ミリタリー

ティーガーⅡ について調べてみた【ドイツ陸軍の切り札】

1939年9月、ナチス・ドイツのポーランド侵攻により勃発した第二次世界大戦では、ドイツの戦車は圧倒的な実力を見せ付けた。

開戦当初こそ、ヴェルサイユ条約という足枷があって表立った開発は出来なかったが、ポーランド侵攻では、Ⅰ号戦車とⅡ号戦車、合計約3,200輌あまりが主力となる。

このあたりは、「ドイツ軍の戦車の系譜を調べてみた」に詳しいが、最後に登場した「ティーガーⅡ」こそ、連合軍に「キングタイガー」と恐れられた最強の戦車だった。

「8.8cm砲」搭載の新型戦車

ティーガーⅡ
【第503重戦車大隊第3中隊のポルシェ砲塔型。砲塔前面の装甲が大きく湾曲している。前面から直撃弾を受けても上下に逃がすように曲線が取り入れられている】

1941年5月、ヒトラーは攻撃の先鋒となる新型高射砲「8.8cm Flak41」を搭載する重突破戦車の開発を要求した。しかし、当時開発中だった「VK4501(これがティーガーⅠとなる)」の車体規格ではFlak41を搭載することができず、新たに「VK4502(P)」の開発がスタートするのである。

この(P)こそ、現在では自動車メーカーとして世界的に有名なポルシェのことであり、同時にヘンシェルの「VK4503(H)」も開発が始まる。VK4502(P)は曲線で構成された砲塔を電気駆動式のユニークな車体に搭載していた。これは、エンジンで発電機を回し、その電力でモーターを動かすという、現代でいうなら「ハイブリッド」方式である。

一方、VK4503(H)は、平面を巧みに傾斜させた砲塔をパンターとよく似た車体に搭載しており、事実、パンターとは部品共通化も図られていた。

パンターは高コスト・高性能の中型戦車で、ドイツ軍として初めて傾斜装甲を取り入れた戦車でる。装甲を傾斜させることで命中弾を弾く効果があり、また装甲を傾けることで水平方向の厚みが増すというメリットがあった。しかし、装甲がの厚みが増すということは、重量が増えるということでもあり、当初の30トンから最終的には45トンにもなって完成したのである。

ポルシェの敗退

ティーガーⅡ
【※展示中のティーガーⅡ。砲塔は制式採用のヘンシェル型である】

結局、実用性と生産性を考慮した結果、VK4503(H)が1943年1月に「Ⅵ号戦車・ティーガーⅡ」として採用が決定された。ヘンシェルは、ティーガーⅠも製造した一流の機械メーカーで、後に鉄道車両の製造などでも知られるようになる。

こうして制式採用の座はヘンシェルに譲ったが、ポルシェではすでに50基の寺社設計砲塔の生産に着手しており、これらの砲塔もVK4503(H)に搭載することとなった。こうした経緯により、ティーガーⅡには「ポルシェ砲塔型」と「ヘンシェル砲塔型」が存在するようになる。

ちなみに、よく混同されがちなのが、この「ポルシェ砲塔搭載のティーガーⅡ」と「ポルシェティーガー」だ。

ポルシェティーガーは、ティーガーⅠの試作車両で、このときもヘンシェルとのトライアルに破れている。ポルシェでは大重量をカバーするため、電動モーターによるハイブリッド駆動を試みたが、結局は要求された性能に届かず、採用は見送られ、試作の数輌だけが実戦に配備されたという。

貫けない盾

ティーガーⅡ
【※パンターG型後期型。ソ連軍は実戦投入されたティーガーⅡを当初は新型パンターだと誤認していた】

こうした数々の戦車開発計画の混乱により、ティーガーⅡの量産は進捗せず、試作1号車が完成したのは1943年10月となってしまった。1945年3月までの総生産数は489両であり、これは重戦車であっても少なすぎた。

ティーガーの名を継ぎつつも、ティーガーⅡはパンター同様に斜面装甲で構成されており、事実、ティーガーⅡの実戦投入を確認したソ連軍では、当初は「新型パンター」と認識していた。だが、砲塔や車体の後面でも80mmと、他の戦車の前面並みの装甲と傾斜を構えており、主砲も71口径8.8cmと、第二次世界大戦最強の戦車砲を備えている。連合軍やソ連軍の重戦車を一撃で破壊可能で、中戦車にはオーバースペック気味だったともいわれている。しかし、他の戦車が30~40トンだった時代に68トンもの重量はやはり重すぎた。

装甲ということであれば、ティーガーⅡの装甲は、パンターよりひと回りもふた回りも強化されており、車体前面は150mm、砲塔前面は180mmもあった。とくに50の傾斜がついた車体前面装甲は、実質200mm以上に相当し、実戦でここを打ち破られた例はないともいわれている。

貫けないもののない砲弾

ティーガーⅡ
【※縦列を組むティーガーⅡ】

ティーガーⅡの脅威は装甲だけではない。

主砲のKWK43は、ティーガーⅠと同じ8.8cmながら、砲身は71口径長もある。戦車の場合、口径とは方針の長さが砲弾直径の何個分あるかを示す数値であり、70口径であれば、砲身直径の70倍の長さを意味する。ライフルなどと同様に、砲身が長いほど貫通力の強い砲弾を撃てるわけだ。

ちなみにパンターの主砲は70口径7.5cm戦車砲、ティーガーⅠでも56口径8.8cm砲を搭載しており、ティーガーⅡとの違いも明瞭である。

発射薬量も多い新型砲弾を使用していることもあって、射処理100mで203mm、射距離1,000mでは165mm、射距離2,000mでも132mm厚の装甲を貫通する圧倒的な威力を有しており、連合軍およびソ連軍のすべての戦車を撃破できた。この数字からも分かるように、最高威力の8.8cm砲を有し、装甲はその砲弾で撃たれてもほぼ貫通されないという驚異的なスペックであった。

重量に悩まされた王者

ティーガーⅡ
【※ティーガーⅡの派生モデルであるヤークトティーガー】

このように実戦では敵なしのティーガーⅡだったが、弱点がなかったわけでもない。それはやはり、その重量と大きさからくる故障率の高さと運用上の柔軟性の低さである。アメリカ軍の調査によると、ドイツ軍が喪失したティーガーⅡの60%あまりは故障と燃料切れだったという。

エンジン系統やキャタピラなどの足回りは頻繁に整備が必要となり、実際には使い勝手の悪い車両でもあったが、ティーガーⅡの車体に12.8cm砲を搭載した固定砲塔の重駆逐戦車「ヤークトティーガー」を生み出すなど、わずかながら派生系も存在した。

そして、防御戦に投入されたティーガーⅡは、その強火力と重装甲をもって敵戦車部隊に多大な出血を強要したのである。

最後に

第二次世界大戦では様々な戦車が登場した。

ティーガーのような重量級の主力戦車のほかにも、数を埋めるための中型戦車、突撃砲、軽戦車などなど。しかし、それでは部品の互換性を失い、何より肝心な生産性が犠牲になってしまう。理想は一両ですべての役割を果たせる戦車であり、現在ではすべて主力戦車に統一されるようになったのだ。

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