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心を癒す古道・街道「木曽路」を歩く ~江戸の雰囲気を伝える宿場5選

日本には、いまも昔の面影を色濃く残す古道街道が残されています。

道は人が歩くことによってでき、その道が町と町を結び、経済や文化などの交流が行われました。時には忙しい日常を離れ、そんないにしえの道を歩き、古人の足跡を感じ、歴史を再発見する旅に出てみませんか。

今回は、中山道の難所である木曽路に現存する11の宿場の内、昔の面影を残す5つの宿場と、旧街道の雰囲気を満喫できる2つの峠越えのコースを紹介しましょう。

木曽路とはどのような道か

木曽路

画像:奈良井宿 wiki.c

木曽路は、江戸から京都へ向かう二大街道の一つ中山道の一部分で、海沿いの道を行く東海道に対して、中山道は山中の道を通りました。

信州から美濃の木曽地方を通るこの辺りは木曽路と呼ばれ、その間にある贄川宿から馬籠宿は「木曽十一宿」と称され、いまも昔の宿場の面影を色濃く残していることで知られます。

中山道が木曽路に入ると3,000mクラスの高山に挟まれた深い谷を通ることとなり、島崎藤村の著書『夜明け前』の書き出しの一文「木曽路はすべて山の中である」は、そんな木曽路の風景を物語っているのです。

木曽路の楽しみ方には二通りあります。

一つは、いにしえの雰囲気を残す宿場を訪れること。
そしてもう一つは、宿場と宿場を結ぶ中山道の旧街道を歩いてみることです。

宿場の中で現在でも、古い時代の街並みがよく保存されているのは、奈良井宿・妻籠宿・馬籠宿の3つです。他にも、贄川宿には番所、宮ノ越宿には本陣・脇本陣の一部、福島宿には関所、須原宿には桝形や用水路が残されています。

その他の宿場も実際に訪れてみると、昔の面影を感じられる場所があるので、時間に余裕がある時に訪ねてみましょう。

宿場間の旧街道を歩くのは、その区間によって難易度が異なります。時には、トレッキング的な装備が必要な場合もあり、季節によっては熊などの野性動物への対処も必要。

しかし、こうした道は旧街道としての面影が色濃く残り、往時の雰囲気を堪能することができるのです。

訪ねてみたい木曽路の宿場5選

木曽11宿は、江戸・日本橋方面から、贄川宿・奈良井宿・藪原宿・宮ノ越宿・福島宿・上松宿・須原宿・野尻宿・三留野宿・妻籠宿・馬籠宿と連なり、贄川宿から馬籠宿までの総距離は約88kmあります。

