恐竜

ヘレラサウルス ~三畳紀最強のヤバイ恐竜

上野で出会ったヤバイやつ

ヘレラサウルス

画像 : 恐竜博 著者撮影

浦和レッズが3度目のアジア制覇を果たした2023年5月6日、29年来のレッズサポである筆者は、埼玉スタジアムに向かう前に友人と上野の国立科学博物館にいた。

本当は恐竜博を二人で見て、そこで出会った恐竜を紹介したかったのだが、予約制で完全に出遅れてしまったためチケットが手に入らず、予定変更で博物館で恐竜巡りをする事にした。

7年ぶりに博物館で再会した恐竜達は相変わらずの存在感で、T-REXよりも美しいアロサウルスのフォルムに惚れ惚れしていたが、改めて恐竜を見て新たに目を引いたのはヘレラサウルスだった。

ヘレラサウルス

画像 : エオラプトル 著者撮影

同じく化石が展示されていたエオラプトルとともに最古の恐竜の一種という知識はあったが、実際にヘレラサウルスの化石と対面して初期の恐竜ならではの特徴的な姿に惹かれた。

今回は、最古の恐竜の一つであり、三畳紀最強の恐竜として知られるヘレラサウルスを紹介する。

初期の恐竜ならではの魅力

ヘレラサウルス

画像 : ヘレラサウルス 著者撮影

1959年、アルゼンチンのサン・ファン付近で恐竜の化石が発見された。

その恐竜は発見者のヴィクトリーノ・エレーラ(Victorino Herrera)にちなんで、ヘレラサウルスと命名されるが、当初は手掛かりとなる化石が少なすぎたため、長い間まともに研究が進まなかった。

発見から29年経った1988年、ポール・セレノによって頭骨を初めとしたほぼ完全な化石が発見され、実際に骨格を見て惹かれたヘレラサウルスのユニークな特徴が明らかになる。

ヘレラサウルスの特徴

ヘレラサウルス

画像 : ヘレラサウルス 著者撮影

上手く写真を撮れていないので分かりづらいが、ヘレラサウルスは手足ともに5本の指を持っている。

これは原竜脚類(現「原竜脚下目」)にも見られる初期の恐竜ならではの特徴で、アロサウルスの指が手3本、足4本と少なくなっている事に進化の過程を感じる(それと同時に肉食恐竜だからと単純にヘレラサウルスが直接アロサウルスに進化した訳ではない)が、人間と同じ5本の指に親近感を持つとともにヘレラサウルスの「個性」として更に気に入った。

外見だけ語るのもヘレラサウルスに失礼なので、身体の特徴を解説すると、ヘレラサウルスは骨が空洞になっており、素早く獲物を仕留める事が出来た。

当時の大半の生物より大きな身体を持ちながら、俊敏に動き回るヘレラサウルスが獲物である草食動物にとって脅威だった事は想像に難くないだろう。

また、ヘレラサウルスの顎は有鱗目(ゆうりんもく、ヘビやトカゲの仲間)のように柔軟な構造で、大きく口を開ける事が出来た。

これは恐竜としては珍しい特徴であり、ヘレラサウルス本当に獣脚類なのか、そもそも「恐竜なのか」という議論の的にもなっているが、それは最後に触れたいと思う。

ヘレラサウルスは当時最強だったのか?

https://youtu.be/PCA2smasdIc

資料によってバラつきがあるが、全長最大6メートル(小学生の時に見た図鑑では3メートル)とされるヘレラサウルスは恐竜黎明期に於いて最大級のサイズ(体重350キロ)を誇っており、恐竜としては文句なしに最強だった。(サイズ含め近縁種とされるフルグエンリサウルスも存在するが、研究が進んでいないためここではヘレラサウルスを最強の恐竜とする)

画像 : ヘレラサウルス 画家による生体復元 wiki c Fred Wierum

だが、三畳紀には恐竜以外にも大きな肉食生物が存在しており、ヘレラサウルスが登場して即地上の支配者になったと考えづらいのも事実である。

筆者が初期の恐竜が当時の地上で最強だったという説に疑問を持つ根拠は、ワニの存在だ。

正確にはワニの祖先である「クルロタルシ類」だが、現在のワニの特徴をいくつも持った彼らは恐竜の存在した時代を通して大型獣脚類と食物連鎖の頂点を競う関係だった。

三畳紀後期のアルゼンチンにはサウロスクス(全長7メートル、最大9メートルになった説もある)という巨大なワニの祖先がおり、ヘレラサウルスとは時代も生息地も重なっていた。

