撮影:gunny
日本でのラーメン人気は衰えることなく、毎年進化してゆくばかりである。飲食業でもここまで安定して人気を保つ業態は少ないが、逆に人気を得られずに廃業する店も多い。それだけ客の舌も肥えてきたということだ。
もちろん、SNSでの口コミも影響が大きいためにバカにはできない。
そんなラーメン業界で徐々にその勢力を広げているジャンルがある。
今回は「家系(いえけい)ラーメン」について調べてみた。
吉村家【家系ラーメンの起源】
※吉村家のラーメンに野菜をトッピングしたところ
創始者の吉村実が「九州の豚骨と東京の醤油を混ぜたらうまいんじゃないか」と思い立ち、1974年9月に横浜市磯子区・新杉田駅近くに開店した「吉村家」が起源とされている。なお、「家系」は「いえけい」と読むが、店名に「○○家」と付く場合は「○○や」と読む。
提供されるラーメンは豚骨醤油スープ・極太ストレート麺のいわゆる家系ラーメンの元祖であり、総本山と呼ばれる。
現在は横浜市西区南幸・横浜駅西口に移転しているが、その人気は不動のものだ。吉村家では修行を経て暖簾分けができるシステムになっており、それらの店舗は直系店と呼ばれている。店名こそそれぞれ違うが、どの店も「○○家」となっている。
一方で、直系とは関係ないインスパイア店舗も次々と現われており、2013年頃から大手外食チェーン店も参入するなど、第二次ブームに突入した。これにより、もともとは横浜のご当地ラーメンが、全国区に広まることになる。
家系ラーメン の定義
(豚骨醤油ラーメン(並)・煮卵トッピング)撮影:gunny
はっきりとした定義は決まっておらず、直系以外は豚骨味噌や豚骨塩スープといったバリエーションがメニューに並ぶ店もあるが、ここでは基本的に家系ラーメンと判断できる特徴を調べてみた。
・スープは豚骨や鶏ガラから取ったダシに醤油のタレを混ぜ、鶏油(チーユ)を浮かべた「豚骨醤油ベース」。
・麺はコシのある太いストレート麺。モチモチとした独特の触感を持つ。他の中華麺より短く、コシが強い。
・基本的な具材は、チャーシュー(1枚)、ほうれん草(少々)、海苔、煮卵(半分)かうずらの煮卵が多い。
また、客の要望に応じて、麺の固さ(固め、普通、柔らかめ)、スープの濃さ(濃いめ、普通、薄め)、油の量(多め、普通、少なめ)から選べるようになっている。これは席に着いたときに店員から聞かれるが、店内に大きく貼りだされているので焦ることはない。
なお、直系の他、一部の店舗では「麺硬め、油多め、味濃いめ」のことを「MAX」と一言で表すこともあるようだ。
卓上調味料として、おろしニンニク、刻みショウガ、きゅうりの漬物、ゴマ、辛味調味料、刻みタマネギが置いてあることが多い。
食べ方
撮影:gunny
特に決まった食べ方はないが、多くの家系ではランチタイムに「ライス無料」という店が多い。なかにはランチから夕方まで無料となっているところもあった。これは、家系ラーメンのスープがライスとよく合う「しょっぱい系」スープだからのようだ。
なので、ラーメンそのものを楽しむのもいいが、多くの客は丼の縁に立てられた海苔をスープに浸し、その海苔がスープを吸った状態でライスを包み込むようにして食べる。
家系の注文方法は、入店直後に券売機で購入するようになっているが、その際にトッピングで海苔を選ぶ客も多い。ライス無料の店ではおかわりが自由という店もあり、そういう店ではライスの一杯目はラーメンと一緒に食べ、二杯目はスープや海苔と一緒に食べる客もいる。
もちろん、ライスがいらなければ断ることもできるし、ラーメンの並盛りは一般的な並盛りの量なので食が少ない人でも安心して食べることができる。
アレンジ
刻みタマネギ乗せ 撮影:gunny
豊富な卓上調味料の組み合わせで「食べ方のアレンジ」をすることができるのも、家系ラーメンの特徴である。これは店舗側でも推奨している店が多く、常連客は自分の好みに合わせた組み合わせで食べている。
例えば、刻みタマネギは一番最初にスープに入れ、後半になり少し熱が通って辛味が弱くなったところを楽しむ。おろしニンニクをほうれん草の上に乗せ、スープに溶け出さないように少しずつ麺に絡めて食べる。スープに浸した海苔で煮卵を巻いて食べるといったように様々な食べ方がある。
ニンニク乗せ 撮影:gunny
インスパイア店では、わざわざアレンジの例をカウンターに貼りだし、スープと卓上調味料を調合したライスの食べ方を紹介していた。例えば、「スープ一杯をライスにかけて、ニンニク1杯とコショウ少々でガーリックライス風」だったり、「スープ1杯、豆板醤1杯、ゴマとラー油を少々で食べるラー油風」だったりとなかなか面白い。もちろん、匂いが気になる人はニンニクの代りに刻みショウガを入れてもいい。
刻みショウガ乗せ
そのため、主な追加トッピングとして、海苔、煮卵、チャーシュー、ほうれん草、白ネギ(辛味白髪ネギの店もある)、もやキャベ(茹でたもやしとキャベツ)などが用意されている。また、後半には豆板醤を入れて味を変える客も多いようだ。
人気の理由
※ラーメン二郎のラーメン
家系と同時期に話題になったラーメンに「ラーメン二郎」がある。1968年(昭和43年)に創業し、2度の移転を経て1996年(平成8年)から東京都港区三田で「ラーメン二郎 三田本店」の名称で営業しているラーメン店だ。こちらも豚骨ベースの醤油味スープだが、その独自性から熱烈なファンが多い一方で「一見は入りにくい」というのがラーメン二郎の特徴となった。
一般的なラーメンに比べると小で普通のラーメンの特盛かそれ以上、大で普通のラーメンの大盛り2杯分相当と量が多く、注文の仕方もカウンターに座ってから店員が客に向けて「ニンニク入れますか?」と問い、返答も「ヤサイマシニンニクカラメスコシ」といった呪文のような言葉が飛び交う。
しかも、支店・インスパイア店により、量や注文の仕方に違いがあり、「話題にはなるが行けない」といった声が多かった。
それに対して、家系ラーメンは基本的に注文方法が分かりやすく、店員も詳しく説明してくれる。調味料の使い方も自由だし、食べる量もライスと合わせることなどにより自分で選べた。また、インスパイア店の多くは「元気」「明るさ」を売りにしており、カップルや女性の一人客も多い。
このような点が評価され、今や横浜だけでなく、国内とアジアを中心に約1000店舗といわれるまでに広まったのだ。その多くは直系ではなくインスパイア店だが、基本的な味には統一感があり、ほとんどが家系と呼んでいい。
最後に
家系という小さなご当地ラーメンが、今では「豚骨醤油」というラーメンの一系統を築いたことは驚きである。しかも「腕組みをしてむっつりした店主」のイメージも払拭して、ラーメン業界の間口を広げたともいえる。
まだ食べたことのない人にもぜひおすすめしたいクセになる味である。
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