「蛇」といえば言わずもがな、細長い爬虫類である。
四肢を持たない、とぐろを巻く、脱皮をするなど、その特異な生態から蛇は神秘的な生き物だと考えられ、古来より世界各地で崇拝の対象ともなってきた。
興味深いのは、そうした蛇を神格化した結果か、世界には「半身半蛇」という、人間と蛇が融合した姿をもつ怪物の伝承が数多く存在することである。
今回は各地に伝わる、半身半蛇の怪物伝承について、解説を行っていく。
1. ラミア

画像 : ラミア イソベル・リリアン・グローグ『鬼女のキス』より public domain
ラミア(Lamia)は、ギリシャ神話に登場する怪物であり、半身半蛇の代名詞ともいえる存在である。
元々ラミアの姿形については様々な伝承があったが、今日では「上半身は美しい女性・下半身は蛇」のイメージが定着し、魅力的な美少女モンスターとして市民権を得ている。
ラミアにまつわる神話には、次のようなものが語られている。
(意訳・要約)
元来のラミアは美しい人間の女性であり、リビアの女王として君臨していた。
あるとき、ギリシャ神話でもっとも偉い神「ゼウス」が、ラミアに一目惚れをし、求愛をしてきた。
ゼウスは救い難い好色家であったが、ラミアは気にせずこれを快諾し、たくさんの子をもうけた。しかし、ゼウスの正妻である婚姻の女神「ヘラ」が、このことに怒り狂った。
ヘラの怒りの矛先は、ロクデナシのゼウスにではなく、なぜかいつも浮気相手の方に向かう。
ヘラの祟りにより、ラミアの子は全員が死に絶え、ラミア自身も醜い怪物へと姿を変えられてしまった。その後ラミアは、他人の子供を攫っては食らうようになり、忌み嫌われた。
2. 濡女

画像 : 濡女 鳥山石燕『画図百鬼夜行』より public domain
濡女(ぬれおんな)は、日本に伝わる妖怪である。
蛇の体を持つ、恐ろしい姿の女妖怪だとされている。
古来より知名度のあった妖怪ではあるが、意外にも具体的な伝承等は残されていない。
しかし出典不明のエピソードとして、次のような逸話が伝わっている。
(意訳・要約)
越後と会津(現在の新潟と福島)の間にある川で、舟に乗り木材を採っている者たちがいた。
そのうち遠くの方にいた舟が、猛スピードでこちらに向かって漕ぎ寄せてきた。
乗員たちの顔は青ざめ、何か恐ろしいものでも見たかのようだった。
ワケを聞くと、なんと「濡女が現れた!」と言うではないか。濡女とは恐ろしい人食い妖怪であり、その体長は3町(約327m)以上もあるとされている。
しかし「そんな化け物がいるハズがない!」と、血気盛んなグループの舟が、濡女がいたという場所へ向かってしまった。
残りの者たちは恐ろしさのあまり、急いでその場から離れた。ほどなくして、遠くから次々と男たちの悲鳴が聞こえ、やがて消えていった。
案の定、彼らが戻って来ることはなかったという。
3. レネヌテト

画像 : レネヌテト wiki c Rowanwindwhistler
レネヌテト (Renenutet)は、古代エジプト神話に伝えられる女神である。
その姿は主に羽飾りを身に着けた、コブラの頭を持つ女性として描かれる。
豊穣の神であり、また、赤ん坊に乳を与える乳母の神であるとされる。
子育ての神、作物の神として、民間では大いに信仰されていたそうだ。
コブラは激烈な猛毒を持つ毒蛇であり、当時の医療技術では噛まれる=死であったため、非常に恐れられていた。
しかし、農作物を荒らすネズミを捕食する益獣としての側面も有していたため、エジプトでは畏敬の念を以って崇められていたという。
そんなコブラの、作物の守護者としての一面がクローズアップされた神が、このレネヌテトだと考えられている。
4. ベス・タルン・ケンパス

画像 : ベス・タルン・ケンパス(Bès Talun Kěmpas) 草の実堂作成(AI)
ベス・タルン・ケンパス.jpg
画像 : ベス・タルン・ケンパス 草の実堂作成(AI)
ベス・タルン・ケンパス(Bès Talun Kěmpas)、通称ケンパス蛇は、マレーシアのジャー・フット族に伝わる精霊である。
その姿は、人面の蛇だと伝えられている。
普段は丘の上をゆっくり蛇行しているが、雷が鳴ると高く跳ねたり、空を飛んだりするそうだ。
ケンパス蛇に不用意に近づいた人間は、ぐるぐると巻き付かれ、締め上げられてしまう。
失神で済めばまだいい方で、最悪の場合、体中の骨という骨をバキバキと砕かれ、命を落とすこともあるそうだ。
運よく生き延びることができても、締められた箇所には、鱗のような跡が残ってしまうという。
この跡を治療するには、semalit(カヤツリグサ科の植物だと考えられる)の葉を砕いたものを、水で飲めばよいとされる。
5. 化蛇

画像 : 化蛇『山海経』より public domain
化蛇(かだ)は、古代中国の妖怪辞典『山海経』にて、言及されている妖怪である。
その姿は、人間の顔・ヤマイヌの胴体・鳥の翼を持つ、異形の怪物として描かれている。
また、蛇のように体をクネクネさせながら移動することから、蛇体を有しているともされる。
山海経に掲載されている挿絵は、どう見ても羽の生えた蛇であり、この妖怪が蛇として認知されていたことがうかがえる。
古代中国において化蛇は、非常に恐れられた存在であったという。
なぜなら、この妖怪が目撃された土地では、近いうちに洪水が起きると考えられていたからである。
中国といえば、黄河流域で発展した文明国家である。
しかし黄河はことあるごとに氾濫し、ありとあらゆるものを洗い流してきた。
そんな洪水への畏怖が、この妖怪の伝承を生み出したと考えられている。
参考 : 『百怪図巻』『山海経』『Jah-Hèt of Malaysia, Art and Culture』他
文 / 草の実堂編集部
この記事へのコメントはありません。