表立っては言えないことほど、より深く心に刺さる……社会が抑圧的であればあるほど、人々はジョークに皮肉を忍ばせ、独裁的な権力者を風刺するもの。

今回はそんな「共産主義あるある」ネタで笑いを誘うアルメニアのエレバン放送（Армянское радио）から、選りすぐりのアネクドート（ソ連を中心とした共産主義や政治風刺を主題にしたジョーク）を紹介。

日本人の感覚ではちょっと解りにくいかも知れませんが、意味が判ると後からじわじわ効いて癖になること請け合いです。

それではさっそく、リスナーさんからの質問に答えて行きましょう。

※リスナーさんからのメッセージは、説明しやすいように書き換えています。
※各Q＆Aについている筆者の【コメント】は、日本では馴染みの薄いジョークに対する真面目な解説もあれば、ただ囃したり煽ったりしているだけのものもあるので、あまり間に受けないで下さい。

Q1.同志ブレジネフに「白痴」と言ったら、懲役刑に処せられますか？

A1.原則的にその通りです。その場合あなたの罪状は「国家機密の漏洩」です。

【コメント】あぁ、それだけは知られたくなかった……。

Q2.ソ連における永続的なものは何でしょうか？

A2.「一時的障害」です。

【コメント】あくまで「一時的」な障害が永続しているだけなのです。

Q3.世界で最も短いジョークを教えて下さい。

A3.「共産主義」この一言で大爆笑まちがいなしです。

【コメント】笑った場合、命の保証はありませんが。

Q4.では、世界で最も長いジョークは？

A4.同志フルシチョフのスピーチです。

【コメント】途中で居眠りしようものなら……解りますね？

Q5.アダムとイヴが史上初の共産主義者だったという話は真実でしょうか？

A5.おそらく真実でしょう。なぜなら彼らは非常に控えめな衣服のほかに私有財産を持っておらず、自分たちが楽園に住んでいると思い込んでいたのですから。

【コメント】そう、共産主義こそが世界で最も伝統ある思想なのです（それがよいものとは言っていない）。

Q6.同志ソルジェニーツィンや反体制派の人々は、なぜ国外追放されたのですか？

A6.原則的に、出来のよい製品ほど優先的に輸出へ回されるからです。

【コメント】国内の需要は常に満たされない。それが共産主義国家です。

Q7.経済状態がよりよくなるのはいつでしょうか？

A7.原則的に、過去へさかのぼるほどよくなっていくでしょう。

【コメント】それでも前に進むのです。撃たれたくなければ。

Q8.同志スターリンの死後、ソ連の裁判制度はどのように変わりましたか？

A8.原則的に、判決前の被告を射殺することが禁止されました。

【コメント】とても文明的な進歩ですね！

Q9.南京虫（シラミの一種）は革命を起こすことが出来るでしょうか？

A9.原則的に可能です。彼らにはプロレタリアート（労働者階級）の血がたっぷり流れているからです。

【コメント】だから、見つけしだい（革命を起こさないよう）駆除しなくてはなりません。

Q10.ソ連の潜水艦は世界的に優秀と聞きましたが本当ですか？

A10.原則的に事実です。1957年以来、ずっと潜水記録を更新し続けている2隻がそれを証明しています。

【コメント】中の人……さぁ、その安否確認は管轄外なもので。

Q11.共産主義に疑念を抱いてしまった場合、どうすればいいでしょうか？

A11.あなたの氏名と住所を教えて下さい。

【コメント】今夜、（KGBが）お迎えに参ります。

Q12.歯医者に行くのが怖いです。どうしたら克服できますか？

A12.歯医者が「合法的に口を開ける唯一の場所」と考えるといいでしょう。

【コメント】たとえ自宅であっても、口を開くことについては極めて慎重にあるべきです。

Q13.資本主義と共産主義の大きな違いは何ですか？

A13.同志レーニンはスピーチで「共産主義は、国家全体が電化された状態である」と言いました。つまり資本主義が単なる椅子なら、共産主義は電気椅子ということです。

【コメント】非常にわかりやすい喩えですね！

Q14.友達に「共産主義」を解りやすく説明したいのですが……。

A14.ゲンコツを使うのが、一番解りやすいでしょう。

【コメント】結局それかい。

Q15.ラジオで世界最高記録の収穫があったと言っていたのに、なぜ私の冷蔵庫は空っぽなんですか？

A15.冷蔵庫をラジオと正しく接続しましたか？

【コメント】正しく接続できれば、きっと食糧があふれ出すでしょう。正しくできれば、ね。

Q16.資本主義が破滅の淵に立たされているという話は本当ですか？

