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『都心から一番近い蒸気機関車』秩父鉄道「SLパレオエクスプレス」乗車&撮影してみた

「都心から一番近い蒸気機関車」として知られる、秩父鉄道の「SLパレオエクスプレス」。

熊谷駅から三峰口駅まで、全長56.3kmの路線を秩父の山あいを縫うように走る姿は、多くの鉄道ファンに親しまれている。

今回は、そんな「パレオエクスプレス」に乗ってSL列車の小旅行を楽しみつつ、沿線の人気撮影ポイントでその雄姿をカメラに収めるという、欲張りなプランをご紹介しよう。

「SL乗車」と「撮影」という欲張りプラン

画像:パレオエクスプレスを牽引するC58形363号機(撮影:高野晃彰)

秩父鉄道は、羽生駅から三峰口駅までの71.7kmを結ぶローカル線で、その中心となるターミナル駅が新幹線も停車する熊谷駅である。

この熊谷駅から終点・三峰口駅までの56.3km区間では、毎年4月から12月にかけての土休日や連休を中心に、蒸気機関車C58形363号機が12系客車4両をけん引する観光列車「SLパレオエクスプレス」が、1日1往復で運行されている。

牽引機のC58形363号機は、かつて埼玉県鴻巣市の小学校に静態保存されていた車両を1987年に復元したもので、長らく国内唯一の動態保存されたC58形として活躍してきた。

のちに釜石線の「SL銀河」をけん引する239号機が復活したが、そちらは2023年6月に運行を終了している。

一方、C58形363号機は故障や脱線といった試練を乗り越え、累計走行距離は100万kmを超えた。

今もなお秩父鉄道で、その雄姿を多くのファンに披露している、本当にエライSLなのだ。

画像:秩父鉄道で動態保存されるC58型363号機 wiki.c

そして「都心から一番近い蒸気機関車」と称されるように、新幹線を利用すれば東京駅から始発の熊谷駅までわずか40分弱でアプローチできる気軽さも人気だ。

「パレオエクスプレス」は、2025年の最新運転スケジュールでは、熊谷駅を10時15分に出発する。

本来なら終点の三峰口まで、のんびりと約2時間40分のSLの旅を満喫したいところだが、今回は乗るだけが目的でなく、絶景ポイントでの撮影も行うので、秩父路の入口である寄居駅(10時55分着)まで乗車する。

寄居駅からは普通列車に乗り換え、「パレオエクスプレス」を追い越して上長瀞駅へ。駅から徒歩10分ほど、荒川の岸辺に向かえば、上長瀞駅と親鼻駅の間にかかる鉄橋を渡るSLの姿を、間近に捉えることができる。

鉄道ファンにとっては、乗車と撮影を一度に楽しめる贅沢なコースだ。

多くのSLファンを集める人気列車

「SLパレオエクスプレス」は全車指定席制で運行されており、乗車には通常の乗車券に加え、SL指定席券が必要となる。

指定席券の料金は1,100円(大人・小児同額)で、秩父鉄道のオンライン予約システムを利用すれば、クレジット決済によって100円引きの1,000円で購入可能となっている。

かつては自由席も設定されていたが、2023年以降は自由席券の取り扱いはなくなり、全乗客が事前に座席を指定する方式となっている。

画像:C58型363号機の運転席(撮影:高野晃彰)

乗車当日は、発車の約30分前に秩父鉄道熊谷駅に到着。

10時頃に熊谷駅ホームに入線する「パレオエクスプレス」を大勢の乗客とともに待ち構えた。

構内放送とともに「パレオエクスプレス」がホームに姿を表わしたが、この時点でC58形363号機のまわりは人だかり。

画像:熊谷駅でパレオエクスプレスを出迎える人々(撮影:高野晃彰)

乗客の他にも、SLを見たくて集まった人々がたくさんいるようで、あらためて「パレオエクスプレス」の人気を実感したが、何を考えていたのか「パレオエクスプレス」の入線写真を撮るのを失念した。

この記事では今から約10年前、長瀞に行くのに「パレオエクスプレス」を利用したことがあったので、その時の写真をご覧いただこう。

SL列車に魅了された寄居駅までの小旅行

画像:パレオエクスプレスの1号車(撮影:高野晃彰)

