元号が令和になり、初の国賓として訪日したドナルド・トランプ大統領。
日本政府による格別な「おもてなし」ばかりが話題となったが、大きな置き土産も残していった。日本はF-35ステルス戦闘機を105機アメリカから購入し、同国の同盟国としては最大規模のF-35の保有数を誇ることになるとメッセージを発したのだ。
まあ、そのことは以前より決定していたので、特別驚くことはないが、当のアメリカはF-35よりも旧世代のF-15戦闘機を2024年までに80機調達すると述べた。当然、一機あたりのコストはF-35よりも安い。日本のメディアではこのことを「アメリカに騙された」「アメリカは高価なF-35を売りつけ、自国はローコストのF-15を調達した」などと分析している。
果たして、本当にそんな単純な話なのだろうか?
トランプ大統領の訓示
もう少し話の経緯を整理してみよう。
トランプ大統領がこの話を出したのは、横須賀基地に寄航していた海上自衛隊護衛艦「かが」に、アメリカ大統領として初めて乗艦したときの訓示の際であった。なぜ「かが」かというと、この艦がヘリコプター搭載護衛艦であり、ゆくゆくはこの艦を改修してF-35B戦闘機を搭載する計画があるからだ。まさに映画「いぶき」の世界である。
105機のF-35を追加購入することは安倍総理がこのときに改めて発言したことだが、このことは昨年12月に閣議で了解された「中期防衛力整備計画」に組み込まれている。
そして、舞台を同じくしてトランプ大統領は日本の自衛隊が退役を進めている、F-15戦闘機を80機も購入することを発表したのだ。
F-15が秘める驚くべき数字
現在、航空自衛隊を初め、本国アメリカでも運用が開始されているF-35戦闘機は「F-35(ステルス戦闘機)について調べてみた」に詳しいが、一方のF-15イーグルは初飛行が1972年と、50年近くも前になる。もっとも、現用のステルス戦闘機であるF-22ラプターが大空の主権を握るまでは、戦闘機の王者であった。F-22についても「F-22について調べてみた」を参照してもらいたい。
さて、アメリカ空軍では、この老体に鞭を打って空を飛ばせようというのではない。最新モデルのF-15EXを購入しようというわけである。
現在もF-22の不足を補うように運用されているF-15C、F-15D型が空中戦に特化した機体なのに対して、F-15EXは対地・対艦能力を付与させたモデルとなった。そのため、F-35に比べて費用は少し安い程だが、機体寿命で約2倍以上、維持費の面では半分以下という驚きの数字を実現している。
生まれ変わった大鷲
そもそも、米空軍にはF-15をベースにした「F-15E ストライクイーグル」戦闘爆撃機が存在する。
この機体は、機体構造、エンジン、センサー、兵装、アヴィオニクス(電子機器)が完璧に近いバランスを保っており、しかも、非ステルス戦闘機においては世界でもっとも優れたデザインのコクピットによってそれらが統制されているのだ。
本来は純粋な制空戦闘機として設計された飛行機だが、史上最も偉大な戦闘爆撃機と言われていることには驚くしかない。その背景にはエンジニアの測り知れない努力があった。
F-15Eは外見上、対空戦闘用のF-15D(F-15Cの複座訓練機タイプ)に酷似しているが、その変貌は単なる化粧直しの域をはるかに超えていた。
ストライクイーグル
F-15EがF-15EXのベースとなるのは想像に難くないが、このF-15EXは、従来のF-15とは別物として考えたほうがいい。
対地攻撃機という新たな役割に適応するため、F-15の構造面はおよそ60%が設計やり直しとなった。機体の強化がはかられ、保証された疲労寿命は16,000時間に延長、また、F-16のようなより小型の相棒みたいに9Gの機動にも耐えられるようになっている。
しかし、ストライクイーグルのもっとも大きな力は、二人の搭乗員がいるコクピットである。このおかげで、低高度の昼夜を分かたぬ対地攻撃任務にともなって増大した作業負荷にも対応できるようになった。歴史的に見ても、複座の戦闘機は通常、単座機に比べて優位性を持っている。映画「トップガン」を観た人なら理解できるだろう。
そして、もうひとつ忘れてならないのは、エンジンが双発という点だ。単発のF-35に比べ、旧型だからこそ信頼できるエンジンが2基も搭載されていることで、万が一、片方のエンジンに異常があってももう1基のエンジンで帰還できる確率は高まる。
F-15EX の運用
さて、ここまでF-15をもてはやしたのは理由がある。自衛隊が確保するF-35と比較した場合、活躍するフィールドが違いすぎるのだ。
ステルス戦闘機は敵国の戦闘機に対して優位に立てるが、ミサイルの搭載量は少ない。もっとも、ステルス性能を犠牲にして機体の外側にミサイルを吊るすなら話は別だが、そうした運用は本末転倒だろう。
一方、F-15EXは強化された主翼に大量の空対地ミサイルを装備し、F-35が「掃除した安全な空」から地上の目標にミサイルを叩き込むことができる。つまりは、F-15EXはF-35などのステルス戦闘機とセットで初めてその真価を発揮するわけだ。
仮に自衛隊もF-15EXを購入したとしよう。すると「対地攻撃機を保有するなど憲法違反だ」などと騒ぐ人間が現れること必至である。その意味では、自衛隊がF-35だけを購入するのはスマートな選択と言えるだろう。
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F-15Eの写真がF-15の原型機を改造した「ストリークイーグル」です。
修正させていただきました!
ご指摘ありがとうございますm(_ _)m