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香水の歴史とクレオパトラ 「香水は薬だった」

香りでオシャレを楽しむ化粧品である香水は、精神の安定や前向きな気持ちに切り替える作用を持つことから『見えないオーラ』ともいわれている。

身に付けることで相手に好印象を与え、清潔感をも演出する効果を発揮する。

香水の専門知識を生かして活躍している『フレグランスコーディネーター(フレグランスソムリエ)』という職業は企業や個人に対し、相手の気持ちや環境に配慮した適切な香りを提案できる優れた人材として注目を浴びている。

種類豊富な香水

香りへの関心が高い海外での活躍も期待できる新たな職業である『フレグランスコーディネーター』を目指し、香水の専門知識を学ぶ人々も増えてきている。

そんな私たちの身近な存在ともいえる香水の歴史を辿っていくと、当初は化粧品としての役割ではなく、宗教儀式や医学療法に役立てられていたことが分かった。

香水誕生のきっけにはエジプト女性の美意識が関係していた!?

香水の歴史には多くの諸説が存在するが、古代エジプトで使用されていた『香油(こうゆ)』が香水の原点とされている。

『香油』とは、樹脂や花の根、果実から抽出された天然香料に植物油を合わせたもので、日本では「アロマオイル」と呼ばれることが一般的だ。また『香油』には、アルコール成分が含まれていないため、宗教上アルコールに触れることができないイスラム教徒が多く暮らす国々では、衣服や肌に『香油』を付けて香りを楽しむ習慣がある。

古代エジプトでは、宗教儀式である焼香や故人を埋葬する際の防腐や防臭効果に活用されていた『香油』だが、香りへの関心が非常に強かったエジプト王朝最後の王女「クレオパトラ7世」のように美容に気を遣う女性たちの間では、『香油』を化粧品として使用し、香りで美を磨く意識が高かったという。

生前「クレオパトラ7世」は、バラやサフランといった高貴な花の香りを好んでいたという記録も残されていたため、その記録を参考に『クレオパトラの香り』と題した香水も開発されている。

クレオパトラ7世が愛したとされるサフランの花

医薬品から品格まで幅広い役割を担う香りの影響力

古くから「香りは命の再生を助ける力がある。」と信じられてきたエジプトでは、『香油』が医薬品として扱われていた時代もあった。

香りに触れることで、「精神の安定を保つことができる。」「睡眠不足が解消され免疫力が上がった。」「十分な睡眠が取れて、風邪予防にも繋がった。」など体調管理に適した効果が多く報告されたこともあり、エジプトの人々にとって香りは生活に欠かせないものとなった。これが自然療法『アロマセラピー』の始まりともいえる。

『アロマセラピー』という名称が定着する前の日本では、『香薬(こうやく)』と表現されていた。

薬効があるハーブのイメージ

ヨーロッパの貴族たちの手に『香油』が渡るようになった頃には、「香りはオシャレの一部として楽しむもの」という概念が確立していた。

防臭目的で使用することよりも、華やかな洋服を着るように自分の地位や品格を表す手段として心地よい香りを放つことが重要だと考えられていたからだ。

その後、ヨーロッパから世界中に『香油』が伝わる過程で製造技術の改良が進み、より高い香りの持続性を強化させるため、成分にアルコールや精製水を加えた現在の香水が誕生した。

絶世の美しさを誇るエジプト製の香水瓶

ガラス工芸発祥の地でもあるエジプトでは、香水を保管するために造られた煌びやかな『香水瓶』が有名だ。

『香水瓶』に描かれた細かい模様と幻想的な色合いは、まるでファンタジー映画に登場する魔法使いが持っているかのようなデザインである。

香水瓶

一つ一つ職人の手で造られている繊細な『香水瓶』は、デザインの全てが世界に一つだけの一点物であり、部屋に飾るだけで異国情緒漂う雰囲気が広がる。

中には『クレオパトラ ボトル』と称された「クレオパトラ7世」のイメージを表現した『香水瓶』も数多く造られていることから、エジプトで香水を愛した第一人者としての彼女の影響力の偉大さを実感する。

香水が与える安らぎと癒し、そして自信に満ちた心の余裕

私たち人間は、毎日の生活の中で植物から日用品に至るまで数えきれないほどの香りに触れている。人間が植物から抽出された香りに触れることは直接、脳や心といった身体全体に『安らぎ』を与える効果があり、その効果を活かした療法『アロマセラピー』は、古代エジプトの時代から受け継がれてきた。

香りが宗教行事に取り入れられてきた背景には、香りに秘められた遠い記憶を呼び覚ます力が関係しているとも考えられる。今でも寺院での参拝や故人を偲ぶ法要の際にお香が用いられるのは、魔除けの意味合いの他に、大切な人を懐かしむ人々の心を香りが癒やしてくれる効果があるからだ。

いつしか香りが与える『安らぎ』や『癒し』は、香りを身に付ける人自身の印象を演出するものへと変わり、美意識への高まりと共に香水の需要も高まった。香水は身だしなみを整える上で必ず必要なものとは限らないが、香りを身に纏う余裕を持つことで、自分に自信がついたり、自然と気持ちを切り替える習慣が身に付く。

自分が関わる環境や人々に配慮しながら香水を選び、香りを楽しむことは、充実した毎日を送る切っ掛けに繋がるのではないだろうか。

 

草の実堂編集部

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草の実学習塾、滝田吉一先生の弟子。
編集、校正、ライティングでは古代中国史専門。『史記』『戦国策』『正史三国志』『漢書』『資治通鑑』など古代中国の史料をもとに史実に沿った記事を執筆。

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