2016年12月19日、アメリカ合衆国第45代大統領が決まった。
出馬表明から選挙戦全般を通して、暴言を繰り返し、挑発的な態度をとり続けたドナルド・トランプ大統領となった現在、アメリカを取り巻く情勢はより厳しいものとなっている。北朝鮮問題、ロシア疑惑、国内の雇用政策など難問は山積みだ。
しかし、それは彼に限ったことではない。歴代の大統領もまた、時代時代において困難に直面するなかで大統領の座についている。今回も「強いアメリカ」を国民が求めた結果だったことは、世界の誰もが知っていることだ。
では、これほどまで強気な態度はどのように形成されたのだろう。そして、ドナルド・トランプはアメリカ合衆国大統領として暴走することはないのだろうか。
若くして不動産王に
トランプは、ドイツ系の父とスコットランド系の母の子として、1946年6月14日にニューヨークで生まれた。
正式には、ドナルド・ジョン・トランプ(Donald John Trump)。父のフレッド・トランプは、ニューヨークで不動産業者を営んでおり、トランプも自然と不動産事業に興味を持つ環境で育てられた。
大学在学中から父の会社を手伝い、1971年には父から同社の経営権を譲られたことで、不動産王への道が始まる。
ちなみに、大学も数少ない不動産専門学科のある「ペンシルベニア大学経営学部」で、経済博士号を取得して卒業しており、社会人になったときには仕事に必要な知識を身につけていた。
譲り受けた会社の社名を「トランプ・オーガナイゼーション」に変更したトランプは、ホテル事業とそれに付随するカジノ事業、オフィスビル開発事業へと経営の幅を広げ、1980年代には景気の回復を追い風に大成功を収め、すでに「不動産王」の地位を得ていたのだ。
実業家からメディア出演へ
1983年には、ニューヨークの5番街にエクイタブル生命保険との共同所有という形で、自己の象徴でもある「トランプ・タワー」を建設。
高さ202m、58階建ての高層ビルであり、高級アパートメント、ショッピングモール、オフィスエリアからなる複合施設であった。
※トランプ・タワー
アパートメントには、これまでにスティーヴン・スピルバーグ、マイク・タイソンといった時代を飾る人物が入居しており、現在ではハリソン・フォード、ビヨンセといったセレブが住んでいることでも有名だ。この頃から、トランプは自社の建物に「トランプ」の名を冠して自分自身の社会的知名度を高めていた。
その一方でメディアへの露出も積極的に行い、テレビドラマや映画などに出演、特に「ホームアローン2」では、自身を連想させる「プラザ・ホテルのオーナー」という役で出演している。
メディアで人気沸騰
そして、何といっても彼の名を全米レベルで有名にしたのは、2004年から放送されたNBCテレビの「アプレンティス(The Apprentice=見習い)」でのホスト役であった。
同番組ではプロデューサーも務め、トランプが経営する関連企業役員の座を賭け、下働きをする様子を番組内で取り上げるという形式と、参加者を切り落とす際の「お前はクビだ(You’re fired)」のセリフが流行になる。リアリティ番組としても大成功を収め、トランプ自身もその影響力の大きさを実感した。
この頃からだろう、公の場で歯に衣着せない言葉を放ち、大統領から犯罪者に対してまで思ったことをストレートに発している。しかし、それは回りくどい言い回しでもなければ、お高く留まっているわけでもない。自身がセレブでありながら、一般大衆の不満を言い放つのだから、人気が出ないわけがなかった。
繰り返す破産と再生
だが、そんなトランプにも多額の借金があることを知っているだろうか?
アメリカのゴールドマン・サックスだけではなく、ドイツ銀行、さらには中国の銀行に対しても借金を抱えている。
これは1980年代後半に航空業界への参入など、他業種への展開に失敗したためであった。
しかも、トランプはこれまでに4度も破産をしている。最初は1991年、そして、1992年、2004年、最後の破産申請は2009年である。大統領就任のわずか8年前のことであった。これは傘下のグループ企業の倒産も含めて原因として考えないといけない。
それでも、トランプは危機のたびに資産の売却や、不採算事業からの撤退、銀行からの借入れなどによりピンチを乗り越えてきたのである。
しかも、ロスチャイルドといった巨大企業や大物投資家からのサポートも受け、現在まで「不動産王」の地位は手放していない。一時は9億ドルもの負債を抱えながらも、会社を清算するのではなく「連邦倒産法第11章」により、会社を存続させながら債務整理を行い再生させたのだ。
トランプ大統領 としてのパフォーマンス
この破産の事実をもって「トランプに経済政策は期待できない」という声もある。しかし、この経験を乗り越える力こそトランプの強みとはいえないだろうか。
大統領就任演説では、一部で「それまでの強硬姿勢を少しは緩めるのではないか」という憶測も流れたが、力強く「アメリカ第一主義」を掲げた。就任後には矢継ぎ早に多くの大統領令に署名をして「メキシコとの国境に壁を作る」などの公約を実現させようとしている。
※ペンタゴンで大統領令に署名するトランプ
もちろん、これらがすべて実現するわけではないし、「中東からの入国制限」のように憲法に抵触する恐れのあるものもある。しかし、このパフォーマンスこそトランプがホワイトハウスの主になれた理由だ。トランプの暴言や批判は「パフォーマンス」の意味合いが強いことを忘れてはならない。
その受け手である国民がしっかり監視すれば、暴走大統領になることもないだろう。
最後に
この記事を書いている2017年10月現在、日本が注目しているのは、米軍の対北朝鮮への動向である。相変わらず、強気な姿勢を崩さないトランプだが、最後の一線を越えることは当分ないだろう。なぜなら、大統領の強力な権限を無謀なことに行使させないために議会や周囲のスタッフが目を光らせているからだ。
さらに国民は、イラク戦争の代償を支払わされ、それを清算できなかったオバマ政権に見切りをつけている。戦争アレルギー状態といってもいいだろう。その気持ちをすくい取りつつ、トランプ大統領にはパフォーマンスを見せてもらいたいものである。
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