終わりの見えない北朝鮮問題。なかでも軍事衝突は「今そこにある危機」である。
誰もがまさかと思いながら、誰もその可能性を否定することができない。北朝鮮については毎日のように報じられているが、「戦争」という最悪のフェーズに突入したらどうなるのだろう。それ以前に、北朝鮮はアメリカに勝利できないまでも、どの程度の戦力を保有しているのか。
正体が見えないからこそ、余計に不気味である。
朝鮮人民軍
【※板門店警備中の陸軍軍人(2005年8月)】
北朝鮮の軍隊は「朝鮮人民軍」だが、一般的には北朝鮮軍と呼ばれる。
他国のように陸軍、海軍、空軍に加え、弾道ミサイルの運用を担当する戦略軍がある。本来ならば朝鮮人民軍は朝鮮労働党の指揮下に置かれるのだが、独裁体制の北朝鮮では、実質的に金正恩(キム・ジョンウン)の直下にあるのは周知の事実だ。
総人員は約190万人(2010年現在)と、国の規模に比べて世界有数の人数を有しているが、実際に兵役として勤務できる年齢は17歳から49歳までとある。ちなみに自衛官の総人員は約24万人だが、朝鮮人民軍は10年という長い徴兵期間と高齢化により、実戦に投入できる兵士の数では自衛隊とほぼ変わらないようだ。さらに兵の健康・衛生状態も悪化しているため、この数よりもさらに少なく見積もる向きもある。
厄介なのは、正規の軍人以外も農民や漁師等が有事には戦争に投入されることもあるため、どこまでが民間人なのか見極めることが困難な点だ。
例えば、漁船を装って日本に武装した漁師が上陸する可能性もある。
戦略軍
北朝鮮の軍事力を計る際に重要なのが「朝鮮人民軍戦略軍」、つまり、弾道ミサイルを運用する兵科である。
陸・海・空軍の装備が旧式なのに対し、北朝鮮の弾道ミサイルがその性能を向上させているのは周知の通りだ。
アメリカまでをその射程に捉えた大陸間弾道ミサイル(ICBM)の存在はもちろんだが、短・中距離弾道ミサイルも悩みの種である。韓国だけでなく、日本までをその射程に収めているこれらのミサイルは、敵の攻撃に対して、両国の主要な都市、軍事基地などに向けて発射できるように配備されている。しかも、小型のものは移動式発射台に搭載され、偵察衛星から身を隠すように配備されており、いつ、どこからでも発射可能だというのが怖い。
即時発射可能なものは30基ほどといわれている。
空軍
【※J-6】
朝鮮人民軍の装備については、老朽化が激しい。これは戦略軍を除く3軍に共通しているが、空軍の戦闘機は致命的であるともいえる。
数だけを見ると戦闘機だけで800機以上を保有しているようだが、老朽化で、実戦を行えるのは約100機ほどと思われる。
1950年代に旧ソビエト連邦で開発されたMiG-19の中国製ライセンス生産型「J-6」が北朝鮮空軍の大多数を占めるが、すでに飛行できる状態ではない。朝鮮人民軍における最新鋭機はロシアのMiG-29といわれるが、これですら米軍のF-15やF/A-18といった前世代の機体に近い性能で、最新のステルス機には対抗できない。
【※MiG-29】
米韓軍との戦闘になった場合、制空権を握られるのは時間の問題である。そこで北朝鮮では有事の際には旧型機を捨て駒にして、性能よりも数で敵を押し留める戦術も考えられる。
いずれにせよ、経済制裁によって航空燃料が慢性的に不足している北朝鮮軍が空軍を有効的に運用できる可能性は低い。
陸・海軍
【※ロメオ級潜水艦】
陸軍は四軍のなかでもっとも大規模な兵科となっている。しかし、装備は貧弱で50~60年代のものが主力となっており、なかには第二次世界大戦で運用された兵器もある。
個人装備もベトナム戦争で南ベトナム解放戦線(ベトコン)がアメリカ軍を相手に使ったAK-47が主力のようだ。
だが、数は多く、旧式といえども戦車だけでも3000両以上を保有しており、数だけならば自衛隊の定数300両を大幅に超えた。
海軍も著しく旧型の装備ばかりである。しかし、特徴的なのは大型艦よりも小型艇、潜水艦が主力となっている点だ。これはミサイルや砲撃による直接攻撃よりも、小型艇による上陸作戦を援護する目的があると見られる。邦人拉致事件が増えたのもこうした装備のためだろう。有事の際には秘密裡に敵国に上陸して、原子力発電所などの重要施設を破壊できる可能性がある。
艦船の約400隻に対し,潜水艦約70、上陸艇約250という比率からもわかるだろう。
狂気のシナリオ
もし、米朝が戦争となった場合、様々なシミュレートがなされるようになった。
詳細に違いはあるが、どのシミュレートも危険視するのが、北朝鮮による「ミサイル報復」である。正面から戦っては勝ち目のないことを知っている北朝鮮だが、金正恩に軍の権力が集中したままであれば、「死なばもろとも」とばかりに、韓国や日本にミサイルを発射するという狂気のシナリオが実現する可能性が高い。
また、南北を隔てる非武装地帯の北側には、ロケット砲や自走砲がなどが多数配備され、ソウルに狙いを定めている。そして、中国と北朝鮮には「中朝友好協力相互援助条約」という安全保障条約が結ばれているため、北朝鮮が戦争状態になったときには支援することになっている。だが、裏を返せば北朝鮮国内の混乱を鎮めるためという名目で中国が北朝鮮を事実上、占領することもできるため、米朝戦争がすぐに米中朝戦争へと発展する可能性は低い。
いずれにせよ、戦争になれば北朝鮮が一方的に攻め込まれることは目に見えている。そこで崩壊するのなら韓国や日本を巻き込んで敗戦を迎える覚悟が北朝鮮にあるのかどうか。世界が北朝鮮に対して安易な軍事行動を取れないのはそういった理由があった。
最後に
最近になって、北朝鮮戦略の新しいシナリオも誕生している。これが軍部によるクーデター説だ。
今までは軍や党の高官は甘い蜜を吸えたが、最近は粛清の嵐が止む気配がない。それに危機感を抱いた人々が、金正恩委員長を引退させ、その身柄を中国かロシアに引き渡して、新たな国作りを行うという。
ロシアにはすでに金正恩亡命用の物件も確保されているともいい、今までのクーデター説よりも説得力の高いものとなっているのだ。
参考記事:北朝鮮
「【北朝鮮】金正恩体制におけるカネと権力について調べてみた」
参考記事:アメリカ軍
「アメリカ海軍の原子力空母について調べてみた」
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