恐竜

ギガノトサウルス ~T-REXよりも大きなアルゼンチンの支配者

恐竜を好きになる条件

ブラキオサウルス(B. altithorax)の生態復元想像図

筆者が保育園児だった頃、大きい生き物への憧れで恐竜を好きになり、当時最大級の恐竜だったブラキオサウルスを好きになった。

今でもブラキオサウルスが一番好きな恐竜で、自室には小学校の頃にあったイベントか何か(家族旅行の宿泊先にあったかも?)のお土産で家に連れて来たブラキオサウルスのグッズがある。

歳を重ねた今、好きな恐竜の条件を整理すると草食恐竜はやはり竜脚類に目がなく、「大きな恐竜が好き」という自分の好みや価値観にほとんど変化はない。

その一方で、真面目に好きな条件を考える事のなかった肉食恐竜に対する意識は明確に変化しており、自分の中で好きな肉食恐竜の条件が生まれている。

以前のアロサウルス回でも書いたのだが、肉食恐竜も大型の方が好きで、T-REXのように腕が極端に短いアンバランスな姿ではなく、アロサウルスのようにバランスのいい、美しいフォルムの恐竜が好きである。(T-REXや過去に紹介したメラクセスのようにアンバランスだからかっこ悪いとまでは言わないが、自分は手足の長い肉食恐竜の方がかっこいいと思っている

ジュラ紀最強の肉食恐竜 アロサウルス
https://kusanomido.com/study/fushigi/dinosaur/59129/

ギガノトサウルス

画像 : アロサウルス ※筆者撮影

そういう意味で自分のストライクゾーンに入った肉食恐竜を絞ると、アロサウルス上科に辿り着いた。

細かい分類の説明は省くが、アロサウルス上科はアロサウルス科は勿論、カルカロドントサウルス科など白亜紀に繁栄した大型肉食恐竜の科も含まれており、アロサウルスに負けない美しいフォルムは見ていて飽きない。

今回は、アロサウルス上科の恐竜から最大級のサイズを誇るギガノトサウルスを紹介する。

史上最大の肉食恐竜発見?

1993年、アルゼンチンで新種の大型肉食恐竜の化石が発見された。

保存状態良好な化石は当時世界を騒がせていたT-REX「スー」よりも大きいと言われ、恐竜ファンから大きな期待を集める。

ギガノトサウルス

画像 : ギガノトサウルス 復元された頭骨・前肢・後肢のあるホロタイプ骨格。wiki c Simona.cerrato

その恐竜にはT-REXを上回る最大の肉食恐竜に対する期待と、発見者であるルーベン・カロリニにちなんで「ギガノトサウルス(巨大な南のトカゲ)・カロリニイ」と命名された。

大型獣脚類はいつの時代も注目の的であり、ギガノトサウルスが最大級(=最強)のサイズを持っているとなれば「真の恐竜の王者登場」と期待しない方が難しい。

筆者も当時の図鑑でT-REXよりも大きく描かれたギガノトサウルスを見てワクワクしており、世界もギガノトサウルスの研究の進展に期待していた。

残念?あるある?ギガノトサウルスを襲った事件

大きな期待とともに始まったギガノトサウルスの研究だが、研究が進むにつれて色々と「残念」な事実が明らかになる。

ギガノトサウルスは当初全長14メートルとT-REX(全長13メートル)よりも大きいとされていたが、化石がまだ完全には見付かっていない事もあり、安易に決めるのは早計と指摘されたのである。(子供の頃に見た図鑑も今思えばギガノトサウルスが大袈裟なまでに大きく、T-REXが異常までに小さかった記憶がある

例えば、発見された頭骨の一部からどれくらいの大きさだったか推定して数字を出すのは現在でも一般的な方法である。

だが、ギガノトサウルスの大腿骨が当時最大級のサイズだったT-REXのスーより大きいから、頭骨もT-REXより長いからといって、本当にギガノトサウルスの方が大きかったとは限らない。

研究が進むにつれてギガノトサウルスのサイズは何度も変わっており、今後もサイズが変わる可能性が大いにあるが、今のところ全長12-13メートルで落ち着いており、T-REXとほぼ同じかやや大きいレベルという説が一般的である。

ギガノトサウルス

画像 : ホロタイプ標本に基づく推定(薄緑色)と割り当てられた標本に基づく推定(濃い緑色)の大きさ比較 wiki c KoprX

ここで問題になるのは、当時小学生だった自分の目を輝かせてくれた、やたら大きなギガノトサウルスの姿が否定されてしまった事実である。

そう、ギガノトサウルスの化石が完全に発見されていないのをいい事に、サイズを「盛って」発表してしまった訳だ。

ギガノトサウルスの実像

少々意地の悪い表現になってしまったが、ギガノトサウルスの発見当初はインターネットという名前を日本で聞く機会はなく、研究設備も現在に比べて大きく劣っていた。

当時の環境だとサイズを大きく見積もって発表するのは決して珍しい話ではなく、T-REXも小学生の頃の図鑑を確認したら全長15メートルと書かれており、現在の13メートル(12メートル説もあり)に比べると遥かに大きかった。

恐竜の研究に於いてサイズの修正や見た目が大きく変わるのは日常茶飯事なので新たな情報に一喜一憂するのはナンセンスではあるが、ロマンの塊である大型肉食恐竜が小さくなるのは淋しいものがある。

とはいえ、長い手足の美しいフォルムは現時点では否定されていないので、T-REXよりも大きく、自分の中で一番かっこいい肉食恐竜の地位を守り抜いて欲しい。(不完全な情報に乗せられて勝手に期待していた筆者が悪いのであって、ギガノトサウルスに一切罪はない事も同時に強調したい

ギガノトサウルスは最強だったのか?

ギガノトサウルス

画像 : 「レディ・ギガ」という愛称のある原寸大模型。フランクフルト中央駅にて。 wiki c Eva K.

T-REXを上回る最大の肉食恐竜から(実際はあるあるだが)まさかのサイズダウンとなってしまったギガノトサウルスだが、そのスペックはどのレベルだったのだろうか。

頭骨の形状からT-REXほど頑丈な顎ではなく、歯も小さくT-REXのように噛み砕く事には適さなかった(鋸歯で傷付けて失血死させていた)と見られており、比較するとギガノトサウルスに不利な意見が目立っている。

また、体格に於いてもT-REXの方が幅があり、全長は小さくともパワーや体格はT-REXの方が上で、戦ったならギガノトサウルスよりも強かったという説がある。(時代も生息地も違うため実際に両者が戦う事はなかったが、仮に一緒に並んだら体格面に勝るT-REXの方が強そうに見えると思う

画像 : ヘルシンキ国立自然史博物館のギガノトサウルス復元骨格 wiki c Sukram-C

基準がT-REXとなっているためどうにもギガノトサウルスが劣っているような書き方になってしまったが、最大級のサイズを持ったギガノトサウルスが弱いはずがなく、当時の南米に於ける頂点捕食者であった事は紛れもない事実である。

現時点では文句なしで南米最強の肉食恐竜であり、アルゼンチンの支配者として今後も君臨し続けるだろう。

 

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