海外

昆虫食の歴史 「昆虫はなぜ食べられなくなったのか?」

昆虫食とは

昆虫食とは、ハチの幼虫、イナゴなど、昆虫を食べることである。食材としては、幼虫や蛹が比較的多く用いられるが、成虫や卵も対象とされる。

アジア29国、アメリカ大陸23国で食べられ、アフリカでは少なくとも527種の昆虫が食べられている。

世界で食用にされる昆虫の種類を細かく集計すると、1400種にものぼるといわれる。

野生動物においては、アリクイ、サンゼンコウなど昆虫食が専門の動物のみならず、キツネ、タヌキ、霊長類などの雑食性の動物においても昆虫は常に食べられている。

また環境負担が少ない食べ物としても期待されている。

昆虫食の歴史

昆虫が売られているタイの市場

昆虫食の歴史

中国では「周礼」(儒教の経典の一つ)の中で、シロアリの卵の塩辛で客をもてなしたという記述があり、ヨーロッパにおいても古代ギリシャや古代ローマで、セミなどを食べたという記録が残っている。

古代ギリシアの哲学者アリストテレスもセミを食べたようで、特にセミが羽化する前の状態のものが最もおいしいとしている。

興味深い話が一つある。

2世紀、ギリシアの歴史家ディオドトスが「エチオピアでは塩漬けにしたバッタを一年中食べていた」という記述を残している。
バッタを丸ごと食べていたので、足のトゲが腸を傷つけて短命であったという。脚や翅は消化しないので、後ろ足にある刺状の突起が胃腸を傷つけて胃腸障害を起こしたようである。

では日本ではどうだろうか?

遥か遠く遡って縄文時代では、調査によって昆虫を食していたことが明らかになっている。

平安時代に書かれた日本現存最古の薬物辞典「本草和名」の中には、イナゴを食べていたことを示す記述があることが分かっている。
江戸時代にもイナゴが食べられていたことがわかっている。江戸時代の有名な百科事典の中にはイナゴの蒲焼売りの説明があり、イナゴを串に刺して蒲焼にして食べていたようである。

江戸時代にはその他にもゲンゴロウタガメ、その他の虫の幼虫などが食されていた。蚕の蛹も食べられていたが、これは養蚕がすでに行われていた平安時代頃から食べられていたと考えられている。

調理法も煮る、焼く、漬ける、でんぶにするなど様々だった。

昆虫食の歴史

江戸時代の昆虫食の記述

大正時代でも食用にされていた昆虫は合計55種にものぼる。薬用としてさらに123種もの昆虫が使われていた。ただし、バッタ、チョウなどと回答したものが多かったので、種類は実際にはもっと多かったであろうと考えられる。

第二次世界大戦後には食糧難からイナゴの食用が推奨された。他には製糸工場で糸をとったあとの蚕の蛹を女性工員が食べてしまうので、配給制にしたという記述が残っている。

食糧難の際には、昆虫は貴重なタンパク源であったことがわかる。

昆虫はなぜ食べられなくなったのか?

一つ目の理由として、人は昆虫を害虫として毛嫌いし、見た目の悪さもグロテスクな点にある。

実は害虫という概念は定住型農耕が始まってから誕生したものだ。それまで虫は人為の及ばない存在と考えられていて宗教的な対処のされかたをされていた。

例えばゴキブリは金持ちのところ、食料がたくさんあるところにしかいない虫だったためコガネムシと言われ、殺さないようにしていたほどである。

二つ目の理由としては、虫が不衛生だという認識がコレラの発生により広まった事である。コレラはハエが媒介しているということで、ハエを駆除すべきだというキャンペーンが世界中で行われた。

それでも日本の戦後のように生活が豊かでない間は、貴重なタンパク源として昆虫食は必要とされていた。それが経済が発展し外国から輸入品が安価で入ってくることで、食生活に変化が現れ始めたのである。

それまでタンパク質を補う意味で食べられていた昆虫は食べられなくなり、美味な昆虫のみが残っていった。

ところが近年、昆虫食ブームがじわじわ広がってきている。

昆虫食の歴史
2020年6月4には、無印良品のコオロギせんべいが販売開始になった。

その他にも、昆虫食専門のレストランが開業するなど注目度は年々高まってきている。

 

アバター

草の実堂編集部

投稿者の記事一覧

草の実学習塾、滝田吉一先生の弟子。
編集、校正、ライティングでは古代中国史専門。『史記』『戦国策』『正史三国志』『漢書』『資治通鑑』など古代中国の史料をもとに史実に沿った記事を執筆。

✅ 草の実堂の記事がデジタルボイスで聴けるようになりました!(随時更新中)

Youtube で聴く
Spotify で聴く
Amazon music で聴く
Audible で聴く

コメント

  1. この記事へのコメントはありません。

  1. この記事へのトラックバックはありません。

関連記事

  1. 日本人には馴染みの少ない中国の民族区域自治 【少数民族政策】
  2. 日本の呪術について調べてみた
  3. アメリカ人はなぜバーベキューが好きなのか調べてみた
  4. 日本国内で活動する「中国人スパイ」の最近の実態とは
  5. 「バリスタはノルウェーで生まれた」 コーヒー大国の顔を持つノルウ…
  6. コロナ明けの中国。旅行事情やいかに!?
  7. 多くの中国人が種を食べすぎて歯が凹む 「瓜子歯」とは
  8. 【台湾の合法ハーブ】ビンロウの数千年の歴史 ~神聖な植物だった

カテゴリー

新着記事

おすすめ記事

柴田勝家とは 〜鬼柴田と呼ばれるも温情深い猛将

柴田勝家とは天下布武を唱え戦に明け暮れた織田信長の家臣団で「鬼柴田」「鬼の権六」と恐れられその武…

細川ガラシャ ~悲劇のキリシタン【明智光秀の娘】

戦国の世にあって、一風変わったその名を耳にした人も多いだろう。悲劇のキリシタン「細川ガラシャ…

陶晴賢(すえはるたか)下克上で主君を倒すも毛利に敗れた武将

下克上と敗北陶晴賢(すえはるかた)は主君であり、当時北部九州・中国地方を支配していた大内義隆…

『中国人民大移動』延べ90億人が移動する「春運」とは

ヒトメタニューモウイルス2024年末、中国でヒトメタニューモウイルス(HMPV)による呼吸器感染…

曹操孟徳の少年期について調べてみた「正史三国志」

今回も可能な限り史実に基づき「正史三国志」を読み解きます。曹操の出自曹操孟徳(そうそ…

アーカイブ

PAGE TOP