中島敦(なかじま あつし)といえば、「山月記」や「李陵」といった中国古典を題材にした作品が有名です。
作品から感じる繊細かつ重厚な雰囲気から、彼自身も真面目で堅物だったでのは…と思う方も多いかもしれません。
今回は文学者としての顔とはまるで異なる中島敦を、彼の詩生活から探っていきましょう。
中島敦の生い立ち
中島敦は1909年、東京府東京市四谷区(現在の新宿区)に生まれました。
祖父、伯父は漢学者で、父は中学の漢文教師をしていた学者の家系です。
そんな家庭で生まれた敦も幼少期から非常に聡明だったと言われています。
1930年に東京帝国大学国文科に進み、卒業後は横浜高等女学校(現在の横浜学園高等学校)で教壇に立ちました。
持病の喘息と闘いながらも執筆活動を続け、パラオ南洋庁の官吏(教科書編修書記)を経たのち専業作家になりますが、同年に持病の喘息が悪化し、33歳で急逝します。
「弟子」や「李陵」などの代表作の多くは。死後に発表されました。
山月記で有名な中島敦は、プライドが高い真面目な秀才?
中島敦の代表作といえば「山月記」です。
高校の教科書に掲載されているので、読んだことがある人も多いでしょう。
「どんな話だっけ?」という人向けに、山月記のあらすじをざっくり説明します。
主人公の李徴(りちょう)は、詩人になることを夢見て仕事をやめた元・エリート官僚。
詩人になって名を残すつもりでしたが、彼の詩は世間からいっこうに評価されず、妻子を抱えたまま、貧しい暮らしを強いられることになります。
「自分には才能はあるはず。なぜ認められないのだ…。」と李徴は徐々に追い詰められていき、ついには発狂して虎に変貌してしまいます。
その後、官吏を取り締まる監視官で李徴の友人である袁傪(えんさん)と林の中で出くわし、自分は「臆病な自尊心」と「尊大な羞恥心」のために虎になってしまったと語ります。
その後、袁傪に妻子を頼み、自身は草むらの中へ消えていくのでした。
プライドが高く羞恥心を強く持ち、虎へ変貌する主人公…執筆者である敦自身もそうだったのではないか?と感じてしまいますね。
敦は他にも『李陵』という作品も執筆しており、こちらも古典中国を題材にした古風な作品です。
こうした作品から、中島敦は秀才で自尊心が高く、非常にまじめといった印象を持たれた方も多いでしょう。
さらに7・3分け+丸眼鏡という特徴的な写真もその印象を加速させます。
真面目な青年が強い羞恥心とプライドを悶々と持て余した結果、歴史的名作へと昇華させた…かと思えば実際の性格はかなり違っていたようです。
好きな女性を略奪して授かり婚!肉食系男子だった中島敦
中島敦は東京大学在学中、作品執筆だけに没頭していたかと思いきや、ダンスホールや雀荘に入り浸る生活を送っていたそうです。
あの真面目そうな写真や作風からは想像もできないくらい、遊び人だったのかもしれません。
そして麻雀荘のスタッフだった、橋本タカに一目ぼれ。
ところが既にタカは従兄弟の許嫁でした。
しかし、タカのことを諦められなった敦は、従兄弟に自分にタカを譲るよう懇願する手紙を出します。
その後、タカの叔母が激怒して中島家に乗り込んで来るなど紆余曲折を経ながらも説得を続け、ついに敦はタカを略奪することに成功したのでした。
敦は大学を卒業するまでは入籍を許されず、卒業までは二人は別々に暮らしていましたが、ちょこちょこ会っているうちに、なんとタカが妊娠。
今でいう授かり婚です。
細面の大人しそうな草食系男子かと思ったら、略奪して授かり婚を果たした肉食系男子だったわけです。
女生徒たちから大人気!赤いバラで愛情表現されるほどの色男っぷり
その後、大学を卒業した中島敦は、横浜高等女学校の教員として単身赴任で働き始めます。
話し上手で多趣味、明朗快活な性格だった敦は、女生徒から非常に人気があったそうです。
敦のことを好きすぎるあまり、授業が始まる前に教卓に赤い薔薇の花を飾るという、何ともロマンティックな愛情表現を行なった生徒もいたほどでした。
またある時、数学の教師が病気になり、敦が代理として授業を行ったことがありました。
敦は数学は担当外でしたが、彼が授業をしたクラスがなんと数学のテストで学年1位を記録。
教え方が上手だったこともありますが、生徒たちから非常に人気があったため「中島先生のために頑張る!」と勉強の意欲を高めたのかもしれません。
敦が妻子持ちだったことが知られた時、女生徒たちには「先生、結婚してたの!?」と驚かれ、見合い話を持ってきた理事長や同僚たちにもかなり驚かれたようです。
ちなみに敦はこれに対して「一度も独身だと言った覚えはないよ」と返したそうです。
女性からモテモテで常に人気があったため、独身っぽく見えたのかもしれません。
おわりに
中島敦の真面目でお堅いイメージが、少し変わったのではないでしょうか。
彼の性格を踏まえてもう一度作品を読むと、また違った味わいを感じられるかもしれません。
参考 :
眠れないほどおもしろいやばい文豪 著:板野 博行
よちよち文藝部 著:久世番子
有名すぎる文学作品をだいたい10ページくらいの漫画で読む。著:ドリヤス工場
李陵・山月記・弟子・名人伝 著:中島 敦
この記事へのコメントはありません。