LGBTとはセクシュアルマイノリティの頭文字をとった用語だ。
レズビアン、ゲイ、バイセクシュアル、トランスジェンダー 。
今回は、この ランスジェンダー (MTF)の歴史について見ていこう。
トランスジェンダーの定義
さて、トランスジェンダーとはどういう人のことを指すだろうか。
日本では、「心と身体の性別が一致しない人」という説明が一般的だが、より正確な説明をするならば「性別越境者」ということになるだろう。
人の性別を示す一般的な英語は「sex」であり、これは身体的性別を示す。
一方、「ジェンダー」は、社会的性別を示しており、性別には生物学的なものと文化的なものがあることを示している。
「セックスは両脚の間(性器)に、セクシュアリティは両耳の間(大脳)にある」
ー(カルデローン,アメリカ性情報・教育協議会創設者)
「トランス」(trans)とは、「横切って」「越えて」という意味の接頭辞であり、社会的性別を越境する/したいと感じる個人は「トランスジェンダー」と呼ばれる。
トランスジェンダーという呼称について
さて、出生時の性別とは異なる生き方をしたいと願うトランスジェンダーのうち、男性から女性へと移行する「Male to Female」略してMTFのケースだが、この呼称は一般的にはほぼ知られていない。
代わりに使われるのが「オカマ」「ニューハーフ」「オネエ」「性同一性障害」といった呼び名であるが、これらのニュアンスや定義について非当事者が丁寧に語り合う機会は少ない。
「オカマ」。これは基本的に、女性っぽい要素をもつ男性同性愛者を意味する。これは江戸時代に「肛門」を指す俗称であったため、ア◯ルセックスを行う女装姿の男娼を指していた。
当時は侮蔑的な意味合いを持たなかったが、現代に入り、1980年代頃から「女っぽい男」をからかって呼ぶ名称に変化した。
この「女っぽい男」という認識はあまりにも大雑把であり、
・(女性的な)男性同性愛者(ゲイ)
・オネエ言葉を使う男性(本来のオネエ)
・女装趣味のある男性(女装者)
・二丁目等で水商売をしているゲイ男性(ニューハーフ)
そして
・元々の身体的性別が男性だが性の自己認識に合わせて女性の装いなどをするトランスジェンダーのMTF(性同一性障害、GID、性別違和)
これらを一緒くたにしてしまっている。
そのため、ただ真剣に自己の性別について悩み苦しんでいるMTFにとっては、この呼称は不快感を喚起させる。”彼女”らは、”男性”ではないし、遊びでも趣味でもないからだ。
とはいえ、その個人がどういった自己認識を持っているかは本人しか知りえない部分がある。そのため、「あなたはゲイでしょ」「女性の恰好してるから性同一性障害なんですね」と決めつけず、相手から引き出すのが最も安全でもある。
どんな自己認識でどんな見た目をしていようと、一人の人としてきちんと尊重すれば、姿勢として間違いではないのだ。
トランスジェンダーへの医療の歴史
さて、医学的にホルモン療法や性転換手術を必要とする人へ与えられる診断名を「性同一性障害(GID)」と呼ぶ。この言葉が日本で初めて見られたのは、1981年である。
欧米では、1970年代頃からGID患者に法的な性別の訂正を認める動きが始まっていたが、日本では1996年7月に埼玉医科大学の倫理委員会が、GID に対する手術を正式な医療行為と認めるようになった。
1997年5月、日本精神神経学会のGID に関する特別委員会は「性同一性障害の診断と治療のガイドライン」を公表し、以後のトランスジェンダー当事者の「正式な」ホルモン投与や手術はこれに則って行われるようになった。しかし諸事情からこのガイドラインに沿っていられない当事者は、「闇ルート」によってホルモンや手術を受けている実情もある。
同年10月、国内初の性別適合手術(SRS)が埼玉医科大学で行われた。
2004年7月“性同一性障害者の性別の取扱いの特例に関する法律”(特例法)が施行された。これは当事者たちにとって切望した法律であるかに思われた。しかし、この特例法では戸籍上の性別表記を変更するための条件が厳しく、その一つがこの性別適合手術をする事であった。
このように、ホルモンや手術などは、ガイドラインに沿って行われる限りは正当で必要な医療行為であると認められるようになった。
GID医療に関して先進的なイラン、ブラジル、キューバ、北欧やオランダといった国では健康保険が適用されたり、場合によっては無償で行われるようにもなった。しかし国内でのGID 治療は健康保険の適応外であり、戸籍変更を望むGID当事者は社会的・肉体的だけでなく金銭的にも莫大な負担を抱えることになる。
GID関係学会は“性同一性障害に対する手術療法の保険適応に関する要望”を2011年11月に厚生労働大臣に提出した。
これにより2018年4月から性別適合手術は保険適用となったが、「既にホルモン療法を実施している当事者は適用外」となることが大きな波紋を呼んだ。というのは、「ガイドラインに沿って」ホルモン療法を開始済の当事者が大半である実態からすると、実質意味をなさない”法改正”だったからだ。
このようにしてGID、性同一性障害の治療は進められてきたが、『精神障害の診断と統計マニュアル』(DSM)の2013年の第5版では同様の状態を「性別違和」と言い換えるようになった。
トランスジェンダーの先人たちが、ホルモン投与や手術を必死の思いで求め「性同一性障害」という診断名を勝ち取ることで、ようやく本来の自分の身体へ近づけるようになった。しかし後の世代になると、ホルモン療法や手術を受けられるのはもはや当然のことになり、むしろ「自分は病気でも障害者でもない。自分らしく生きる上で性別の違和感が問題になっているだけ」と主張するようになったのだ。
MTFトランスジェンダーの悩める人生
このように、社会からの扱いや医療上の問題など、「間違った身体を着て生まれてしまった」MTFトランスジェンダーの悩みは深い。
けれどもトランスジェンダー界隈の人々が懸命に活動し、医学も着実に進歩し、性別変更したタレントも前向きに生きている姿を見ることができるようになった。
逆境にあっても自分の心を失わずに生きようともがく彼女たちの歴史から学べるものは多い。
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