その中でも訪ねてみたい、おすすめの5つの宿場を紹介しましょう。

1. 奈良井宿

画像:木曽海道六十九次 奈良井(渓斎英泉画) wki.c

奈良井宿」は、中山道のちょうど真ん中にある宿場です。

江戸時代には奈良井千軒と呼ばれていたほど大いに栄え、現在もその風情は町並みに十分反映されています。

画像:奈良井宿。張り出した軒先の造りが特徴的。鳥居峠がのぞめる。wiki.c

ここには約10軒の宿・店舗・資料館がノスタルジックな町並に溶け込むように軒を連ねます。

旅籠の軒先には花が植えられ、渋い味わいの千本格子や夕刻になると灯がともる軒燈など、まるで江戸時代にタイムスリップしたかのようです。

画像:鎮神社境内から見た奈良井宿上町付近。wiki.c

「奈良井宿」の楽しみ方は町歩きだけではありません。

山深い木曽ならではの蕎麦・山菜・川魚。そして、郷土食のおやき・五平餅を商う店舗がありお腹も大満足。

また、名産の木曽檜を活かした曲物や漆器。さらには、素朴な焼物である洗馬焼・可愛らしい土人形などのお土産も揃っています。

2. 妻籠宿

画像:妻籠宿に建つ熊谷家住宅。wiki.c

妻籠宿」は、日本で初めて重要伝統的建造物群保存地区に指定され、木曽11宿の中でも特に町並の保存に力を注いでいる宿場です。

古い町並はまるで撮影所のセットのようで、宿場内にはマイカーも入れません。

画像:木曽海道六十九次 妻籠(歌川広重画)wiki.c

道の左右には木造の2階家、うなぎの寝床のように奥行の深い昔風の旅籠や店舗など、宿・資料館・博物館があります。

名産品やお土産を商うお店も多く、特にろくろ製品は有名で檜などの素材を活かした弁当箱やお椀が人気です。

画像:妻籠宿本陣。wiki.c

また、旅館や民宿は多くが趣きのある旅籠の様式を今に伝え、昔の和の宿に泊まるという非日常の体験ができます。

提供される料理も山菜・そば・川魚などの山の幸に合わせて信州サーモン・信州牛などバラエティに富んでいるもの魅力です。

3. 馬籠宿

画像:馬籠宿の町並み。wiki.c

馬籠宿」は、石畳が敷かれた急峻な坂道に沿うような宿場で、石畳の道の両側には格子を伴う民家の他に、宿・店舗・資料館があります。

画像:馬籠宿 藤村記念館。wiki.c

馬籠は文学ゆかりの宿場と知られ、特に明治~昭和にかけて活躍した文豪島崎藤村の生まれた場所として有名。

藤村の生家跡は島崎藤村記念館として多くの文学ファンが訪れます。

画像:「木曽海道六十九次・馬籠」渓斎英泉。wiki.c

また、宿場に点在する文学碑めぐりも楽しみの一つ。

島崎藤村の他にも松尾芭蕉・正岡子規・山口誓子の句碑や、十辺舎一九の狂歌碑など宿場と街道の歴史を物語る碑が随所に残されています。

4. 贄川宿

画像:贄川関関所。wiki.c

贄川宿」は、木曽の北の入口に位置し、街道の守りの拠点として重要な役割を担ってきた宿場です。

同宿にはかつて関所があり、今は復元されて一般公開されています。

この関所の役目は大名の妻子の逃亡を防いだ「入り鉄砲に出女」の他、「木曽のひのき細工の持ち出し禁止」にありました。

画像:木曽海道六十九次 贄川(歌川広重画)。wki.c

ひのき細工の持ち出し禁止は木曽の重要な産業である工芸品の秘密漏洩防止を目的としたようで、こうした歴史を踏まえて贄川関所を見学するのもよいでしょう。

5. 上松宿

画像:上松宿(写真:木曽谷とりっぷ)

上松宿」は、木曽ひのきの集散地として栄えた宿場です。

上町地区には出梁造りの古民家が並び、さらに旧街道の石畳も残り、江戸時代の雰囲気をよく伝えています。

画像:寝覚の床。 wiki.c

この宿場には木曽特有の木材で木曽川の難所に架けられた木曽の桟の遺構の他、景勝・寝覚の床があり、白い巨大な花崗岩とエメラルドグリーンの川面が絶妙なコントラストを醸し出します。

寝覚の床には浦島太郎伝説が残されていて、近くの臨川禅寺には浦島太郎の遺物の釣竿と硯が伝えられています。

歩いてみたい木曽路旧街道2選

木曽11宿では、道標を立てたり遊歩道を整備したりと、旧街道歩きに力を入れています。

そこで、昔の旅人と同じように木曽路の街道を歩いてみてはいかがでしょうか。

木曽路には馬籠峠鳥居峠という2つの難所があります。

それぞれ人気の宿場・妻籠宿と奈良井宿を目指すコースで、難所でありながら、昔の旅人に自分を置き換えて街道歩きが体験できると人気です。

馬籠峠

画像:馬籠峠の峠の茶屋。wiki.c

「馬籠宿~妻籠宿(馬籠峠を越えて)」のコースは馬籠峠を越えて、馬籠宿→馬籠峠→大妻籠→妻籠宿というルートを歩きます。

歩行時間は約3時間、歩行距離は約8km。標高801mの馬越峠を越えて妻籠宿を目指します。距離がある割には標高差が余りないのと馬籠宿から馬籠峠まで直線距離で約2kmと近いため、比較的楽なコースといえるでしょう。

馬籠峠の頂上には峠の茶屋があり、軽食や飲み物を求められます。馬籠峠から妻籠宿までの道筋には男滝・女滝や昔の家並みが残る大妻籠があります。

鳥居峠

画像:鳥居峠(写真:木曽谷とりっぷ))

「藪原宿~奈良井宿(鳥居峠を越えて)」のコースは、鳥居峠を越えて、藪原宿→鳥居峠→奈良井宿というルートを歩きます。

歩行時間は約2時間30分、歩行距離約4.5km。鳥居峠は旧中山道の要衛でしたが、藪原と奈良井の間がトンネルで結ばれると忘れられた存在となっていました。

しかし、自然の豊かさと街道沿いに残る多くの史跡が人々を引き付け、シーズンには多くのハイカーで賑わいます。

鳥居峠の最高地点は1,197m、藪原からは260mほどの登り。峠の道は馬・籠がすれ違える1間~1間半の道幅の箇所が多く、昔ながらの峠越えの風情が味わえると人気があります。

これから冬に向かう木曽路。寒さは一段と厳しくなりますが、しんしんと降り積もる雪の風情・きらめく満天の星。そして、宿場によっては、氷雪を彩るライトアップやイルミネーションが楽しめる季節でもあります。

ただ、クルマで訪れる場合は、スタッドレスタイヤの装着やタイヤチェーンの携帯は必修。足元も、滑りずらいシューズなどを履くなど、冬場対策をしっかり行うことが大切。

また、峠越えを伴う旧街道は、降雪などによる事故が起こる可能性があるので、街道歩きの際は、情報収集や地元での確認を怠らないようにしましょう。

文・高野晃彰 校正 / 草の実堂編集部

高野晃彰

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編集プロダクション「ベストフィールズ」とデザインワークス「デザインスタジオタカノ」の代表。歴史・文化・旅行・鉄道・グルメ・ペットからスポーツ・ファッション・経済まで幅広い分野での執筆・撮影などを行う。また関西の歴史を深堀する「京都歴史文化研究会」「大阪歴史文化研究会」を主宰する。

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