宇宙

世界初 「木造の人工衛星」 2024年2月に打ち上げ 【日本人元宇宙飛行士発案】

「木造の人工衛星」

画像 : 地球と従来の人工衛星 イメージ

日本人元宇宙飛行士が発案した「木造の人工衛星」

NASAと日本のJAXA(宇宙航空研究開発機構)は、宇宙飛行をよりサステナブル(持続可能)なものにするために、2024年2月に世界初の「木造の人工衛星」を宇宙に打ち上げることを計画している。

木造の人工衛星の打ち上げは実現可能だ」と発案、確信していた元宇宙飛行士の土井隆雄氏が2016年、京都大学で「宇宙総合学研究ユニット」特定教授に就任。

「宇宙における木材資源の実用性に関する基礎的研究」なるプロジェクトを立ち上げたことが発端だ。

「木造の人工衛星」

画像 : 元宇宙飛行士で京都大学特定教授の土井隆雄氏 
public domain

さらに2020年、京都大学と住友林業による研究共同チーム「宇宙木材プロジェクト」も設立された。

2022年3月、ISS(国際宇宙ステーション)の日本実験棟「きぼう」の船外曝露プラットフォームで「木材の宇宙曝露実験」を開始。

2022年12月23日、10ヶ月に及ぶ実験を終え、若田光一宇宙飛行士が木材試験体の回収を行った。

「木造の人工衛星」

画像 : 若田光一宇宙飛行士  宇宙滞在時間は合計504日18時間35分、2023年3月時点で日本人最長記録を持つ 
public domain

2023年3月、回収された木材試験体を、NASAとJAXA(宇宙航空研究開発機構)を経て、京都大学と住友林業の研究共同チームが無事に受理。

マイクロスコープによる外観測定、質量測定などの検査により、木材の耐久性が確認された

研究共同チームは、

「3つの木材標本をテストしたところ、宇宙曝露後の変形は見られなかった。

著しい温度変化や、強烈な宇宙線、危険な太陽粒子に10ヶ月間さらされた宇宙空間の極限環境にも関わらず、試験では亀裂、反り、剥離、表面損傷などの分解や変形がなかったことを確認した。」

と実験の成功を発表した。

宇宙開発に携わる専門家たちも「木製の人工衛星打ち上げの実現化」を確信することになった。

木造の人工衛星「リグノサット」はマグノリア(ホオノキ)製

打ち上げられることに決まったのは、モクレン属であるマグノリア(ホオノキ)材の人工衛星「リグノサット」。

「リグノサット」は、エスペラント語の「木(Ligno)」と、英語の「人工衛星(Satellite)」を組み合わせた造語として命名された。

「木造の人工衛星」

画像 : 木造人工衛星リグノサット c 有人宇宙学研究センター

研究共同チームは、マグノリア、サクラ、カバノキの 3 つの木材サンプルを ISS に送り、宇宙飛行士らが真空の宇宙空間にさらされたモジュール内に保管、割れたり壊れたりする可能性がもっとも低いマグノリアを人工衛星に使用することを決定した。

マグノリアは材質が均一で温度変化に強く、軽くて割れにくいため、日本刀の鞘にも使用されることで知られている。

「木造の人工衛星」

画像 マグノリア(ホオノキ)の幹 c INAKAvillage211

マグノリアの木で作られる人工衛星「リグノサット」はマグカップサイズと非常にコンパクトで、2024年2月に地球の軌道に打ち上げられる予定だ。

成功すれば、世界初の木造人工衛星が誕生することになる。

「木造の人工衛星」の目的は宇宙環境汚染改善

木は、生物のいない真空の宇宙では燃えたり腐ったりすることはないが、地球の大気圏に再突入すると焼き尽くされて細かい灰に分解されるため、宇宙ゴミで汚染されつつある地球軌道上の宇宙環境を保護する目的として最適だと考えられている。

現在、地球の軌道上には、任務を終えた衛星や使用済みロケットステージの塊などの宇宙ゴミを含む、9,300トンを超える宇宙物体が浮遊しながら周回しているという。

それらは軽量のチタンやアルミニウムなど光沢のある金属で作られているため、その影響が地球の夜空にまで及び、明るさが10%以上増加、地上で光害を引き起こしているだけでなく、遠方の宇宙現象を検出することも困難になりつつあるという。

共同研究チームは、「リグノサット」ような木造の人工衛星は、宇宙ゴミとしての害は少ないはずだと確信している。

人類の宇宙への関心、民間人による宇宙旅行が増えつつある今、元日本人宇宙飛行士が発案した木造の人工衛星「リグノサット」は、宇宙における生分解可能な素材活用の第一歩となり、宇宙ゴミによる宇宙環境汚染を軽減させるパイオニアとなることが期待されている。

参考 : NASA and Japan to launch world’s 1st wooden satellite as soon as 2024. Why? | LIVE SCIENCE

 

藤城奈々 (編集者)

藤城奈々 (編集者)

投稿者の記事一覧

ライター・構成作家・編集者
心理、人間関係のメカニズム、スピリチュアル、宇宙
日本脚本家連盟会員

✅ 草の実堂の記事がデジタルボイスで聴けるようになりました!(随時更新中)

Audible で聴く
Youtube で聴く
Spotify で聴く
Amazon music で聴く

コメント

  1. この記事へのコメントはありません。

  1. この記事へのトラックバックはありません。

関連記事

  1. 【史上初】 火星を飛行したヘリコプターが損傷し、ミッション終了へ…
  2. 宇宙の果て について調べてみた 「470億光年離れた場所?」
  3. 【宇宙のガソリンスタンド計画】ついに始動! 「死んだ衛星」に燃料…
  4. JAXA「SLIM」の太陽電池パネル 「月の公転で発電再開の可能…
  5. 「流星・隕石・流星体、小惑星、彗星」 違いについて分かりやすく解…
  6. JAXAの小型月着陸実証機(SLIM)の続報
  7. 100年以上前に墜落した「世界最大の隕石」の謎
  8. 世界初の木造人工衛星「リグノサット」 ~なぜ木造の衛星を打ち上げ…

カテゴリー

新着記事

おすすめ記事

九戸一族とおかんの悲劇について調べてみた

貞女おかんの悲話が、九戸(くのへ)城(岩手県二戸市)での豊臣軍の無差別虐殺・阿鼻叫喚の地獄へと結びつ…

渋沢栄一の知られざる功績 ~前編「社会福祉事業を終生続ける」

渋沢栄一とは2021年の大河ドラマ「青天を衝け」の主人公・渋沢栄一(しぶさわえいいち)は…

【光る君へ】 一条天皇(塩野瑛久)は『大鏡』にどう書かれているのか 「母親の方が詳しい?」

六十六代一条天皇(いちじょうてんのう)塩野 瑛久(しおの・あきひさ)66代天皇。道長の甥…

【男を破滅させる魔性の女】 ルー・ザロメとは? 「ニーチェが狂った元凶?」

19世紀後半から20世紀初頭に活躍したロシアの女性思想家、ルー・ザロメは、その魅惑的な人格と自由奔放…

【近代から現代へ】 資本主義VS共産主義 「ヒトラーの台頭と野望」

第一次世界大戦におけるアメリカの参戦は、従来の孤立主義を脱却し、民主主義を守るためのイデオロギーに基…

アーカイブ

PAGE TOP