A16.原則的に本当です。そして私たちの共産主義は、彼らよりも一歩先へ踏み出しています。

【コメント】つまり「浮いている」ということでしょうか。世界から。

Q17.同志スターリンが、自分を風刺するジョークを集めていたというのは本当でしょうか？

A17.原則的に事実です。同志スターリンは、それを口にした人々も積極的に集めました。

【コメント】手厚い「おもてなし」は気に入って貰えたでしょうか。

Q18.ソ連では、通信の秘密は守られますか？

A18.原則的に守られます。ただし、反体制的な内容を含む通信は例外です。

【コメント】そりゃそうですよね。

Q19.西側（※資本主義国家）への出張を命じられましたが、十分な旅費が支給されないそうです。どうしたらいいでしょうか？

A19.原則的に問題ありません。帰りの切符を買わなければいいのです。

【コメント】悪いのは経理担当者ですから、そのまま亡命の手続きに走りましょう。

Q20.ソ連の強制収容所は非常に快適と聞いたのですが本当ですか？

A20.原則としてそのようです。かつて多くのリスナーたちが調査に行ったのですが、とても気に入ったようで、誰一人として帰って来ません。

【コメント】早く報告が聞きたいものです。

Q21.共産党に対する批判は可能ですか？

A21.原則として可能です……が、ご自宅での暮らしに未練はありませんか？

【コメント】シベリアで樹木を数える仕事は大変みたいですよ。

Q22.アルメニアには何人のバカがいますか？

A22.今すぐ入国されれば、あなたが栄えある1番目になれます。

【コメント】こんな質問をしている時点でお里が知れます。さてはアゼルバイジャン人ですね？

Q23.ソ連で最も重要な都市はどこですか？

A23.もちろんエレバン（アルメニアの首都）です。

【コメント】常識ですよね。

Q24.では西側諸国による核攻撃は、エレバンに照準を合わせるべきですね。

A24.いえ、あの……モスクワもけっこう重要ですよ？

【コメント】そうそう、クレムリンとか特におすすめです。

Q25.このふざけたQ＆A（特に回答）はいったい何なんですか？

A25.回答者がアルメニア人ではないためと考えられます。たぶんアゼルバイジャン人だからでしょう。

【コメント】あるいはこの回答によって、とっくにアルメニア国籍を剥奪されている筈です。

Q26.内陸国のアルメニアに海軍省があるのはどうしてですか？

A26.アゼルバイジャンに対する皮肉です。彼らは文化省を設立していますから。

【コメント】海軍と言えば、以前はモンゴルにもありましたね。※ちなみに、現在はありません。

Q27.ソ連には人種差別が存在しますか？

A27.原則として存在しません。なぜなら肌の色に関係なく、みんな「赤（共産主義のシンボルカラー）」だからです。

【コメント】みんな平等の幸せ（※高水準とは言っていない）。それでこそ共産主義。

Q28.アメリカとソ連で、言論の自由について違いがありますか？

A28.原則としてありません。ただし、アメリカではスピーチ後の自由も保障されています。

【コメント】それを踏まえて、自由に発言して下さい。

Q29.＄（ドル）と₽（ルーブル）の違いは何ですか？

A29.ドルの価値は金（ゴールド）が保証し、ルーブルの価値は戦車が保証しています。

【コメント】戦車の方が力強いから、ルーブルの方が頼もしいですね！

Q30.クレムリン（共産党本部）のスタッフがフィンランドを視察した理由はなんでしょうか？

A30.東側の厄介な隣人と共存する方法を学ぶためです。

【コメント】フィンランドの東にソ連があり、ソ連の東には中国がある。かつてフィンランドはソ連の侵攻（冬戦争）を撃退した経験がある……後はお判りですね？

Q31.中国人が猫を放し飼いにする理由はなんですか？

A31.反革命プロパガンダのためです。彼らの猫は「マーオ（毛＝毛沢東）」と鳴きます。

【コメント】もし「レーニン」または「スターリン」と鳴く生き物がいましたら、ぜひ共産党本部までご一報を。

Q32.スイスを共産主義化することは可能ですか？

A32.原則として可能です……しかし、あんなに美しい国を……もったいないですね。

【コメント】共産主義とは、つまりそういうことです。

Q33.なぜフィンランドはまだ共産主義国家になっていないのですか？

A33.私たちはフィンランド人を心から憎んではいない（※）でしょう？

【コメント】前述の冬戦争は、あくまで同志スターリンの侵略欲によって引き起こされた過ちに過ぎないのです。

Q34カナダを共産主義国家にできますか？.

