宇宙には様々な天体が存在する。
我々の住む地球のような惑星、太陽のような恒星、ブラックホールなどなど。
しかし、天文学者でもない限り、耳慣れない天体も多い。「中性子星(ちゅうせいしせい)」もそのひとつだ。
その中性子星が地球に接近すると分かったら、人類にどのような影響をもたらすのだろうか?
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中性子星
※中性子星 右上方向にジェットを放出する「ほ座」のベラ・パルサー。中性子星自体は内部に存在し、ガスに遮蔽されて見えない。
中性子星(ちゅうせいしせい、英: neutron star)とは、質量の大きな恒星が進化した最晩年の天体の一種である。質量が太陽程度、半径10km程度、大気の厚さは1m程度で、中性子が主な成分の天体である。明るさは太陽の約100万分の1。
中性子とは、原子を構成する最小単位であり、原子は電子と原子核でできている。さらにほとんどの原子核は陽子と中性子でできている。つまり、素粒子の一種であり、中性子星は、「星」となっているが、我々の知るような「惑星」とは全く異なる。この中性子星の大気は厚さが約1mほどで、その下には固体の「地殻」があるが、実際には「観測はできても実体がない星」とでも考えれたほうが良さそうだ。
巨大な質量の恒星が超新星爆発を起すと超高密度で超高温の芯(核)が残り、残った芯の質量が太陽の2-3倍程度なら中性子星として残るが、それ以上ならば重力崩壊が止まることなくブラックホールになる。超新星爆発の前段階でどういった条件ならばどのくらいの芯の質量が残り、その結果中性子星になるか、あるいはブラックホールになるかといった精密な条件は現在ではあまりはっきりしないが、太陽質量の30倍以上の恒星はほぼブラックホールになると考えられている。
中性子星はブラックホールになり損ねた天体ともいえるが、そのために途方もなく巨大な表面重力を生み出す。本当に途方もないので具体的な数字はあえて挙げないが、地球では数グラム程度のモノも中性子星では数億トンにもなるほど強力な重力が働くと想像されている。
なお、中性子星は高速で回転しており、可視光線、電波、X選を放出している。その回転する中性子星を別名『パルサー』とも呼び、その回転運動から「宇宙の灯台」と称されることもある。
中性子星の移動
※超新星残骸G350.1-0.3
さて、この中性子星の近くでは何が起こるのかというと、他の天体は強力な放射線に曝され、その重力に吸い込まれるように崩壊してしまう。
2012年、NASAのX線天文衛星「チャンドラ」が珍しいものを撮影している。
チャンドラの名称は、白色矮星が中性子星になるための質量限界を割り出したインド系アメリカ人物理学者スブラマニアン・チャンドラセカールからとったものである。また「チャンドラ」とはサンスクリット語で月という意味でもある。
そのチャンドラが撮影したのは「G350.1-0.3」という超新星残骸だった。
恒星が超新星爆発を起すと、光速の10%、即ち30,000km/sもの速さで、恒星物質のほとんど全てを吹き飛ばす。衝撃波は徐々に遅くなり、音速以下に落ちるまでに数十万年に渡り数十パーセク以上の領域に広がるが、この広がった噴出物が「超新星残骸」という構造になって残るわけだ。
「G350.1-0.3」は、地球から天の川銀河の中心方向に14700光年離れた、さそり座の領域にある。濃いガス雲のすぐそばで爆発が起こったため、恒星物質は拡大できず、長細くいびつな形態になったと説明された。別の超新星残骸の画像では、超新星爆発のあとに残された中性子星らしき天体が見られるが、「G350.1-0.3」の中性子星は残骸のX線が明るい場所からは遠く離れている。
これは、超新星爆発がX線で明るい箇所を中心として起き、中性子星は爆発の衝撃で弾き飛ばされたことを意味している。観測からの推算通り爆発が600~1200年前のものなら、中性子星は時速480万kmもの速度で移動していることになる。これは同じように高速で移動している「とも座Aの中性子星」の速度とほぼ同じだ。
つまり、中性子星は超高速で宇宙を移動するということがわかっている。
中性子星接近!
この中性子星が太陽系に進路を向けないという保証はない。
だが、今のところ最も近い中性子星は地球から400光年という距離に発見されており、例え太陽系に向かったとしても到着は早くても数千年後の話だ。
しかし、「仮に」太陽系に接近したとしたらどうなるのだろうか?
