大江広元「京より続々と知らせが届いております。まずは目付役の土肥実平殿」
木曽義仲(演:青木崇高)を討ち取り、鎌倉にいる源頼朝(演:大泉洋)のもとへ御家人たちから続々と報告書が届きました。
頼朝「うむ(書状を広げる)……何じゃこれは……」
日ごろロクに筆も持ったことがないのでしょう。大張り切りで書いたものの、ほぼ判読不可能な土肥実平(演:阿南健治)の書状や、ゆるイラストを入れて工夫したものの、やはり読めない和田義盛(演:横田栄司)の書状。
比企能員「絵はかわいらしゅうござる」
頼朝「かわいさは求めておらぬ。次!」
江間小四郎義時(演:小栗旬)はと言えば、日ごろの努力ゆえか中身は確か……ですが、真面目すぎるせいかあれもこれもと盛り込み過ぎで、内容が頭に入って来ません。
(劇中では、文章の行間にもびっしりと注釈や追記がしてあり、受験生の教科書みたいになっていましたね)
北条時政「……よく言い聞かせておきます」
そこへ来ると、流石は文武両道の梶原景時(演:中村獅童)。
広元「戦の進み方や御家人の主な働きなど肝要なことのみ手短に記され、実に読みやすく見事な出来栄えにございます」
能員「お読みにならないのですか」
頼朝「書いてあることは分かっておる。九郎から朝一番に知らせが届いた」
安達盛長(演:野添義弘)に広げさせた書状には、源義経(演:菅田将暉)がシンプルかつデカデカと記した「木曽討果」の文字が踊っています。
頼朝「義仲を討ち取ったぞ!」
「「おめでとうございます!」」
……というくだり。実平と義盛は「がんばりましょう」、義時は「もうすこし」、景時は「よくできました」……が、やはり義経のスピードには敵わないという趣向になっていました。
これは単体で充分に面白いエピソードですが、元ネタである鎌倉幕府の公式記録『吾妻鏡』と比較してみると、より楽しめるかも知れません。
流石は平三……感心する頼朝
壽永三年正月小廿七日丁巳。未尅。遠江守義定。蒲冠者範頼。源九郎義經。一條次郎忠頼等飛脚參着鎌倉。去廿日遂合戰。誅義仲并伴黨之由申之。三人使者皆依召參北面石壷。聞食巨細之處。景時飛脚又參着。是所持參討亡囚人等交名注文也。方々使者雖參上。不能記録。景時之思慮猶神妙之由。御感及再三云々。
※『吾妻鏡』寿永3年(1184年、元暦元年)1月27日条
時は寿永3年(1184年)1月27日のお昼過ぎ(正午~16:00)。京都で戦っていた御家人たちからの使者が次々と鎌倉へ到着しました。
御家人の顔ぶれは安田遠江守義定(やすだ とおとうみのかみよしさだ。武田信義の叔父)、蒲冠者源範頼(演:迫田孝也)、源九郎義経、一条次郎忠頼(いちじょう じろうただより。武田信義の子)らです。
使者たちは1月20日の合戦で木曽義仲とその家来たちを誅した(罰として殺した)旨を報告しました。
「……で?」
頼朝が聞きたいのは「戦さに勝った」「義仲たちを殺した」なんて話しじゃありません。
「そんな事くらい、そなたらの顔を見れば一目で判る。ガキの使いじゃあるまいし、もそっと詳細を報告せんかい!」
例えば誰がどう戦い(軍勢の運用や駆け引き、作戦など)、どのような働きをしたとか……今後に役立つ戦闘ノウハウや、論功行賞の参考となる詳細な報告がまるでありません。
頼朝「と言うか、戦果の報告に書状の一通も持っておらんとはどういうことだ!」
使者甲「いやぁ、それがしらもただ必死で戦っていただけですし……」
使者乙「で、ケリついたんで大将から『今すぐひとっ走りお伝えして来い』って言われただけですし……」
使者丙「いち早くお伝えした方が、鎌倉殿にも喜んでいただけるかなぁ、と思った訳でして……」
う~ん……頭を抱えた頼朝は、彼らの中からまだ記憶が残っていそうな三人を御所の北庭(北面石壷)に呼び出し、戦闘の詳細を訊き出そうとします。
そこへやって来たのが、梶原景時からの使者。今度はちゃんと書状を持っていました。
「おぉ、流石は平三(へいざ)……おい、そなたらもこれを見よ。敵の誰を討ち取り、誰を捕虜にしたかなど、キチンと交名(きょうみょう。名簿)にまとめてある。しかも注文(ちゅうもん/しるしぶみ。注釈を記した添え状)によってその者の出身や身分なども細かく分かるから、恩賞の査定もしやすくなるのじゃ」
「「「なるほど……」」」
「次からはこういう感じの書面にまとめて持参させるよう、主に伝えよ。よいな」
「「「ははあ……」」」
とまぁこんな具合に、頼朝は御家人たちに対して「自分が何を望んでいるのか」を事あるたびに伝え続け、熱心に教育したのだとか。
まとめ・大河ドラマと『吾妻鏡』を比較
大河ドラマ:土肥実平、和田義盛、江間義時、梶原景時、源義経
※巧拙こそあれ、全員が一応書状を出している
『吾妻鏡』:安田義定、源範頼、源義経、一条忠頼、梶原景時
※書状を出したのは景時のみ
以上、大河ドラマと『吾妻鏡』を比較した書状エピソードですが、梶原景時の才覚が現れている点が一致していました。
その後も頼朝の懐刀として活躍(暗躍?)する景時。他にも色々ありますので、また紹介したいと思います。
※参考文献:
- 五味文彦ら編『現代語訳 吾妻鏡2 平氏の滅亡』吉川弘文館、2008年03月
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