている。この事態はミャンマー一国の問題に留まらず、ASEAN全体の結束やインド太平洋地域の安定を揺るがす深刻な脅威である。
ミャンマーが真の独立と繁栄を取り戻すためには、過度な中国依存からの脱却と、透明性の高い国際的な支援枠組みへの復帰が不可欠だが、その道のりは極めて険しい。
参考 : Media’s Perception of China-Myanmar Economic Corridor (CMEC)
文 / エックスレバン 校正 / 草の実堂編集部
























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