中性子星が太陽系に進入すると、太陽系内の惑星、小惑星、恒星のすべてが引き寄せられる。強い重力に捕まった天体が中性子星に衝突すると、核爆発が起きて大量の放射線を発生させると考えられている。その放射線は、地球の大気に穴を開けるには十分な強さであり、人類は無防備なまま強力な放射線に曝されてしまうだろう。
さらに中性子星が地球に接近すると、主に二つのことが起きるはずだ。
ひとつは地球の中心部である内核と、その外にある地殻が熱せられて予測できないほどの地震が起き、地殻変動によって世界中の火山が火を吹くだろう。
もうひとつは、中性子星の重力によって地球が引き裂かれることである。地表の物体が「空に落ちてゆく」ようにボロボロに崩れて引き寄せられる。バスタブに水を張り、排水溝から一番遠いところに墨を垂らしてみよう。そこで排水溝を塞ぐ栓を抜けば、張られた水と共に墨が不規則に広がりながら、排水溝に吸い込まれてゆく様子が見られるはずである。
排水溝を中性子星、墨を地球に置き換えれば、どのような光景になるか想像できるだろう。
形をとどめられなくなった地球は内部物質が溢れ出て、やがては中性子星に衝突して爆発するか、粉々になってその重力に捉えられた欠片が、中性子星の周辺で輪を作ると予測されている。しかし、その光景を人類が地上から目にすることはできない。大量に降り注ぐ強力な放射線や地殻変動によりすでに絶滅しているからだ。
現代版・ノアの箱舟
※シリンダー型コロニーの内部
興味深いシミュレーションがある。
もし、「75年後に中性子星が地球に接近すると判明したらどうするのか?」というものだ。
それによれば、人類に残される選択肢は二つしかない。ひとつは絶滅までの時間を怯えながら過ごすこと。もうひとつは、全人類の力を集結させて超巨大な宇宙船を建造し、新天地に向けて脱出するという選択肢だ。
後者を選んだ場合、地球とよく似た環境の星、つまり宇宙船の最終目的地を決めなければならない。近年、ケプラー宇宙望遠鏡により太陽系の外側に「生命が住めそうな条件を満たしている惑星」が次々と発見されている。それらは、「ハビタブル・ゾーン」と呼ばれる恒星からほどよい距離の軌道を回っており、表面に水が存在する可能性があるという。こうした生命が住める可能性がある惑星のうち、最も近い物は地球から11光年先に確認された。
やがて、地球から10光年以内にこうした「移住先」が発見されることがあるかもしれない。
その移住先へと向かう「現代版・ノアの箱舟」は、巨大な円筒形をしており、筒の内側に大地を作る。筒を回転させることで遠心力による擬似的な重力を発生させて地球と変わらない環境にしようというわけだ。
このアイデアは、1969年に当時アメリカのプリンストン大学教授であったジェラルド・オニールらによって提唱された「スペースコロニー」のアイデアを取り入れている。
その宇宙船の後部には巨大な緩衝装置と、最後尾にはパラボラアンテナのような形状の金属板を取り付けることになる。推進方法はいたってシンプルだ。宇宙船の最後部から核爆弾を断続的に放出し、数百メートル離れてから爆発を起せばその衝撃波が宇宙船を加速させる。仮に、10日間連続で3秒に一度の割合で爆発を起せば、宇宙船は光速の7%まで加速できる計算になる。
しかし、それでも新天地への船旅は何十年、何百年とかかるだろう。しかも、宇宙船の定員は約25万人しかいない。人類の99%は地球に残されるしかないのだ。
最後に
今のところ人類は、中性子星接近の心配も超新星爆発の心配もしなくていい。
もっとも可能性がある超新星爆発は、地球から640光年離れたオリオン座α星「ベテルギウス(Betelgeuse)」が今後1000年間のうちに起すかもしれないと予測されている。それでも地球には直接的な被害が及ぶ可能性は非常に低い。
だが、どんな惑星や恒星にも最期は必ず訪れる。そのとき人類が子孫を残すためには宇宙移民は必要不可欠な解決方法なのだ。
参考動画:地球脱出のシナリオ 中性子星襲来
※約45分ありますが「75年後に中性子星が地球に接近すると判明したらどうするのか?」というシミュレーションに基づき、巨大宇宙船の構造など、各分野の研究者たちがわかりやすく説明しています。
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