神話、伝説

『江戸時代にUFO漂着?』宇宙人を思わせる世界の奇妙な怪異伝承

画像 : 日本の代表的な宇宙人妖怪といえば「かぐや姫」である public domain

「怪異」とは、人知では捉えきれない「あやしい」「常ならざるものごと」を指す言葉である。
出自が不明で、現代の科学や常識では説明のつかない存在や現象は、すべて広義の怪異に含まれると言ってよい。

その観点に立つならば、たとえば宇宙人もまた、一種の怪異として捉えることができる。どこから来たのか、なぜ現れるのかがわからず、人類の理解を超えているという点において、怪異と共通しているからである。

興味深いのは、世界各地に伝わる古い伝承の中に、まるで地球外から現れたかのような姿やふるまいをもつ存在が少なからず登場することである。
神や精霊、あるいは魔物として語られてきたこれらの存在は、現代の視点から見れば、宇宙人との関連を想起させるものも少なくない。

今回は、そうした「宇宙人の可能性がある怪異伝承」について、いくつかの事例を取り上げて紹介していきたい。

1. 虚舟

画像 : 常陸国の原舎ヶ浜に流れ着いた虚舟 public domain

虚舟(うつろぶね)は、日本各地に伝わる、UFO(未確認飛行物体)に酷似した漂流物である。

江戸時代の様々な文献にて、その存在が図説とともに言及されている。
享和3年(1803年)、常陸国(現在の茨城県)に現れた虚舟は、次のようなものだったという。

(意訳・要約)

常陸の浜で、奇妙な舟が発見された。
その見た目は円形の器のようであり、上の方はガラス張り、底面は鉄板でできていた。
舟の中には謎めいた文字が描かれており、また、一人の女がいた。

女は言葉が通じず、赤髪に白のメッシュが入っており、どう見ても日本人ではない。
さらには謎の箱を後生大事に抱え、決して手放そうとはしなかった。
はてさてどうしたものかと、発見者たちが途方に暮れていたところ、とある物知りな老人が、

「その昔、蛮国(外国)の王女が不倫をしたそうだ。間男は処刑され、王女は虚舟なる乗り物に放り込まれ流された。まさしくこの舟こそ、その虚舟であろう。箱の中身は恐らく、処刑された間男の生首だろうよ」

と言った。

皆はナルホドと思い、女と虚舟を沖へと流し返した。

「円盤のような見た目」「未知の言語」「奇妙な乗組員」などの特徴から、その正体は海に墜落したUFOではないかと、オカルトマニアの間でまことしやかに囁かれている。

2. チュパカブラ

画像 : Chupacabra wiki c Jeff Carter

チュパカブラ(Chupacabra)は、中南米に伝わるUMA(未確認生物)である。

その名はスペイン語で「ヤギの血を吸う者」を意味するが、ヤギに限らずあらゆる家畜を吸血し殺傷する、おぞましき怪物として恐れられている。

事の起こりは1975年、プエルトリコのモカという町から始まった。
のどかな田舎町に突如として、牛・ヤギ・ガチョウといった家畜の変死体が、次々と発見される怪事件が起こったのだ。

奇妙なことに、すべての死体に円形の刺し傷があり、血がことごとく抜かれていたという。
また、家畜の死体はモカの町のみならず、コロサル・ファハルド・サンフアンなどの、比較的遠方の町からも続々と見つかった。

これらの事件は、当初は頭のおかしいカルト集団の仕業と考えられた。
しかし、死体の数があまりにも多すぎるので、犯人は「人ならざる存在ではないか?」と考える者もでてきた。

一連の事件は「El Vampiro de Moca(モカの吸血鬼)」の仕業とされ、解決の糸口もつかめぬまま、遂には迷宮入りすることになってしまったのである。

やがて時の流れと共に事件は風化し、人々の記憶から忘れ去られていった。
だが、惨劇は再び起こった。

1995年、プエルトリコのとある農家にて、8頭のヤギが死んでいるのを発見された。
死体には刺し傷があり、血をすっかりと抜かれていたという。

それはまるで、「モカの吸血鬼」の再来のようであった…。

この事件は報道されるや否や、瞬く間に話題となる。
プエルトリコの人気コメディアン・司会者であるシルベリオ・ペレスは、ラジオ番組にて犯人を「チュパカブラ」と呼称し、この名は現在に至るまで定着することとなる。

やがて血を抜かれた家畜の死体は、プエルトリコ以外の中南米、そして遂にはアメリカでも発見されるようになった。
目撃者の証言によれば、チュパカブラは背中にとげを生やした、巨大な目の異形であったという。

画像 : チュパカブラとグレイ型宇宙人 public domain

その姿はまるで、我々のイメージする典型的な「宇宙人」を彷彿とさせる。(ただし、2000年代頃からは犬のような姿をしたチュパカブラの目撃情報が増えている)

現在でもチュパカブラによる家畜の襲撃事件は、稀に起きることがあるそうだ。

その正体は「毛の抜けた野犬」であるというのが、現在における有力な説の一つである。
だが、チュパカブラを「地球外生命体」と見なす意見も、一部では存在する。
なぜならチュパカブラの所業は、キャトル・ミューティレーション(Cattle mutilation)との共通点が多いからだ。

キャトル・ミューティレーションとは、異星人による家畜の惨殺事件のことを指す。
被害にあった家畜は、血や内臓をことごとく取り除かれた、見るも無残な状態で発見される。
これは異星人が家畜を誘拐、UFO内部で解剖したのち、体の一部を献体として持ち帰っているからだという。

この実行犯が、チュパカブラだという説がまことしやかに囁かれているのだ。

現在、キャトル・ミューティレーションは「野生動物が家畜を食っただけ」というのが通説であるが、やはりエイリアンの仕業だと信じる声は根強い。

3. アヌンナキ

画像 : アヌンナキ public domain

アヌンナキ(Anunnaki)は、古代メソポタミア文明に伝わる神の集団である。

天と地を支配し、人間の運命を決定づける強大な神々であり、畏敬の念を以って崇拝されていたと考えられるが、詳しい全容はいまだ判明していない。
なぜなら、神話が記された粘土板の一部が破損・風化しており、解読が極めて困難だからだ。

そんなアヌンナキにも、その正体は宇宙人ではないかという珍説が存在する。

アメリカの作家、ゼカリア・シッチン(1920~2010年) は著書『第12番惑星』において、アヌンナキは「惑星ニビル」から地球へ飛来した、高度な科学技術を持つ異星人であると主張している。

画像 : アヌンナキの宇宙船 イメージ 草の実堂作成(AI)

彼らは45万年ほど前に、金を掘るため地球に立ち寄ったという。
そして効率よく採掘を行うため、遺伝子操作で現生人類を生み出し、奴隷として扱き使っていたというのだ。

無論、荒唐無稽かつ、何一つとしてエビデンスのないこの説は、専門家から総スカンを食らった。

だが、あまりにもぶっ飛んだ解釈であるゆえに、極まった好事家の中には、この説を熱烈に支持する者も多い。

そしてこのような「異星の来訪者」に関する伝承や解釈が、世界各地の怪異譚とどこかで重なっていくのもまた、興味深い現象である。

参考 : 『虚舟の蛮女』『第12番惑星』『”Chupacabra” remains bought by Oswego County man』他
文 / 草の実堂編集部

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草の実学習塾、滝田吉一先生の弟子。
編集、校正、ライティングでは古代中国史専門。『史記』『戦国策』『正史三国志』『漢書』『資治通鑑』など古代中国の史料をもとに史実に沿った記事を執筆。

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