画像 : サウロスクス wiki c Nobu Tamura

どちらが強いか気になるところだが、ヘレラサウルスがワニと争った証拠はなく、理由もなく戦う事もないから上手く共存していたはずなので、どちらが強いか想像という名の考察をするしかない。

単純に両者のスペックを比較すると、サイズを考えたらやはりサウロスクス有利で、スピードというヘレラサウルスのアドバンテージでも苦戦は避けられなかったと予想する。

ヘレラサウルスの勝ち筋を考えたが、まだ進化の途中で、完全な支配者となる準備が出来ていないヘレラサウルスに最強を求めるのは困難と判断し、自分の中で三畳紀の頂点はサウロスクスという結論になった。

それでも、ヘレラサウルスが当時の生態系で最強の一角を担っていたのは紛れもない事実である。

ヘレラサウルスは恐竜なのか?

画像 : 獲物のリンコサウルス類(幼体)を咥えたヘレラサウルスの復元模型 wiki c Eva K.

サウロスクスとの最強考察の前に触れた「ヘレラサウルスは本当に恐竜なのか?」という話だが、特徴があまりにも原始的すぎる(前述した顎の構造など獣脚類にはないものが多い)ため、今でも獣脚類に分類すべきか疑問視する声がある。

現在は肉食恐竜の1グループであるヘレラサウルスのままで進化が止まり絶滅してしまった(別の恐竜が獣脚類へと進化した)という説が主流だが、獣脚類へと進化した別の恐竜は北米で繁栄したコエロフィシスになるまでどのような進化をしたのか、興味は尽きない。

初期の恐竜として最強の名を手にしながらも生き残れなかったのは残念だが、ヘレラサウルスが独自の進化を遂げながらも早期に絶滅したという説は、初期の恐竜全てが後に繁栄する恐竜の祖先ではないという、恐竜の研究に於ける重要な手掛かりの一つである。

恐竜黎明期の頂点を極めながら、更なる進化をする事も生き延びる事もなく表舞台から消えたヘレラサウルスだが、初期の恐竜ならではの独特な姿は、唯一無二の魅力として決して色褪せない輝きを放っている。

 

アバター

mattyoukilis

投稿者の記事一覧

浦和レッズ、フィラデルフィア・イーグルス&フィリーズ、オレゴン州立大学、シラキュース大学を応援しているスポーツ好きな関羽ファンです。

コメント

  1. この記事へのコメントはありません。

  1. この記事へのトラックバックはありません。

関連記事

  1. コリトサウルスの貴重な発見【ミイラ化石からスターダムへ】
  2. スピノサウルスの帆の謎 【ラジエーター説、泳ぎ説、筋肉説 他】
  3. 恐竜「イグアノドン」を発見した化石マニア医師「ギデオン・マンテル…
  4. 恐竜絶滅はネメシスの怒り!?「驚くべき恒星の事実」
  5. 恐竜界の革命児 ヴェロキラプトル 【ジェラシックパークで大ブレイ…
  6. ギガノトサウルス ~T-REXよりも大きなアルゼンチンの支配者
  7. 恐竜進化の証人 原竜脚類 「初期の恐竜の代表格」
  8. ウルトラサウロス 「消えた伝説の超巨大恐竜」

カテゴリー

新着記事

おすすめ記事

「日本よりも出生率が低い国」 台湾人の健康状態について調べてみた

97歳のご婦人先日、友人の紹介で台湾の97歳のご婦人を訪ねた。彼女は日本語と台湾語と…

黒田騒動 ~筆頭家老が藩主を訴えた前代未聞の江戸三大お家大騒動

黒田騒動とは黒田長政は、豊臣秀吉の軍師・黒田官兵衛の息子で、関ヶ原の戦いで徳川家康を助け、福岡藩…

可児才蔵【個の武には優れるもなかなか主君に恵まれなかった武将】

笹の才蔵可児吉長(かによしなが)は、一般には才蔵(さいぞう)の名で知られている武将です。…

小桜姫が神様に祀られ、人々を救った三浦の伝承 「戦国時代、夫と死に別れた悲劇のヒロイン」

古来「死して護国の鬼たらん」などと言いますが、自分の死後も故郷や大切な人々を見守っていきたいと願う方…

「家康から嫌われまくっていた次男」 結城秀康の真実とは 〜前編

結城秀康とは結城秀康(ゆうきひでやす)とは、越前国北荘藩(福井藩)の初代藩主で、天下人・…

アーカイブ

PAGE TOP