いま、新たな観光地として世界から注目を集めている国がある。
長らく、アメリカとの国交を断絶していたが、2014年12月に関係正常化交渉に入ることを発表し、2015年7月20日には両国の利益代表部が大使館に格上げされ、国交回復を成し遂げた国。
キューバ共和国である。
これまで社会主義国として、観光客への扉が重かったキューバは、いまも「古き良き時代」が色濃く残っている。そこが魅力でもあり、今後はアメリカを始めとして、世界の観光客が増加することが見込まれているのだ
そんなキューバという国はどのような国なのだろうか?
大国に翻弄され、社会主義を勝ち取った国
キューバ共和国(キューバきょうわこく、西: Republica de Cuba)、通称キューバは、カリブ海の大アンティル諸島に位置するラテンアメリカの共和制国家である。フロリダ海峡を隔てて北に145km先にはアメリカ合衆国のフロリダ州が存在する。首都はハバナ。
地理的に「アメリカの裏庭」と呼ばれるカリブ海にあり、キューバ革命以後は社会主義国となって、ソ連など東側諸国との結びつきが強まったため、アメリカにはこれを警戒されていた。
1492年10月27日、キューバ島はクリストファー・コロンブスの第一次航海でヨーロッパ人に「発見」され、スペイン人による征服が始まった。その後は、スペインと中南米の中継地点として著しく発展を遂げ、メキシコ市やリマに続くスペイン領アメリカ植民地第三の都市となったハバナには大学や要塞が建設された。
1898年、スペイン・アメリカ・キューバ戦争が勃発すると、アメリカ軍は瞬く間にキューバ全島からスペイン軍を駆逐し、戦争はアメリカ合衆国の圧倒的な勝利となる。
1902年5月20日にキューバ共和国は独立を達成し、400年に及ぶスペイン支配から解放され独立を勝ち取ったかに見えたが、それはスペインに代わるキューバの新たな主人、アメリカ合衆国による支配の始まりでもあった。
1959年、フィデル・カストロらはアルゼンチン人医師のエルネスト・チェ・ゲバラと出会い、ゲリラ戦訓練を受けた。
※チェ・ゲバラ 1960年3月5日(31歳)「英雄的ゲリラ」より
後に当時のキューバを独裁的に支配していたバティスタ大統領を国外追放すると、革命政権は社会主義化宣言を発し、キューバは西側諸国に対してその門を閉ざしたのである。
キューバの雪解け
※ラウル・カストロ国家評議会議長とオバマ大統領の首脳会談(2015年4月11日)
ソビエト連邦が崩壊し、冷戦が終わっても両国は長年に渡り敵対してきた。
しかし、アメリカ・キューバ両国はカナダやローマ教皇フランシスコの仲介で2013年から舞台裏での交渉を開始し、2014年12月18日にはアメリカのバラク・オバマ大統領とキューバのラウル・カストロ国家評議会議長がそれぞれ演説を行い、アメリカとキューバの国交正常化に向けた交渉を開始すると発表する。2015年4月、 パナマで行われた米州首脳会議の会場でオバマ大統領とラウル・カストロ議長による59年ぶりの米・キューバ首脳会談が行われ、国交正常化に向けて話し合われ、その後の国交回復に至った。
「キューバの雪解け」である。
同時に、かつては実質的な「アメリカ領」だったキューバへのアメリカ人観光客が増え始めた。今後は各地でアメリカナイズされる可能性が指摘されている。すでに、ホテルは値上り傾向にあり、アメリカの大手ホテルチェーンはキューバへの進出を狙っている。
つまり、「古き良きキューバ」に行くなら「今」なのだ。
文豪と酒
※エル・フロリディータ
1954年、『老人と海』でノーベル文学賞を受賞したアメリカの作家、アーネスト・ヘミングウェイもキューバの地をこよなく愛し、1960年までキューバに住んでいたほどだ。
そして、キューバとヘミングウェイを語る上で欠かせないのがカクテルである。
もともと、キューバでは、スペイン植民地時代からサトウキビ栽培が盛んだった。そのためサトウキビを原料にして作る蒸留酒・ラム酒がたくさん飲まれている。そうしたラム酒を使用したカクテルのなかでも世界的に有名なものに「モヒート」や「ダイキリ」、「キューバリバー」などがあるが、どれもキューバで誕生したものだ。