「ガタン、ゴトン、ガタン」というSLけん引の客車独特の響きを発しながら「SLパレオエクスプレス」は、最初の停車駅ふかや花園に向かう。

発車後、車内には秩父市出身の人気落語家・林家たい平さんによるアナウンスが流れる。「パレオエクスプレス」や沿線の見どころを軽妙な語り口で紹介してくれるその声が、旅の高揚感を一層引き立ててくれる。

アナウンスによれば、列車名は、秩父地方で発掘された古代の海獣「パレオパラドキシア」にちなんだ「パレオ」と、「急行」を意味する「エクスプレス」を組み合わせたものだそうだ。
かつて秩父の地が海であったことを物語る、ロマンあふれるネーミングだ。

放送が終わると、車内では「SLパレオランチ」などの駅弁や、キーホルダー・クリアファイルといったオリジナルグッズの販売が始まる。

観光列車ならではの楽しさに満ちた、にぎやかなひとときが流れていた。

画像:パレオエクスプレス最後尾からの眺め(撮影:高野晃彰)

実は2025年度から「パレオエクスプレス」の車内では、特設カウンターを設け、秩父鉄道沿線の地酒を提供する「SL PALEO BAR」と名付けられた新サービスが開始された。

さらに、パスワードを入れるだけで利用可能な無料のWi-Fi環境も完備し、乗車中の観光情報の検索やSNS投稿などが便利になった。

さて、SL列車は寄居駅に向けてゆっくりと、しかし力強く進んでいく。

寄居駅までは基本的には田園風景の中に住宅が点在する平野部を走るので、踏切などの線路沿いで、SL列車に向けてカメラを構える人々が多く見受けられる。

画像:パレオエクスプレスからの車窓(撮影:高野晃彰)

やがて寄居駅が近づくにつれ秩父の山々が見えてくる。車窓には青空に溶け込むようにC58が吐き出す黒煙が広がっていく。

そんな車窓の光景を見ていると、SL列車に揺られながら終点の三峰口まで乗っていたい欲望にかられたが、今回は、鉄橋上を走る「パレオエクスプレス」を撮るというもう一つの目的がある。

心引かれる思いで11時07分、寄居駅で降車、小休止するC58形363号機を撮影してから「パレオエクスプレス」に別れを告げた。

人気撮影ポイントでSL列車をカメラにおさめる

画像:停車中のパレオエクスプレス(撮影:高野晃彰)

三峰口行普通列車は、「SLパレオエクスプレス」を寄居駅のホームに置き去りにするように発車し、11時42分に上長瀞駅に到着した。

さぁ、ここからが大忙しだ。
駆け足で、上長瀞駅~親鼻駅間の鉄橋を渡る「パレオエクスプレス」をサイドから撮ることができるポイントに向かう。

駅の改札口を出て、踏切を渡り荒川沿いの道路を行くと荒川の断崖上の空き地に着く。

ここから獣道を抜け、滑りやすい崖を注意しながら下って川岸の岩場にたどり着いた。

画像:荒川の鉄橋上を走るパレオエクスプレス(撮影:高野晃彰)

ここ数日の雨で荒川は増水、岩場は5人ほどのスペースしかない。

すでに先客が2人ほどカメラを三脚に固定している。

慌ててカメラに望遠レンズを装着。

まもなく鉄橋上に姿を表わした「パレオエクスプレス」にしっかりと狙いを定めてシャッターを切った。

画像:荒川の撮影ポイント。危険なので増水時は近づかないこと(秩父鉄道)

さて、ここでSL乗車と撮影の小旅行を終えてもよいが、C58形363号機をもう少し見たいのであれば、急いで長瀞駅に戻って普通列車に乗れば、秩父駅や御花畑駅で「パレオエクスプレス」に追いつくことも可能だ。

ただし、寄居駅からはかなりの強行軍となるため無理をせず、長瀞駅までゆっくり戻り、名勝「長瀞岩畳」を眺めながら、川魚やそばで一献傾けるのもおすすめである。

※参考文献
ベストフィールズ著 『憧れのリゾート観光列車 全国鉄道トラベルGUIDE』メイツユニバーサルコンテンツ刊
文:撮影/高野晃彰 校正/草の実堂編集部

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高野晃彰

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編集プロダクション「ベストフィールズ」とデザインワークス「デザインスタジオタカノ」の代表。歴史・文化・旅行・鉄道・グルメ・ペットからスポーツ・ファッション・経済まで幅広い分野での執筆・撮影などを行う。また関西の歴史を深堀する「京都歴史文化研究会」「大阪歴史文化研究会」を主宰する。

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