JAXAの月探査機「SLIM」は、1/31の運用を最後に、マイナス170℃の極寒の夜に備え、休眠状態に移行した。
日没に伴い、活動に必要な電力が得られなくなるからだ。
このあと、2週間に及ぶ月の夜で生き残り、再起動できるかが注目されている。
SLIMはもともと過酷な月面の夜を想定した設計はされていないが、2月中旬以降(おそらく2/18頃)、の太陽電池パネルに太陽光が当たる時期に、再び運用に挑戦する予定だという。
なお、着陸後から休眠状態に移行するまでの電源系の動作は、全て正常だったという。
本稿では、SLIMが休眠する理由と再起動の可能性について考察する。
SLIMが休眠する理由
SLIMは太陽電池で発電した電力をバッテリーに蓄え、バッテリー経由で本体に電力が供給される構造になっている。
そのため、太陽電池パネルに太陽光が当たる必要がある。
しかし2月に入り、SLIMが着陸した地点が月における夜となり、発電できない。
そのため、太陽光が得られる次の昼まで待機するのだ。
過酷な月の環境
月では、14日間続く昼と夜が交互に訪れる。
日没を迎えると、月表面温度が約マイナス170℃まで下がり、極寒の世界になる。
14日間も寒さに耐えなければならないが、SLIMはこのような環境下での運用を想定した設計にはなっていないという。
スリムはヒーターを搭載してはいるが、月の夜は約2週間も続くため、バッテリーのみでは電力が足りない。
また、月には太陽風などの放射線が降り注ぐ。
さらに、月面には隕石が衝突した際に弾け飛んだ、非常に細かい「レゴリス」という砂が堆積している。
この砂の粒子は非常に細かく静電気を帯びやすいため、SLIMの内部に入り込むと故障の原因となる。
つまり夜でなくとも、滞在期間が長くなるほど機体へのダメージが蓄積されていくのだ。
寒さで受ける影響
寒さで最も影響を受ける可能性が高いのは、電子部品などの精密機器だ。
極寒により、基板の収縮や半導体などのチップを接合するハンダの割れが起こりうるためだ。
基板にはCPUやメモリなど、通信に必要なチップが実装されている。
そのため、壊滅的な影響を受ける可能性もある。
太陽電池やパネル、バッテリー、分光カメラ、その他の構成部品が、寒さによってどの程度影響を受けるのかについては不明だ。
再起動の可能性
日本より早く月着陸を果たしたインドのチャンドラヤン3号も、SLIM同様、夜を超える設計にはなっておらず、月の夜が終わった後に起動することはなかった。
そのような事例を考慮すると、SLIMが再起動する可能性も低いと考えられる。
もし夜を乗り越えることに成功できれば、観測が再開され、予定されていた全ての観測データを入手することになるだろう。
また、スラスターの噴射により、現在の逆さま状態の姿勢から、設計通りの姿勢にできる可能性もある。
ただ、正規の姿勢になったことで、電力確保がより効率的になること以外のメリットがどれほどあるかは不明だ。
再起動に向けての準備
SLIMは現在、再起動に必要な最低限の機能以外を全て停止し、地上からのコマンドを待つ待機モード状態にある。
太陽光が当たって温度が上がるのを見計らい、地上から信号を送る予定だという。
その結果は、2月18日前後に判明すると見込まれている。
ちなみに、SLIMは発電開始すると自動で起動する設定にはなっているが、「起動した」という信号は送ってこないため、地上から随時コマンドを送信して返事を待つ必要があるという。
さいごに
こうした過酷な環境でSLIMが耐え抜き、再起動して元気な姿を見せてくれることは、ほぼ奇跡に近いかものしれない。
しかしJAXAは「月の夜に耐えられる設計をしていない」としつつも、実は何らかの対策が施されているのではないかと期待してしまうのは、筆者だけではないだろう。
もし復帰できなかったとしても、SLIMはすでに多くの成果を残してくれた。
2機の小型ロボット探査機(LEV-1とLEV-2)がどうなったかを含め、さらなるSLIMの続報を待ちたい。
参考 :
日本惑星科学会 : 小型月着陸実証機 SLIMの月面への着陸に関する声明
小型月着陸実証機SLIM(@SLIM_JAXA)さん / X
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