上野で待ってる「夜明けの泥棒」
恐竜の情報は絶えずアップデートされるもので、「最古の恐竜は何か?」という疑問に対する答えは恐らく永遠に出ないだろう。
筆者が恐竜と出会った頃はエオラプトルとヘレラサウルスが最古の恐竜と言われていたが、21世紀に入ってからエオドロマエウスにパンファギアと更なる初期の恐竜が命名されている。
いずれも気になる恐竜だが、上野の国立科学博物館には以前紹介したヘレラサウルスとともにエオラプトルが展示されており、恐竜ファンとして見逃せない展示の一つとなっている。
今回は、恐竜時代の夜明けを告げるエオラプトルを紹介する。
恐竜時代の夜明け
恐竜がいつから登場したかという明確な証拠はなく、エオラプトルなど現時点で発見されている恐竜達の年代を「暫定的に」最古とするしかない。
そういう意味で恐竜の起源は2億3000万年前後(厳密な年代まで言い出したらキリがない)となるのだが、初期の恐竜達は総じてアルゼンチンなど南米で発見されており、今回の主役であるエオラプトルも例外ではない。
エオラプトル(Eoraptor)とは「夜明けの泥棒」という意味で、恐竜時代の夜明けを飾る恐竜として相応しい名前になっている。
エオラプトルの発見
1991年、アルゼンチンのイスチグアラスト州立公園(別名「月の谷」)で、シカゴ大学とサン・ファン大学が発掘を行っていた。
この時にサン・ファン大学のリカルド・マルティネスによって新種の恐竜が発見された。(言うまでもないが、この新種の恐竜はエオラプトルであり、最古の恐竜である事を何度も強調しているが、エオラプトルが発見されたのは1991年と、実はかなり最近の話である)
新種の恐竜の発見から命名まで数十年掛かるのも珍しくないが、エオラプトルの化石はほぼ完全な状態であり、発見から僅か2年後の1993年にポール・セレノによってエオラプトル・ルネンシス(月の谷の夜明けの泥棒)と命名された。
ルネンシスの由来は発見場所であるイスチグアラスト州立公園が月の谷と呼ばれている事にちなんだものだが、恐竜時代の夜明けを告げる恐竜が発見されたのが月の谷というのは偶然ではあるが、夜明けと月を同時に名前に入れるネーミングセンスの良さを感じさせる素晴らしい名前だった。
NHKの本気!?アニメに登場したエオラプトル
筆者の記憶ではエオラプトルの名前は早くから日本でも知られており、1993年に『天才てれびくん』の番組内で放送されて、自分も見ていた『恐竜惑星』というアニメに命名直後ながら登場している。
その際にエオラプトルが最古の恐竜として紹介されていた事ははっきりと覚えており、それが筆者とエオラプトルの出会いである。
恐竜から少し離れてアニメの話になるが、1クール(12-13話)の放送がメインとなっている現在のアニメはCMを除けば24分、話数も12話か13話と少ないように見えるが、それでも制作には最低でも1年以上の時間が必要(アニメ化企画の立ち上げから放送開始まで3年以上掛かる事も珍しくない)と言われている。
『恐竜惑星』は番組のミニコーナーで1話10分程度で、エオラプトルが登場する第二部まで2ヶ月の休止期間があった(その間は再放送を行っていた)のでまだ時間的な余裕はあったが、アニメと恐竜のどちらも好きな自分が大人になった今、当時の記録を呼び起こした上で現実的な事を考えると、シナリオも登場させる恐竜も固めた上で制作に入っているアニメに、命名されたばかりの恐竜を急遽登場させる余裕はあったのだろうか。
エオラプトルは作品終盤のワンカットのみの出演だったのでその気になれば差し替えも可能ではあるが、普通に考えたら新種の恐竜が命名されたから制作中のアニメに急遽登場させようというのは無茶ぶりだ。(最古の恐竜をワンカットだけ登場させるならヘレラサウルスで十分である)
それも承知で納期ギリギリで頑張ったブラック現場説(確かに実現可能ではあるが夢がない)以外で自分の納得出来る理由を考えていたが、関係者の名前を見ると『恐竜惑星』には日本の恐竜研究の第一人者だった小畠郁生氏が監修として参加し、自身も視聴者の質問に答えるため「恐竜博士」として出演していた。
これは筆者の想像であると前置きするが、当時の日本に於いて最先端の情報を持っていた小畠氏が監修していたという事は、アルゼンチンで発見されたばかりの新種の恐竜が間もなく命名されるという情報を得ていた可能性は十分ある。
重ねていうが、これは筆者の想像であり、小畠氏が存命中に当時名無しの恐竜だったエオラプトルの情報を提供したと発言した事実もない(但し、監修として制作陣に前以て間もなくエオラプトルという恐竜が命名されるから登場させようと提案していれば辻褄が合う)が、いずれにせよ、エオラプトルの命名からほぼ1年足らずでアニメに登場させたのは「NHKの本気」というべき離れ業だった。
エオラプトルは獣脚類?竜脚類?
やや話が逸れたが、エオラプトルの研究の歴史を辿る。
あまり綺麗な写真ではないが、まずは国立科学博物館で撮ったエオラプトルの展示と説明をご覧いただきたい。
かつては獣脚類に分類されることもあったが、いまでは植物食の竜脚形類に。
「ラプトル」という名前なので肉食恐竜という認識でいる者が多いが、エオラプトルは研究の進展とともに分類まで変わってしまった恐竜である。
1996年、エオラプトルを発見したリカルド・マルティネスが新たにエオラプトルと見られる恐竜を発見するが、研究が進むにつれてその恐竜とエオラプトルとの違いが明らかになり、それと同時にエオラプトルが獣脚類から遠ざかる事になる。
実のところ、エオラプトルの歯には竜脚類にも見られる特徴があり、本当に獣脚類か疑問視する声は早い段階からあったが、その答えをほぼ完璧な形で証明したのが今回発見された新種の恐竜だった。
2011年にエオドロマエウスと命名された恐竜の歯や爪はエオラプトルより捕食に向いたものであり、歯の一部に竜脚類の特徴を持ったエオラプトルは雑食性の竜脚類と分類される事になった。(国立科学博物館の説明には植物食とあるが、竜脚類の決め手となった歯には肉食に適した部分も確認されているため今日では雑食恐竜の見方が強い)
大型恐竜のご先祖様?
獣脚類から竜脚類に分類が変わったエオラプトルは、今日では大型草食恐竜の祖先とされているが、あまりに原始的すぎる特徴が多いため異論の声は絶えず、今後の研究次第では国立科学博物館の説明が再び変わる可能性が大いにある。
エオドロマエウス(シカゴ大学監修復元)は、 三畳紀後期の初期の恐竜。恐竜博2016では同時期の同じ場所に生息していたエオラプトルと並んで展示していますが、よく見てその違いを探してみてくださいね!#いのちのたび博物館 #恐竜博2016 pic.twitter.com/VhLH9vonBo
— 恐竜博2016北九州展 (@dino2016kitaq) July 31, 2016
また、エオラプトルとエオドロマエウスは専門家が認めるほど似ている恐竜だが、ここまで似ていると両者の祖先が共通している可能性が高い。
それが恐竜とはまた別の種で、最古の恐竜であるエオラプトルとエオドロマエウスに進化したのか、本当に最古の恐竜として全ての恐竜の祖先となるかは分からないが、進化の歴史を変える更なる発見に期待したい。
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