
画像 : リョコウバトはアメリカ先住民の貴重な食料源だったが、白人に狩り尽くされ絶滅した public domain
世界は今、深刻な食糧問題に直面しつつある。
国連の推計では、地球人口は2050年前後に100億人近くへ達すると見込まれており、それだけの人々を安定的に養うことは容易ではない。
加えて、環境破壊や気候変動、乱獲や病害といった要因によって、一部の食材は「食卓から消えかねない危機」に立たされている。
今回は、そうした「近い将来に食べられなくなるかもしれない食材」を取り上げ、背景と現状を解説する。
ウナギ

画像 : ウナギの蒲焼き pixabay cc0
ウナギはビタミンやミネラルを豊富に含む魚類であり、日本人は古代から滋養強壮の食材として利用してきた。
『万葉集』には「痩せた者はウナギを食べよ」と詠んだ歌が収められており、古くから精をつける食べ物と考えられていたことがわかる。
江戸時代には土用の丑の日にウナギを食べる風習が広まり、夏を乗り切る料理として定着した。
しかし、現在このウナギは絶滅の危機に瀕している。
特に日本人に馴染み深いニホンウナギは資源量が減少を続け、2014年には国際自然保護連合のレッドリストで絶滅危惧種に指定された。

画像 : 年々減り続けるニホンウナギの漁獲量 wiki c Epipelagic
資源減少の背景には、過去の乱獲や河川環境の変化に加え、密漁や不透明な取引が大きな問題となっている。
シラスウナギの捕獲は各地で厳しく制限されているものの、実際には無報告や違法取引が横行し、国内外への流通経路が監視しきれていない。
調査によれば、市場に出回るウナギ製品のかなりの割合が正規の捕獲経路を経ていない可能性があるとされる。
さらに、地球温暖化の影響も深刻だ。
ウナギは海で生まれ、川を遡上して成長するが、海流の変化や水温上昇が稚魚の生存に悪影響を及ぼしていると考えられている。
温暖化要因としての二酸化炭素排出は世界全体の課題であり、持続可能な漁業と同時に気候変動対策も不可欠となっている。
カカオ

画像 : カカオ豆 pixabay cc0
カカオはチョコレートやココアの原料となる果実であり、ポリフェノールを多く含み、強い抗酸化作用を持つことで知られる。
近年、カカオは深刻な危機に直面しており、将来的な存続が危ぶまれている。
気候変動による気温や降雨パターンの変化により、2050年までに現在の主要な栽培地の多くで生産が難しくなると予測されている。
カカオは栽培条件が厳しく、気候のわずかな変動でも収量が大きく減少する。
また高温化は病害虫の発生を助長し、生産にさらなる悪影響を及ぼしている。
主要生産地である西アフリカや南米では、農家が貧困に苦しみ、環境への投資が進まないことも問題を深刻化させている。
さらにガーナでは、違法な金採掘によってカカオ農地が破壊される事態が広がっている。
農家が短期的な収入を求めて土地を売却すると、採掘業者は水銀などを用いた製錬で土壌を汚染し、農地を荒廃させてしまう。カカオの木は失われ、再び作物を育てることも困難になる。
農家の困窮と違法採掘の蔓延は、カカオ生産の未来を大きく揺るがしている。
バナナ

画像 : 熟したバナナ pixabay cc0
バナナは速効性のエネルギー食として親しまれ、特にアスリートの栄養補給にも重宝されている。
かつて日本では高級品とされたが、戦後の輸入拡大により手軽に食べられる果物となった。しかし、この身近なバナナの主要品種は大きな危機に直面している。
その対象は、世界の輸出用バナナの大半を占めるキャベンディッシュ種である。
この品種が壊滅すれば、私たちが日常的に口にしている安価なバナナの供給は途絶える可能性がある。
原因は「TR4」と呼ばれる新型のバナナパナマ病である。
これは土壌伝染性のフザリウム菌によって引き起こされ、感染したバナナの根や導管を破壊し、最終的に枯死させてしまう。

画像 : フザリウム public domain
キャベンディッシュは遺伝的に均質なクローン品種であるため、一度病気が広がれば全体が被害を受ける危険が大きいとされている。
TR4は東南アジアから広がり、現在ではアフリカや中東、中南米にも拡散している。
効果的な防除法は未だ確立されておらず、現状のままではキャベンディッシュ種の国際的な生産体制が大打撃を受ける恐れがあると警告されている。
このように身近な食材であっても、その未来は決して保証されてはいない。
食卓を彩ってきた豊かな食材は、自然環境と人の営みのバランスの上に成り立っている。その危うさを知ることが、未来に食文化を残す第一歩となるだろう。
参考 :
水産庁『我が国におけるウナギをめぐる状況と対策』
IPCC 『気候変動と土地』特別報告書 (2019)
FAO統計データ(FAOSTAT, Bananas and Plantains, 各年)他
文 / 草の実堂編集部
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