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京野菜が美味しい理由は“夕立”だった?京都の夏行事「かぼちゃ供養、きゅうり封じ」

「丹波太郎・山城次郎」と呼ばれる激しい夕立

京都に滞在していると、「本格的な夏がやってきたなぁ」と感じる瞬間がある。

そのひとつが、「夕立」ではないだろうか。

画像:京都の夕立(撮影:高野晃彰)

近年の京都は、インバウンドの影響もあり、多くの人で大変な賑わいだ。

しかし、ひと昔前の夏は人影もまばらで、街をゆったりと散策したり、寺社を訪ねたりすることができたものだった。
それは、夏の京都が余りにも暑すぎて、訪れる人が少なかったからに他ならない。

京都の猛暑を表す言葉としては、昔から「京の油照り」が使われてきた。
盆地特有の蒸し暑さと、じりじりと照り付ける日差しの強さを表現するのには、これほど的確なものはないだろう。

その暑さは午後になると、京都全体で頻繁に激しいにわか雨「夕立」を引き起こす。

京都の人々は、「夕立」を「丹波太郎」や「山城次郎」と呼んでいるのだ。

京都の夕立が美味しい副産物を生み出す

夕立には「馬の背を選ぶ」という言い方もあるそうだ。

これは、局地的な豪雨を表すことわざで、“馬の背の片側だけを濡らして通り過ぎる雨”のことをいう。

京都に限った話ではないかもしれないが、年配の都人(みやこびと)は、「そこにだけ縦に降る」と、京の夕立を例えてきた。

つまり、急激にどっと襲ってきて逃げようがない、それが京都の夕立である。「馬の背を選ぶ」ということわざは、まさにそれにぴったりと当てはまる。

画像:夕立前の鴨川(撮影:高野晃彰)

「見るがうちに 近江のかたに かかりけり 北山出でし 夕立の雲」

江戸後期の歌人・木下幸文が詠んだ短歌である。

京都北方の北山から湧き上がった入道雲が、急激にその先の近江の空を暗くし始めた。
そして見る間に、比叡山の向こうから夕立が凄まじい速さで京の町へと走り込んでくる。

「油照り」のような酷暑に苛まれた昼間、雲一つない真っ青な空が、午後になると急変する。
幸文の短歌は、京都の夏の天気の特徴を、見事にとらえている。

画像:増水する鴨川(撮影:高野晃彰)

こうなってしまったら、もう屋内に逃げ込むしかない。
もし、暑さを凌ごうと鴨川や桂川などで水遊びをしていたら、すぐに川から離れてほしい。

京都市内を流れる河川は、あっという間に水量が増し、濁流となって人も物も流し去ってしまうからだ。

ただし、京都の激しい夕立は、京都ならではの“ある副産物”を生み出す源でもあるのだ。

住蓮山安楽寺の「鹿ヶ谷かぼちゃ供養」

画像:鹿ヶ谷かぼちゃ(京都府)

京都の夕立「丹波太郎」「山城次郎」が重なる夏らしい夏は、京の夏野菜が美味しく育つという恩恵をもたらす。

その代表的な野菜は、京都で“おかぼ”と呼ぶ、南瓜(かぼちゃ)だ。

そのなかで、珍しいのは哲学の道がある鹿ヶ谷(左京区)で採れた南瓜で、瓢箪(ひょうたん)型をしている。

画像:安楽寺本堂 wiki.c

毎年「夏の土用」の7月25日には、その鹿ヶ谷の住蓮山安楽寺で、「中風まじない鹿ヶ谷かぼちゃ供養」が行われる。

同寺は、鎌倉時代初期に起きた“松虫・鈴虫”の悲劇で知られる浄土宗の寺院。

当日は、二人の女人像に南瓜が供えられ、美味しく炊いた“おかぼさん”が一般の参詣客に振舞われる。

五智山蓮華寺・神光院の「きゅうり封じ」

画像:花付きゅうり(京野菜かね正)

さて、夏野菜といえば、胡瓜(きゅうり)も外せないだろう。

伝統的な京野菜とは認定されていないが、京都の夏に美味しくなるのがこの胡瓜だ。

形よく、大きく、緻密でシャキシャキとした食感は抜群の旨味を持つ。

画像:五智山蓮華寺 wiki.c

この胡瓜にまつわる行事が、毎年7月19日に、御室(右京区)の五智山蓮華寺で「きゅうり封じ」という名で行われる。

これは、弘法大師がその昔、疫病を胡瓜に封じ込めたという伝説による。

参詣者は、胡瓜に自分の名前と年齢を書き、ご祈祷を受けた後に、これを身体の悪い部分にあてると直ると伝えられている。

画像:神光院 山門 wiki.c

同様に、7月19日と21日に西賀茂(北区)の神光院でも、「きゅうり封じ」が行われる。

こちらは、同寺境内の“きゅうり塚”の前に、白い布に包んだ胡瓜が積まれ、疫病除けの祈祷が行われる。

名前と数え年を記した紙にその胡瓜を包んで家に持ち帰り、身体の悪いところを撫でた後、土の中に埋めると、病気を封じ込めると伝わっている。

茄子など美味しい京野菜はまだまだたくさん

画像:賀茂なす(京都府)

夏に美味しさを増す京野菜は、まだまだ多く存在する。

賀茂なす、伏見とうがらし、万願寺とうがらしも忘れてはならない存在だ。

なかでも丸い賀茂なすは、夏の京野菜として古くから親しまれてきた。

現在では「幻」ともいわれているが、かつては山科方面で採れた「山科なす」という品種もあり、艶やかな見た目と、しっかりとした肉質が特徴だった。

賀茂なすもまた、250g〜300gほどもある大型の茄子で、緻密な肉質は、煮ても揚げても形が崩れないのが魅力。
その丸い形を活かした田楽は、特に人気の高い調理法である。

画像:伏見とうがらし(京都府)

また、初夏から出回る伏見とうがらしや万願寺とうがらしは、辛味が少なく甘みのある野菜で、焼く・煮る・揚げるなど、さまざまな調理法に適している。

中でも、さっと焼いて削り節をのせた一品は、うだるような暑さの中で、ビールや冷酒と相性抜群のつまみとなるだろう。

画像:万願寺とうがらし(京都府)

京都人は、「夕立」のことを「よだち」という。

「よだちの雲が出ているさかい、とい(遠い)とこへ行くこと、ならんェー。」

酷暑が続くと子どもたちに諭す声が、路地のあちこちから聞こえてきそうだ。
でも、そんな「夕立」が、美味しい夏の京野菜を育ててくれる。

そして、雲間に秋が忍び寄る頃、八百屋の店先には山の幸が並び始める。
栗、きのこ、枝豆……。四季の歯車がまた一つ、かたりと動き出す。

参考 :
京都歴史文化研究会著 『京都歴史探訪ガイド』 メイツユニバーサルコンテンツ刊
文 / 高野晃彰 校正 / 草の実堂編集部

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編集プロダクション「ベストフィールズ」とデザインワークス「デザインスタジオタカノ」の代表。歴史・文化・旅行・鉄道・グルメ・ペットからスポーツ・ファッション・経済まで幅広い分野での執筆・撮影などを行う。また関西の歴史を深堀する「京都歴史文化研究会」「大阪歴史文化研究会」を主宰する。

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