多くのファンを魅了する巨大恐竜界のスーパースター
テレビ、新聞、インターネット等のメディアで度々世間を騒がせる「最大級の恐竜発見」というニュースは今日では決して珍しいものではなく、恐竜ファンで議論の対象となる「最大の恐竜」は何度も更新されている。
現在の最大の恐竜は発見された化石のサイズからアルゼンチノサウルスと言われているが、骨格が完全に復元されている(体高も含めた正確なサイズがはっきり分かっている)という意味ではブラキオサウルス(及び近縁種であるジラファティタン)が、今も最大の恐竜として君臨している。
今回は、巨大恐竜界のスーパースターとして高い人気を誇るブラキオサウルスを紹介する。
史上最大級の発見
1900年、アメリカのコロラド州フルータで、かつてないほど巨大な恐竜の化石が発見された。
発見者であるアメリカの古生物学者エルマー・サミュエル・リッグス(Elmer S. Riggs)の身体よりも大きな上腕骨を初めとする巨大な化石の持ち主には、前脚が後脚よりも長いという他の恐竜とは大きく違う「特徴」があり、1903年にはその特徴にちなんで「腕トカゲ」を意味するブラキオサウルス(個体名は「ブラキオサウルス・アルティトラクス」)と名付けられた。
復元されたブラキオサウルスは全長25メートル、体高16メートルという規格外のサイズであり、正に史上最大級の発見だった。
なお、巨大恐竜の宝庫である竜脚類だが、多くの竜脚類恐竜が首を水平にした「吊り橋スタイル」であるのに対して、ブラキオサウルスはキリンのように首を立てた姿で描かれる事が多い。(ブラキオサウルスと同じく後脚より前脚の方が長いキリンを参考にした姿だが、近年の研究ではキリンのように高い角度まで首を上げられなかったという説もある)
首を立てている分、当然ブラキオサウルスの体高も高くなるため「高さ」という点ではブラキオサウルスが他の恐竜よりも上回っていた(完全に復元された骨格とともに高さでもブラキオサウルスが最大級)というのが現在の定説だが、日々の研究によって情報はアップデートされるものである。
完全に復元された恐竜としては現在もブラキオサウルスが最も背の高い恐竜ではあるが、ブラキオサウルスの近縁種でより大きな恐竜の化石の一部も見付かっているので、ブラキオサウルスの記録が更新される可能性は十分にある。
ブラキオサウルスは水中で生活していた?
先述の通り、恐竜の研究は常に進んでおり、最新の情報は常にアップデートされている。
ブラキオサウルスも100年以上研究が続いているため、初期の学説と現在の学説は大きく変わっている。
有名な説を紹介すると、当初、ブラキオサウルスは水の中で生活したと考えられていた。
80トン以上あったと言われていた(説によってバラツキはあるが現在では20トン代が定説になっている)重い身体を支えるため、身体が軽くなる水の中は好都合だったという訳だ。(顔だけ水の上から出して呼吸していたという「珍説」も当時はあったが、今では否定されている)
水の中にいれば肉食恐竜から襲われる心配もなく、身体に負担も掛からないという、メリットだけ見れば説得力があるように見える話だが、この説には「落とし穴」がある。
人間が海や川や湖、プールといった水の中で遊ぶだけなら気にならないが、水には「水圧」というものがあり、水遊びをしている時は勿論、入浴中でも身体には水圧が掛かっている。
ダイビングで水深10メートル以上を潜っているならともかく、プール遊びや入浴の最中に水圧で押し潰されたというニュースを聞かないように、人間が水深1メートル程度で過ごすだけなら何の問題もないが、ブラキオサウルスのような超巨大生物が水浴び感覚で水の中に入るとなると話は変わって来る。
勿論、人間同様水深1メートル程度の川を渡るくらいなら問題はないが、ペットボトルが水圧に負けて凹むような深さにブラキオサウルスが入ると、掛かる水圧の強さは人間のそれとは桁違いだ。
地球史上屈指の巨体を誇るブラキオサウルスでも、水深10メートル級の強烈な水圧に耐える事は出来なかっただろう。
ブラキオサウルスが陸で生活していたヒント
そうなると、当初は「陸の上だと重い身体を支えられないから無理」と否定されていた陸上生活しか選択肢がなくなる。
当初の説よりかなり軽くなったとはいえ、20トン以上もある身体を支えるのは簡単ではないが、ブラキオサウルスはどのように自慢の巨体を支えていたのだろうか。
そのヒントとなるのは、ゾウである。
ゾウの足の裏は体重を支えるためのクッションになっており、ブラキオサウルスも足の骨格からゾウと同じような構造だったという説が有力視されている。(不用意に足を曲げると重さで折れてしまう恐れがあるため、基本的に足をまっすぐにしているゾウと同じく、ブラキオサウルスも足をまっすぐ伸ばして歩いていたと言われている)
余談だが、ゾウの食事量は1日約150キロと言われているが、ゾウより10倍大きな身体を持つブラキオサウルスは巨大な身体を保つため(ゾウを基準にした単純計算だが)1日1500キロ食べていたという計算になる。
そして、ブラキオサウルスは陸上で生活出来ると証明された今日ではゾウのように群れを作って行動し、日々餌となる木を探して歩き回っていたと言われている。
世界各地で発見されているブラキオサウルスの仲間と新説
ブラキオサウルスが生息していたジュラ紀後期から白亜紀前期は、大陸が地続きだった事もあって近縁種も幅広く分布しており、アフリカやヨーロッパでもブラキオサウルスの仲間が発見されている。
特に、1907年から始まったタンザニアの発掘で完全な骨格が発見された個体には、ブラキオサウルス・ブランカイと名付けられ、復元されたものとしては世界最大の恐竜としてギネスブックに掲載されるなど「世界一有名なブラキオサウルス」として世界中で認知されていた。
ところが、アメリカで発見されたブラキオサウルス・アルティトラクスとの骨格の特徴の違いから、ブラキオサウルス・ブランカイはブラキオサウルス科の恐竜であるジラファティタン(Giraffatitan:ギラファティタンとも)だったと判明し、ベルリンのフンボルト博物館に展示されている個体もジラファティタン・ブランカイに改名されている。(1957年にポルトガルで発見されたブラキオサウルス・アタライエンシスも同じような経緯で、今日ではルソティタンという名前になっている)
世界一有名なブラキオサウルスと言っても過言ではなかったブラキオサウルス・ブランカイが、コアな恐竜ファンしか名前を知らないであろうジラファティタンであると判明した事は大きな衝撃を与えた。
細かいところで骨格や身体の構造が違うと言われているブラキオサウルス、ルソティタン、ジラファティタンだが、イラストで描かれた姿はほぼ同じであり、それぞれ北米種、欧州種、アフリカ種に分けて考えられていた時代があった事を考えると、人気ゲームの『モンスターハンター』シリーズ風に「ブラキオサウルス亜種」や「ブラキオサウルス稀少種」と表現する方がしっくり来る。
これまでジラファティタンを参考に描かれて来たブラキオサウルスは本当はどのような姿だったのか気になるが、ブラキオサウルスに関する研究は今も続いている。
新たなブラキオサウルス科の恐竜の発見や新説の発表も含め、更なる情報のアップデートに期待したい。
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