地球温暖化の影響で、シベリアの永久凍土が急速に融解している。
永久凍土には、何百万年も前から凍結されていた有機物が含まれており、その中には未知のウイルスも存在する。
これらの数千年、数百万年前に凍結していたウイルスが、温暖化によって解き放たれ、現代人に感染する恐れがある。
近年、永久凍土に閉じ込められていた「ゾンビウイルス」と呼ばれる微生物が、科学者たちによって発見された。
「ゾンビウイルス」は、長い間休眠状態にあったにもかかわらず、感染能力を維持していることが分かっている。
科学者たちは、人類が新たなパンデミックの脅威に直面していると警告している。
目次
パンデミック対策に偏り、北極圏発の感染症リスク軽視
エクス・マルセイユ大学の遺伝学者、クラヴェリー氏は、次のように警告している。
現在のパンデミック脅威の分析は、南方の地域で発生し、その後、北上する可能性のある病気ばかりに焦点を当てている。
一方、北極圏で発生し、その後南下する可能性のある感染症については、ほとんど注目されていない。
これは大きな見落としであり、北極圏には、人間に感染して新たな感染症を引き起こす可能性のあるウイルスが存在する。
永久凍土にどのようなウイルスが潜んでいるのかはわからないが、古代の「ポリオ」のような病気を引き起こすウイルスが存在する可能性は十分にある。
このようなことが起こる可能性を想定しておかなければならない。
ポリオは、かつて世界中で多くの人命を奪った感染症で、ワクチンによって予防できるが、ワクチン接種率の低下により、再び流行する可能性がある。
永久凍土から蘇る4万8500年前のウイルス ~ヒトへの感染リスクは未知数
2014年、クラヴェリー氏はシベリアで採取された永久凍土から、数千年もの間、凍結状態にあったにもかかわらず、単細胞生物に感染する能力を維持していたウイルスを発見した。
その後、発表された研究では、シベリアの7つの異なる場所で採取された7種類の異なるウイルス株の存在が明らかになり、これらのウイルスが培養細胞を感染させることが確認された。
そのうち1つのウイルスは、なんと4万8500年前のものだったのだ。
この研究は、永久凍土に閉じ込められていたウイルスが、温暖化によって解き放たれ、新たな感染症を引き起こす可能性を示唆している。
クラヴェリー氏は、「今回我々が分離したウイルスはアメーバにしか感染せず、人間には感染リスクはない。」と述べている。
しかし、永久凍土に閉じ込められている他のウイルスが、人間に感染症を引き起こす可能性がないとは限らない。
例えば、痘瘡ウイルスやヘルペスウイルスのゲノム痕跡も検出されており、これらのウイルスはヒト病原体として知られている。
痘瘡ウイルスは、かつて世界中で多くの人命を奪った感染症で、ヘルペスウイルスは、様々な種類のウイルスを含むグループだ。
北半球5分の1を覆う永久凍土
永久凍土は、北半球の5分の1を覆い、長期間にわたって0度以下に保たれた土壌で構成されている。
主にシベリア、アラスカ、カナダ、ロシアなどに分布している。
科学者たちは、その中に数百万年前から凍結状態にある層が存在することを発見した。
永久凍土が重要なのは、生物材料を保存するのに最適な環境であるということだ。
永久凍土は冷たく、暗く、酸素が少ないため、微生物の活動が抑制され、生物材料が分解されるのを防ぐ。
一例として、ヨーグルトを永久凍土に埋めても、5万年後でも食べられる可能性があるという。
北極圏温暖化の影響 ~永久凍土融解が加速
地球の永久凍土は変化を続けている。
カナダ、シベリア、アラスカなどの主要な永久凍土地域では、気候変動の影響により、特に北極圏で顕著に温暖化が進み、上層部分が融解している。
気象学者によると、北極圏の温暖化速度は、地球全体の平均的な温暖化速度よりも数倍速いという。
しかし、クラヴェリー氏は、直接的な永久凍土融解よりも深刻な問題があると懸念している。
真の危険は「北極海氷の消失」という別の地球温暖化の影響だ。
北極海氷の消失は、「海面上昇、海洋生物への影響、北極圏航路の開設」など、様々な問題を引き起こす可能性がある。
実際、シベリアでの船舶運航、交通量、産業開発が増加している。
シベリアの永久凍土には、豊富な石油や鉱物資源が含まれていると考えられており、さらに巨大な鉱山開発が計画されている。
石油や鉱石を採掘するために、深層永久凍土に巨大な穴を掘る予定だ。
しかし、鉱山開発は永久凍土融解を加速させ、さらに環境破壊を引き起こす可能性がある。
これらの開発活動によって、永久凍土に閉じ込められていた膨大な量の病原体が解き放たれ、鉱山労働者たちがこれらのウイルスを吸い込んでしまう可能性があるのだ。
その結果、新たな感染症を引き起こす可能性があり、過去のパンデミックの例からも、未知の病原体が引き起こす被害は壊滅的となる可能性もある。
土地利用の変化が招く感染症リスク
過去の感染症流行の歴史を見ても、土地利用の変化が感染症発生の主要な要因の一つとなっている。
ニパウイルスは、人間によって生息地を奪われたコウモリによって拡散された。
同様にサル痘は、アフリカの都市化の進展と関連している。
そして北極圏でこれから行われようとしているのは、まさに土地利用の完全な変化だ。
これは他の地域同様に、危険な事態となる可能性がある。
ネアンデルタール人が感染した「未知のウイルス」が復活する可能性
クラヴェリー氏は、「私たちが、これまで一度も接触したことのない微生物や病原体と遭遇する可能性もある」と指摘する。
人類の免疫システムは、それらに対して防御力が低い可能性もある。
また、「ネアンデルタール人が感染していたかもしれない未知のウイルス」が復活し、私たちを襲うというシナリオも、可能性は低いとはいえ現実的に起こりうるのだ。
これらの懸念を受け、科学者たちは古代微生物による感染症の早期発見と、封じ込めを目的とした北極圏モニタリングネットワークの構築を計画している。
・古代微生物による感染症の早期発見
・感染者の隔離
・感染者への専門的な医療提供
・感染者の地域外移動の防止
また、クラヴェリー氏らは、北極圏の国際的な教育ネットワークであるUArctic(北極大学)と協力し、隔離施設の設置と早期発見・治療のための医療支援計画を策定している。
これは感染症の封じ込めを目的としたもので、隔離施設は感染症患者を隔離し、二次感染を防ぐために重要だ。
さいごに
永久凍土の融解はすでに始まっており、北極圏の温暖化を止めるというのは、すでに非現実的に思われる。
永久凍土に閉じ込められていたゾンビウイルスなどの未知のウイルスが、温暖化によって解き放たれ、新たな感染症を引き起こす可能性は十分にありえる。
そのため、これらの微生物がどのような病気を引き起こすのか、また感染対策などの研究が重要になってくるだろう。
参考 :
Jean-Michel Claverie (0000-0003-1424-0315) – ORCID
Arctic zombie viruses in Siberia could spark terrifying new pandemic, scientists warn | Health | The Guardian
国際北極圏評議会: Arctic Monitoring and Assessment Programme | AMAP
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