日本の探査機「ムーンスナイパー」が月面着陸に成功したが、電力供給の問題が発生している。
宇宙航空研究開発機構(以降JAXA)の小型月着陸実証機(SLIM)、通称ムーンスナイパーが、2024年1月20日午前0:20(日本標準時)に月面へ着陸し、日本は月面着陸を果たした史上5番目の国となった。
本稿では、親しみを込めて「SLIM」を以降「ムーンスナイパー」と表記させていただく。
しかし、太陽電池が計画通りに発電されておらず、電力供給の問題が懸念されている。
電力が得られなかった場合、数時間でムーンスナイパーとの連絡が途絶えてしまう可能性が高いという。
そのため、着陸後の通信は確立できているとして、月面からのデータ取得を優先して実施しているようだ。
ムーンスナイパーが取得したデータは詳細に解析が行われ、今後、状況を含めて報告される予定だ。
発射から着陸まで
ムーンスナイパーは、H-IIAロケット47号機で2023年9月7日に、鹿児島県の種子島宇宙センターから打ち上げられた。
同年の12月25日には、月周回軌道投入に成功し、2024年1月14日、着陸降下準備フェーズを開始。
発射後の約4ヶ月後にあたる、2024年1月20日0時頃に降下を開始、同日2時10分に、月の「神酒の海」付近への着陸を確認したと発表された。
着陸は成功
筆者も、2024年1月19日〜20日にYouTubeでライブ配信されたJAXAの「小型月着陸実証機SLIM ピンポイント月着陸ライブ・記者会見」を全て見たのだが、着陸は成功したにも関わらず、着陸後の記者会見では非常に硬い表情で、第一声「まず第一に、着陸は成功しました」と繰り返し述べられていたのが印象的だった。
会見では、「トレースを見る限りは100m以内のピンポイントランディングはほぼできたであろう。大変大きな一歩であったと考えている」と述べられた。
「ピンポイントランディング」が成功したかどうかについては、解析の上、約1ヶ月後に正式発表の予定だという。
すでに月面に着陸済みの国々は、冷戦時代の宇宙開発競争中に月面への最初の旅行を行ったソ連とアメリカ、2013年12月に最初の着陸が行われた中国、そして去年8月にチャンドラヤーン3の着陸船とローバーを着陸させたインドである。
ただし、近年においてはアメリカもロシアも、月面着陸に成功していない。
着陸後に発覚した問題とその対応
冒頭で述べたように、ムーンスナイパーの太陽電池は電力を発生していない状態になっており、バッテリーの電力のみで稼働しているという。
このバッテリー残量で活動可能な時間は数時間である。
問題の原因は調査中としながらも、
・着陸後に電波は受信できており、他のハードウエアに損傷はないと考えられる。
・着陸時に、ソーラーパネルだけが損傷する可能性は低い。
などの理由により、軟着陸(ソフトランディング)には成功したものの、機体のソーラーパネルの向きが、太陽方向に向いていない姿勢になってしまっている可能性がある。
JAXAでは、ムーンスナイパーが正常な姿勢で着陸したかどうかなど、今後さらに分析を進めていくという。
姿勢次第では、ソーラーパネルに太陽光があたり、電力が発生する可能性もあるようだ。
また、ムーンスナイパーに搭載されていた小型の探査ロボット「LEV-1」と「LEV-2(愛称:SORA-Q)」の射出は成功したとみられており、小型ロボットのカメラでムーンスナイパー全体を撮影することができれば、どのような姿勢になっているのかを確認できる可能性もある。
JAXAは、電力が復旧しない場合に備えて、
・今後の分析に役立てられる航法データの取得
・月の起源を調査するための「マルチバンド分光カメラ(MBC)」の稼働
を優先しているとのことだ。
JAXAがミッションで目指し、達成できたこと
JAXAは、「着陸成功目標のミニマムサクセスは達成されており、現時点のミッションは60点」と自己評価している。
同プロジェクトでは、低コスト・小型軽量な探査機による月面着陸成功を目標に、成功レベルを3つ定義している。
現時点では着陸できたことと、小型ロボットの展開・着陸は成功していることがわかっているため、「ミニマムサクセス」と自己評価したのだろう。
100m未満のピンポイント着陸もできている可能性があるが、実証するには、1ヶ月ほどかかるとみられている。
もし、「精度100m以内の高精度着陸」が達成できていれば、成功レベルは「フルサクセス」となる。
着陸成功レベル
1. ミニマムサクセス
2. フルサクセス
3. エクストラサクセス
2つの探査ロボット
前述したようにムーンスナイパーには、小さな「LEV-1」と「LEV-2」という2台の小型ロボット型探査機が搭載されており、軟着陸直前に分離に成功したと発表されている。
LEVとは、月探査機(Lunar Excursion Vehicle)の意味である。
これらの小型ロボット型探査機は着陸後、独自にデータ収集と写真撮影を行うよう設計されている。
LEV-1
月面をジャンプするように移動する月面探査ロボットで、2台の広角カメラを搭載し、直接地球にデータを送信することができる。月着陸後のムーンスナイパーを撮影しデータを地球へ送信する。LEV-2
タカラトミー、ソニーグループ、同志社大学とJAXAが開発した変形機構や動物の動きなどの玩具技術を応用した小型月面探査ロボットで、HAKUTO-R ミッション1に搭載されたものとほぼ同じもの。2台の広角カメラを搭載し、LEV-1を経由してデータを地球に送信する。
過去の失敗
過去に月面着陸にチャレンジした日本の無人探査機は、ムーン・スナイパーだけではない。
2022年12月、史上最小の月面着陸機「オモテナシ」がアルテミス1で打ち上げられて月着陸を目指したが、失敗に終わっている。
原因は探査機の姿勢を制御するスラスター(噴射で姿勢を変更する小型ロケット)の動作不良で姿勢を崩したことが原因と推定された。
また、東京の宇宙ベンチャー企業・アイスペースによる、世界初の民間月面軟着陸と期待された「ハクトR」が、「氷の海」のクレーターの円内に2023年4月に着陸を試みたが、これも失敗に終わった。
さいごに
いよいよ世界のロケット打ち上げ回数が、2023年にはじめて200回を超えた。
アメリカは104回(うちSpaceXが96回、NASAは0)、中国は60回以上、ロシアは約20回、インドでも7回だが、日本は2回だけと大きく水をあけられている。
そんな中で月面に着陸できたことは、大きな成果だと断言してもよいだろう。
特に100m以内でのピンポイント着陸ができていたとすると、他の国を一歩リードすることになる。
なんとかソーラーパネルに太陽光が当たって電力供給が回復し、ミッションを完遂することを願いたい。
日本の探査機は、「はやぶさ」のように大きな問題に直面しながらもミッションを完遂できた運と実力を持っているので、奇跡は起きるかもしれない。
参考 :
Japan’s ‘Moon Sniper’ probe lands on moon, but suffers power problem | Space
小型月着陸実証機 SLIM | ISAS/JAXA
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