今でも、ヘミングウェイ特注のダイキリが飲めるEl Floridita(エル・フロリディータ)と、モヒートで有名なLa Bodeguita del Medio(ラ・ボデギータ・デル・メディオ)という2軒のバーが今でもある。ヘミングウェイは「我がモヒートはラ・ボデギータで、我がダイキリはフロリディータで」という言葉を残すほどにこの2軒のバーがお気に入りだった。特にフロリディータのヘミングウェイがよく座ったという席にヘミングウェイの実物大の銅像があることで有名である。
どちらも観光客が絶えない人気のバーだ。
葉巻の原点
キューバといえば、カクテルとともに有名なのがシガー(葉巻)である。
なぜ、キューバの葉巻が有名なのかというと、まず葉巻のオリジナルを生んだ国であり、最大の葉巻生産国だということだ。葉巻に使用されるタバコ葉は熱帯地域を中心に生産されており、生産される地域も限られる。キューバのハバナ葉で巻かれた葉巻は、特有の喫感があるため、それだけ世界に愛好家が多いということでもある。
有名なキューバ・ブランドでは、コイーバ、モンテクリスト、オヨ・デ・モントレイなどがあるが、そのブランド数は30以上という。しかも、社会主義国のためすべて国営なのだ。
世界的に禁煙が推奨されており、日本でも喫煙者が減少しているが、日本の紙巻煙草と葉巻は「別物」といっていい。煙を吸い込むのではなく、漂う香りを楽しむ。独特の甘い香りを発するので、紙巻の喫煙者でも好みが分かれるが、葉巻の愛好家にとっては、洋酒とともに香りを楽しんだり、コーヒーやチョコレートとも相性がいい。
噂話だが、キューバとの国交を断った時のアメリカ大統領、ジョン・F・ケネディはスタッフに急いでキューバの葉巻を買い占めさせ、それを確認してから国交断絶を言い渡したという。それほどまでに世界の著名人も好まれている。
当然、現地での価格も日本とは比較にならないほど安いので、興味のある方には試してもらいたい。なお、土産物として購入する場合は、偽者も多く出回っているということなので、パルタガス葉巻工場に併設されている正規のショップをオススメする。
マニアの聖地
キューバはクラッシックカーの宝庫でもある。
アメリカの実質的な支配下にあった時代に輸入された1940年代~1950年代のアメリカ製の自動車や、その後にソ連から輸入されたクラシックカーなどが現役で走っているのだ。
これは政府の方針として、新車の販売は2011年まで禁止されていたために中古車しか市場には出回らなかったという背景があるのだが、今ではそれが幸いした。クラシックカーであっても、壊れたら替えがないので、手入れも含めて良い状態のまま使用されてきた。
経済を再建する為、市場経済が部分的に導入されることになり、食料配給の段階的廃止、国営企業における雇用者の解雇、禁止されていた自動車売買の自由化などとともに、失業者の受け皿として自営業の免許25万人分が発行された。そのタイミングでアメリカ人観光客の受け入れが可能となった。そこで、以前は主にタクシーとして利用されていたこれらの車も、今では観光客向けにドライバー付きで貸し出す業者もいるらしい。
世界中のクラシックカーマニアからしたら天国のような場所だろう。
まとめ
キューバにはまだまだ魅力的な場所が色々ある。
豊かな自然とカリブのコバルトブルーの海。歴史ある街並み。のんびりとした国民性と陽気な音楽。物価も安く、おまけに比較的治安も良い。
今回は、興味を持ってもらうきっかけとして有名なポイントだけを紹介した。
しかし、旅行に行くなら早いほうがいいだろう。やがて、アメリカ資本が参入してしまえば、街の景色も変わってしまう。
今のキューバは、50年以上閉じていた蓋を開けたばかりの宝箱なのだから。
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