恐竜界最大のライバル
19世紀後半、二人の学者による壮絶な恐竜の化石発見競争が勃発した。
オスニエル・チャールズ・マーシュ と エドワード・ドリンカー・コープのライバル関係と競争は「化石戦争」という名で今でも恐竜ファンの語り草となっている。
今回は、生涯を通して壮絶な争いを繰り広げられた化石戦争と、あまり語られない両者のその後を紹介する。
フィリーの決別
お互いの生涯に於いて強烈なライバル(もしくは敵)としてあり続けたマーシュとコープだが、後述の事件によって仲違いするまでは「表面上」は同業の友人として親しく接していた。(フィラデルフィアの裕福な家庭で育ったコープに対してマーシュはニューヨーク州の田舎の貧しい家庭で育つなど両者の出自も対照的で、性格的にも気が合う要素はほとんどなかった)
一緒に発掘を行うなど見た目の上では仲良くしていた一方で、裏では発掘に使用した採石所の管理人にお金(要するに賄賂)を渡して次は自分を優遇するよう働き掛けるなど心の中では敵対心を持っていた二人だが、コープが発見したエラスモサウルスの復元が間違っている(頭を首ではなく尻尾に付けていた)とマーシュが指摘した事がきっかけとなり、元から崩壊寸前だった両者の関係に亀裂が入る。
実際にコープの間違いを指摘したのはアメリカの古生物学者・ジョセフ・ライディという説もあるが、ここでは「エラスモサウルスという首長竜を発見したのでフィラデルフィアまで見に来て欲しい」というコープの誘いを受けたマーシュがエラスモサウルスを見た時にコープの間違いを指摘したという説を採用する。(いずれにせよ、マーシュがエラスモサウルスをコープ叩きのネタに使ったのは事実である)
エラスモサウルスの一件によって両者の不仲は決定的なものとなり、論文で相手を攻撃するなど関係は最悪なものになる。
マーシュとコープが敵対関係になった1870年代中頃、ワイオミング、サウスダコタ、コロラドといったアメリカの中西部では化石ラッシュが起こっており、二人の争いの場は東海岸から中西部へと移る。
化石戦争勃発
中西部に進出したマーシュとコープは、現代まで語り継がれる貴重な発見の数々で世間を驚かせる。
両者によって新たに名付けれた恐竜は136種にも及び、そのうちの大半が後に否定されて無効名となってしまったものの、調査の度に報告される大発見は世間の注目を集めるのに十分すぎた。
これまで10種類にも満たなかったアメリカの恐竜は、マーシュとコープによって飛躍的に増加するが、世界を巻き込んだ恐竜フィーバーの裏では醜い妨害合戦が行われていた。
前述した論文によるお互いの批判、攻撃は序の口に過ぎず、互いの陣営にスパイを送り込むのは当たり前。
現場から発掘チームが撤収する時は、貴重な化石が相手の手に渡らないよう破壊してから立ち去るという罰当たりな行為もザラだった。
更に、発掘現場で両陣営が鉢合わせした時は喧嘩に発展するなど、マーシュとコープのライバル関係は「戦争」と呼ぶべきレベルであり、現代に伝わる「化石戦争(Born Wars)」という言葉は決して大袈裟なものではなかった。
化石戦争の結末
マーシュとコープの対抗心は両者の晩年になっても衰える事がなく、1897年にコープがこの世を去るまで両者は敵であり続けた。
また、晩年の両者はともに破産状態となっており、全盛期の勢いは見る影もなかった。
130以上にも及ぶ恐竜の発見と、強烈なライバル関係で世間を騒がせたマーシュとコープの化石戦争の勝敗から述べると、発見した恐竜の数だけを見たら80対56でマーシュの「勝利」だった。
アロサウルス、ステゴサウルス、トリケラトプス、カマラサウルス、マノスポンディルス(後にティラノサウルスと同一種である事が判明)といった誰もが知る恐竜の発見は紛れもない彼らの功績であり、それは誰もが認めている。
だが、両者とも発表を焦るあまり化石の復元や研究が雑なものになってしまい、命名された恐竜の大半が後の研究で否定されるという、研究者としては非常に「お粗末」なものだった。(マーシュが命名したブロントサウルスのように一度否定されてから後に復活した例もあるが、これはレアケースである)
化石戦争の意味
恐竜ファンなら化石戦争という言葉を一度は聞いた事があるが、マーシュとコープのライバル関係と多くの恐竜が命名されたという歴史的功績が語られるだけで、その後の顛末はほとんど知られていない。
後世に伝えられるのは基本的にポジティブな部分だけというのはよくある話だが、世間を巻き込んだ大喧嘩の結末が両者の破滅というのは確かに締まらない結果ではある。
子供の頃に化石戦争を知った時は、マーシュとコープが切磋琢磨する事によって多くの恐竜が発見され、恐竜研究に於いても大きな貢献をしたと思っていたが、その大半がデタラメだった(おまけに両者とも破産して惨めな晩年を過ごしていた)という事もあり、知れば知るほどがっかりするという、何とも「残念」な出来事だった。(当時の自分のような恐竜好きの小学生をターゲットにした子供向けの本にネガティブな事を書くはずがないので、化石戦争の本当の結末を知らないのは当たり前といえば当たり前だが)
マーシュとコープの研究成果を現代人の目から見ると、名付けた恐竜の大半が否定されている以上「過大評価」と言わざるを得ないが、今でも語り継がれるライバル関係と、アメリカの恐竜研究を大きく発展させた功績は、今でも色褪せない。
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