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イギリスの国旗の歴史について調べてみた

我々日本人は「イギリス」という名称をよく使用する。
「イギリス人のジェームズさんです。」「ビートルズの故郷なのでイギリスに行ってみたいです。」
特に違和感なく使っているが、実は「イギリス」という言葉は日本以外では通じない。
日本の中で生まれた呼称なのである。
今回は「イギリス」という言葉が示す国についてと、そこに深い関係のある国旗ユニオンフラッグについてまとめた。

イギリスって何?

前述したようにイギリスといっても海外では通用しない。
イギリスという呼称が生まれた経緯にはいろいろと説がある。
1600年ごろから外国人が日本にやってくるようになり、そこで聞いたポルトガル語の「イングレス(Englishの意味)」が”エゲレス”という呼称になった。
あるいは江戸時代になってからオランダ語の「エンゲルス(こちらもEnglishの意味)」が”エゲレス”に繋がったという説もある。
エゲレス”の発生過程は明確ではないが、江戸時代には”エゲレス”が定着しており、江戸時代末期に発音が”イギリス”に変わったと言われている。
そんな”イギリス”だが、正式には「グレートブリテンおよび北アイルランド連合王国」(United Kingdom of Great Britain and Ireland)という。

グレートブリテンおよび北アイルランド連合王国 って何?

イギリスの国旗の歴史について調べてみた

地図(ブリテン諸島。Wikiより引用)

現在のグレートブリテンおよび北アイルランド連合王国を構成する地域は以下の3つである。

1:イングランド(グレートブリテン島の南部)
2:スコットランド(グレートブリテン島の北部)
3:北部アイルランド(アイルランド島の北部)

もともと別々の王国であったものが、歴史の中でくっついたり離れたりを繰り返し現在の形に落ち着いている。
このくっついたり離れたりには細かく段階があるのだが、後に触れる国旗に関連した大まかな部分を取り上げる。

1、イングランドとスコットランドがひとつになり、グレートブリテン王国となる

1603年に跡継ぎのいなかったエリザベス1世が亡くなり、遠縁のスコットランド王ジェームズ6世がイングランド王ジェームズ1世として即位し、イングランドとスコットランドの同君連合(国王は同じだが、議会や政府などは別々に存在している国家形態)が始まった。
後の1707年に二国は連合王国となり、ひとつの国に併合された。
実質、イングランドによるスコットランドの併合であり、格差が大きく、スコットランドとしては不満だった。

2、グレートブリテン王国がアイルランドとひとつになり、グレートブリテンおよびアイルランド連合王国となる

1801年にアイルランドを併合。
これは一方的な併合で、アイルランドとしては不満であった。

3、北部を除くアイルランドが離れ、グレートブリテンおよび北アイルランド連合王国となる

1922年に不満のあったアイルランドが独立。

このように別々の国がまとめられた経緯から、各地域ごとの民族意識はいまだに高く、2014年にスコットランドが独立するかどうかの住民投票が行われたのも記憶に新しい。
ちなみにこのときは反対55パーセントで否決された。
日本におきかえてみると、四国の人たちが独立国家を作りたいといって四国民の半分近くが賛成したということだろうか。

ユニオンフラッグの歴史

現在イギリスの国旗として使われているユニオンフラッグがこちらである。

画像:現ユニオンフラッグ。wikiより引用

お馴染みの国旗だ。
現在のこの国旗ができるまでには、イングランド・スコットランド・アイルランドがひとつになっていく過程と同じような流れがある。
まず、イングランド王国の国旗としてこちらの聖ジョージの旗があった。

画像:セント・ジョージ・クロス(セント・ジョージ・クロス(イングランドの国旗)wikiより引用

白地に赤の十字という柄で、セント・ジョージ・クロスと呼ばれる。
聖ジョージとはキリスト教の聖人の一人で、ドラゴンを退治したという伝説が残っている。

イングランドとスコットランドが連合王国となったとき、このセント・ジョージ・クロスにスコットランドの要素が加えられた。
スコットランドの国旗であったセント・アンドリュー・クロスである。

画像:セント・アンドリュー・クロス。wikiより引用

青地に白のX十字の柄。
聖アンドリューは十二使徒の一人で、スコットランドの守護聖人となっている人物で、彼を象徴した旗なのだ。
セント・ジョージ・クロスとセント・アンドリュー・クロスを組み合わせてできたのがこの初代ユニオンフラッグ

画像:初代ユニオンフラッグ(http://photosku.com/photo/5968/ より引用)

セント・アンドリュー・クロスの白色のクロスが分断されているので、スコットランドの人には評判がよくない。

次にアイルランドを併合した時に、例によってアイルランドの旗であるセント・パトリック・クロスが追加された。

画像:セント・パトリック・クロス。(聖パトリック十字。白地に赤サルタイアーである。wikiより引用

こちらはアイルランドの守護聖人である聖パトリックの旗である白地に赤のX十字の柄。
実はこのセント・パトリック・フラッグはそれまで伝統的に存在していたわけではなく、併合にあたって考案された柄に聖パトリックの名前をあてただけのようである。

セント・パトリック・フラッグの歴史の無さはさておき、これを初代ユニオンフラッグに組み合わせることとなった。
具体的には赤のX十字を加えるわけだが、このとき考慮されたのが三国の力関係である。

イングランドがトップ、その下にスコットランドとアイルランドが同格で並んでいる。
この関係をユニオンフラッグにも反映させなければならなかった。
それを解決したのがカウンターチェンジという方法である。


こちらが新しいユニオンフラッグだが、白と赤のX十字が実は上下のバランスが左右で異なっている。
左側は白の方が上にあり、右側は赤の方が上にある。

このようにしてスコットランドとアイルランドが同等の力を持っているということを表したのである。
その後、アイルランドは一部を残して独立したわけだが、そのときにはユニオンフラッグの変更はなかった。
一部ではあるものの、アイルランドはイギリスの一部なので変える必要はなかったのだろう。
しかしこれから先、ユニオンフラッグが姿を変える可能性はまだまだ残されている。

 

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大学時代にイングランド史を専攻。イングランド史に限らず、西洋史全般が好き。

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コメント

  1. アバター
    • 匿名
    • 2018年 8月 12日 8:52pm

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