会うことは難しくても、どうしても伝えたい想いを言葉にして届けたい。
大切な人との別れを経験すれば、ふと、そう考える瞬間がある。二度と会えないと分かっている相手だとしても、文字にすることでいつか相手に想いが届くのではないだろうかと。
そんな人々の願いを受け取ってくれるのが香川県、粟島(あわしま)にひっそりと佇む「漂流郵便局」だ。
毎日、日本全国から宛先のない手紙だけが届く不思議な郵便局である。
目次
芸術作品から誕生した「漂流郵便局」の運営秘話に迫る!!
漂流郵便局は当初、『第2回 瀬戸内国際芸術祭』の芸術作品として誕生した架空の郵便局だった。
製作者である現代美術作家の久保田沙耶氏は「海を漂流するかのように流れ着いた人々の想いを預かる郵便局をコンセプトに漂流郵便局を手掛けた」と語る。
のちに彼女は、留学先のイギリスにおいても「漂流郵便局 イギリス・ロンドン支局」の開設を行った。
1ヵ月ほどの期間限定のプロジェクトではあったが、ロンドン支局で局長を務めたブライアン氏が粟島を訪問するなど、イギリスと日本の新たな交流を築き上げた。
漂流郵便局は、旧粟島郵便局として運営していた建物を改装して創られている。そのため、漂流郵便局に対する島の人々の愛着もとても強い。漂流郵便局長を務める中田局長も、旧粟島郵便局で実際に局長を務めていた人物というから驚きだ。
芸術作品としての評価はもちろん、日本全国から多くの反響が寄せられたことを受け、漂流郵便局の運営続行が決定。
漂流郵便局に届く様々な想いを最後まできちんと守りたいという中田郵便局長と、製作者の久保田氏2人の情熱も運営続行の決め手となった。
漂流郵便局に届く手紙や葉書は芸術作品として郵便局館内に展示されており、郵便局を訪れた人全員が自由に読むことができる。自分が送った漂流郵便が無事に届いているのかと、観光を兼ねて粟島まで足を運ぶ人も少なくはない。
「漂流郵便局」に寄せられる少し変わった相手への想いとは!?
『あのとき、躓いた階段へ』『私の口から去った歯たちへ』など、漂流郵便局に寄せられる手紙や葉書には、人以外の相手に向けて宛てられた想いまで込められている。これは、芸術作品として一般公開されている手紙や葉書にも、意外性や面白さを見出したいという漂流郵便局を手掛けた久保田氏のユニークな発想からきているものだ。
私たち人間は、生活の中で使用している財布や手帳、メガネや帽子に至るありふれた日用品にまで愛着を示す傾向が強い。その分、そばにあって当たり前のものが失われると、自分自身でも驚くくらいの喪失感を感じる生き物である。
漂流郵便の募集要項にもある「もの/こと/ひと 何宛でも受け付けます。」この言葉も、悲しみや恋しさを覚える相手が必ずしも人間とは限らないという、人間の性質そのものを表現している。
「漂流郵便局」は心に残った悲しみを預ける場所
実際に漂流郵便を送ろうと決心する人々の強い想いの中に眠るのは、やはり先に旅立ってしまったかけがえのない家族の存在だ。会いたくても会えない、伝えたくても届かない状況は、余計に悲しみだけが根強く残ってしまうものである。そんな時に心の拠り所となるのが、漂流郵便局の存在だ。
漂流郵便を書き始めた理由に、悲しみを少しでも和らげるためと答える人が多い。伝えたくても届かない相手へ手紙を送ることができる場所があるだけで、人の悲しみは安らぎと希望に変わるからだ。心に残る悲しみを文字に綴ることで心の整理がつく気持ちは、心理療法でも証明されており、「筆記開示」という治療法がこれに値する。
「想いを文字にするだけなら、日記でもいいのではないか」そんな言葉を口にする人もいるが、手紙や葉書を実際に送るという行動を起こすからこそ、会いたい人に自分の想いが届いてくれるという希望を感じ取れる。
その希望は、悲しみから立ち直れる一歩に繋がり、今後の生きる活力にもなるのである。
「漂流郵便局」が慕われる理由と存在し続ける意義
漂流郵便局の存在は、多くのメディアや書籍を通して知ったという方も多いだろう。
反響と感動を呼んだ書籍『 漂流郵便局 届け先のわからない手紙、預かります』は、2015年と2020年に出版された。
・書籍「漂流郵便局 届け先のわからない手紙、預かります」著者:久保田沙耶
・書籍「漂流郵便局 お母さんへ 届け先のわからない手紙、預かります」著者:久保田沙耶
また最近では、フジテレビ系「月9」枠で放映された『ミステリという勿れ』の劇中に登場したことでも有名である。
ドラマの鍵を握る重要なシーンに登場したことで、放映時はドラマのセットだと思う人がほとんどだった。しかし、ドラマ放映後に実在するアート作品の郵便局であることをメディアが一斉に報道し始めたことで、再び「漂流郵便局」に熱い視線と関心が寄せられたのである。
全国から寄せられる漂流郵便が存在する限り、「漂流郵便局」は行く宛のない手紙や葉書を守り続け、世の中に発信し続けるだろう。手紙を送れることが、誰かの救いになると願いながら。手紙を受け取ることで誰かが笑顔になれると信じながら。
2022年の今日も過去から現在、そして未来と時空を越えて綴られる想いを「漂流郵便局」は、暖かく迎え入れている。
漂流郵便局への手紙の出し方
<いつかどこかのだれかに手紙を出したい方は>
以下のことにご了承いただき、郵便局まで送りください。1)送っていただいた手紙のご返却はできません。
2)手紙の著作権は漂流郵便局に譲渡していただきます。
3)差出人様の住所は不要です。
[送り先住所]はがきやお便りで受け付けています。
〒769-1108
香川県三豊市詫間町粟島1317‐2
漂流郵便局留め
〇〇〇〇〇〇様
(↑いつかのどこかのだれか様)漂流郵便局に直接投函することもできます。営業時間内は窓口まで、
営業時間外は漂流郵便局入口左側の「郵便受け」にお入れください。※漂流郵便局(三豊市観光交流局)サイトより引用
https://www.mitoyo-kanko.com/facility/missing-post-office/
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