A34.原則として可能です。しかしその後、私たちの食べる小麦は誰が供給してくれるのですか？

【コメント】共産主義国家における農業政策の失敗を如実に物語っています。

Q35.チェコは我々の兄弟でしょうか？友人でしょうか？

A35.もちろん兄弟です。友人は選ぶことができます（※）からね。

【コメント】家族は選ぶことが出来ません。たとえどんなに残念であろうと……つまり、そういう事です。

Q36.なぜハンガリー人はソ連が好きで、アメリカが嫌いなのですか？

A36.ソ連はハンガリーをナチスから解放しましたが、アメリカはハンガリーをソ連から解放してくれなかったからです。

【コメント】ナチス支配の方が、共産主義よりまだマシだったということでしょうか。

Q37.ルーマニアでは……

A37.（質問を遮る）はいその通りです。次！

【コメント】その国名を、口にするのも嫌みたいですね。

Q38.ソ連のマイクロ工学は、アメリカより優れているのでしょうか？

A38.原則的に優れています。なぜなら彼らは、世界最大のマイクロチップを生産しています。

【コメント】大きいことは、よいこと……なのでしょうか。必ずしも。

Q39.ウォッカが仕事の邪魔になる場合、どうしたらいいですか？

A39.仕事を休めばいいでしょう。

【コメント】ウォッカは命の水ですから、仕方ありませんね。

Q40.行きつけのバーで、知らない男がため息をついていたらどうするべきですか？

A40.今すぐ反体制的なプロパガンダ（政治的宣伝工作）をやめるよう要求すべきです。

【コメント】あるいはKGBの覆面捜査官かも知れません。いずれにせよ、同調を疑われたら一巻の終わりです。

Q41.あるべき意見交換とは、どのように行われるのでしょうか？

A41.あなたは自分の意見を上司の執務室へ持ち込み、上司の意見を持って退室するのが理想的です。

【コメント】最初から自分の意見を持たない無能者は粛清の対象です。

Q42.警官によるパトロール隊は、なぜいつも三人組なのですか？

A42.一人目が読み、二人目が書き、そして三人目は二人のインテリを監視するためです。

【コメント】取り締まる側が取り締まられ、その取り締まった者もまた……。

Q43.将軍は功績によって元帥になることが可能ですか？

A43.不可能です。なぜなら、どの元帥にも息子がいるからです。

【コメント】徹底したコネ社会なのです。例外もなくはありませんが。

Q44.SF作家と歴史家、そして政治家の共通点は何でしょうか？

A44.想像力です。SF作家は未来を想像し、歴史家は過去を想像し、そして政治家は現在を想像します。

【コメント】現実なんて直視していたら、政治家なんてやっていられません。

Q45.市場で小麦粉が売っていません。なぜですか？

A45.パンに小麦粉を入れるようになったからです。

【コメント】たぶん、大麦やライ麦なども同様でしょう。

Q46.エロティカ（官能芸術）とポルノ（猥褻物）の違いは何ですか？

A46.カメラの焦点調節など「大人の事情」により、当局が気に入らない作品がエロティカとして流通を許可され、気に入った作品はポルノとして没収されます。

【コメント】実にけしからん！これは社会的に極めて害悪であるからして、当局が責任をもって処分しておきます！

Q47.ソ連は1991年に崩壊しました。もう共産主義の夢から覚めるべきではありませんか？

A47.原則として、その認識は誤りです。なぜなら現時点での加盟国がゼロなだけで、ソビエトはいつだってこの世界に、そしてあなたや私の心の中に存在し続けているからです。

【コメント】20世紀最大級の悪夢の一つである共産主義は、21世紀中に片づけられるのでしょうか。

エピローグ……エレバン放送「最後の1分間ニュース」

「……1974年度の共産主義カッコウ時計コンテストでは、以下の通り受賞が決定しました……3等賞は毎正時にカッコウが「レーニン」と鳴く時計……2等賞、毎正時にカッコウが「Пролетарии всех стран, соединяйтесь！（万国の労働者よ、団結せよ）」と鳴く時計……1等賞、毎正時に小さなレーニンが「カッコウ、カッコウ」と鳴く時計でした……」

【コメント】何を言うか、ではなく誰が言うかが評価されるお手本。レーニンへの賛辞より、共産主義のスローガンより、レーニンが口にすることであれば何でも評価された個人崇拝への風刺と言えます。

以上紹介してきましたが、ここにあるのはほんの一部。まだまだ男女問題や性愛関係などの下ネタをテーマにしたアネクドートもたくさんあるので、興味の湧いた方は是非とも調べてみて下さい。

「上に政策あれば、下に対策あり」

経済破綻から崩壊した「理想」の下で続く慢性的な物資の不足、秘密警察が闊歩して、厳重な監視や陰湿な密告がはびこる社会。腐敗した権力に屈することなく、したたかな笑いに明日の希望を見出し、生き抜いて来たロシアン・スピリッツを感じ取っていただければと思います。

【注意！】
ここまでズラッと書いておいて何ですが、エレバン放送は架空の放送局です。別名アルメニア放送と呼ばれることもありますが、実在する国営アルメニア放送と間違えてクレームなど入れないようお願いいたします。

※参考文献：
名越健郎『独裁者たちへ!!―ひと口レジスタンス459 (講談社プラスアルファ文庫)』1996年2月
平井吉夫 編『スターリン・ジョーク (1983年)』河出書房新社