フランス空軍機がIS(イスラム国)への空爆を行うために、滑走路を飛び立つシーンは世界中に流れた。その機体には主翼の後方に水平尾翼がなく、まるでダーツの矢のような形状をしている。実は、こうした「デルタ翼機」を導入しているのはフランス軍だけではない。ヨーロッパの戦闘機はこのスタイルが主流なのだ。
では、なぜデルタ翼機が主流なのか。
ラファール
正確にはヨーロッパの国々が好んでデルタ翼機を導入しているわけではなく、ヨーロッパで開発された戦闘機の形状にデルタ翼機が多いといったほうがいい。なぜならヨーロッパ、特に旧西側の国々はアメリカ製のF-16を多く採用しているからだ。
軽量で素早く価格も安い。生産数が増えれば単価も下がり、さらに需要が増える。日本での採用は見送られたが、商業的には大成功したのがF-16だった。だが、フランス軍が採用したのは自国生産の「ラファール」である。
ダッソー・アビアシオン社が開発したこの機体は、カナード翼+デルタ翼というスタイルで「疾風」を意味しており、空軍の他、海軍でも運用可能なマルチロール機となった。デルタ翼は見たままの意味だが、カナード翼とは主翼の前にある小さな前進翼のことである。カナードは揚力(機体を持ち上げる力)を生み出す効果があり、より短距離での離陸を可能とするほか、いくつかのメリットがある。
これは空母から発艦するときには大切な要素だ。
サーブ 39 グリペン
デルタ翼機を採用しているのはフランスだけではない。スウェーデンのSAAB(サーブ)社が開発した「サーブ 39(通称グリペン)」もラファールによく似たシルエットだ。ラファールよりも大きなカナード翼を持つこの機体は、開発時のコンセプトにスウェーデンのお国柄が反映されていた。
冷戦期のスウェーデンは、アメリカ、ソ連のどちらにも付かない中立の立場をとっていたため、国防も独力で行わなければならなかった。だが、地形的に長い滑走路をあちこちに設けることが難しく、しかも冬季では雪の積もった滑走路を使用しないといけない。結果、幅17mほどの高速道路において、800mという短距離での離着陸能力が求められた。ちなみに、グリペンのカナード翼は揚力の向上よりも機動性を上げるもので、着陸時には前方に傾かせることで空気抵抗を増やしてブレーキとして働く。
そもそも、デルタ翼機はスウェーデン(サーブ社)のお家芸ともいえる。なぜならグリペンの前任のサーブ 37(ビゲン)も、さらに前の「ドラケン」もデルタ翼を採用してきたからだ。
サーブ 35 ドラケン
スウェーデン語でドラゴンを意味するこの機体は、ラファールやグリペンよりもさらにインパクトのあるスタイルをしている。
セクシーさすら感じるドラケンのデザインは、ダブルデルタ翼により構成されており、この機体のコンセプトは後の航空機に大きな影響を与えた。というのも、機体の内側にある前後に長い翼が上昇時に渦を発生させ、この渦が機体を取り巻く気流を整えてくれる。
この発想は、後にNASAのスペースシャトルや、アメリカ海軍のF/A-18にも採用されたからだ。特にスペースシャトルは地球への帰還時には「滑空しかできない」ため、少しでも機体を安定させるとともに揚力を得ることが重要だった。
こうしたダブルデルタ翼は民間機にも採用され、2003年に退役したフランスの超音速旅客機「コンコルド」もコンセプトは同じである。なお、ドラケンの初飛行は1955年だったが、当時の要求は2,000m級の滑走路での運用が要求されていたことからも、グリペンがいかに進化したか分かるだろう。
ユーロファイター・タイフーン
フランス空軍におけるラファールの前任も「ミラージュ2000」というデルタ翼機だったが、フランス以外のヨーロッパ各国もデルタ翼機に国の安全を託した。NATO加盟国のイギリス、ドイツ、イタリア、スペインが共同開発した「ユーロファイター・タイフーン」である。
計画そのものは1970年代には立ち上がっていたが、他の戦闘機開発の例に漏れず、初飛行が1994年、実際の運用開始は2003年からとなった。上記の4ヶ国の他、オーストリア、サウジアラビアでも採用されている。計画時点ではフランスも参加していたが、空母での運用ができないために脱退した。日本も現在のF-15Jの後継機としてタイフーンの導入が検討されたが、ステルス性を重視した結果、アメリカのF-35Aを採用したという経緯がある。
とはいえ、タイフーンが劣っていたのはステルス性であり、価格、性能共に高水準なのは間違いない。タイフーンのメリットは外観よりも先進的な電子機器を多く搭載している点である。
デルタ翼 の理由
このようにヨーロッパの戦闘機はデルタ翼機ばかりになったのだが、その理由としては、アメリカ、ソ連(ロシア)の戦闘機に搭載されるエンジンに比べ、ヨーロッパ製のエンジンは推力が弱く、形状を工夫することで速度を引き上げなくてはいけなかったというものがある。しかし、デルタ翼のみだと高速は出せるが、機動性や離着陸の性能が落ちるためカナード翼も搭載することとなった。
また、スウェーデンのように地形の問題やフランスのように空母からの発進を考えた場合、短距離での離着陸性能が求められたことも理由にある。
いずれにせよ、デルタ翼というコンセプトはこのような理由からヨーロッパを中心に普及したのだ。
最後に
日本ではあまりピンとこないが、ヨーロッパでは自国の工業力を向上、維持させるために自国開発にこだわりがちである。それというのも、日本の三菱のような複合企業が幅をきかせているためだ。例えばラファールのダッソー社は傘下に「ダッソー・システムズ(ソフトウェア)」や「ル・フィガロ(新聞)」などを持ち、サーブ社もかつて自動車製造部門「SAAB」を立ち上げている。
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