神話、伝説

抜けば必ず人が死ぬ妖刀…世界に伝わる「呪われた剣」の伝説

画像 : 石灯籠切虎徹 wiki c Ryuruta

「今宵の虎徹は血に飢えている」・・・これは新選組局長・近藤勇(1834~1868年)の言葉として知られるが、実際には小説や漫画などの創作で広まった台詞である。

虎徹とは、江戸時代初期の刀工・長曽祢興里(1605年頃~1678年)が打った名刀の総称である。

もっとも、近藤勇が佩用していたとされる虎徹は、刀剣研究の分野では贋作であった可能性が高いと考えられている。

刀が吸血鬼のように血を啜ることなど、もちろん現実にはありえない。

しかし刀が人を斬るための武器である以上、「血に飢える」という表現が比喩として語られてきたのも不思議ではない。

こうした想像力はやがて神話や伝説の中で膨らみ、まるで意思を持つかのように人を殺す「妖刀」の物語を各地に生み出していった。

今回は、世界各地に伝わる、血に飢えた刀剣の伝説を見ていきたい。

人食いの刀 イペタム

画像 : イペタム 草の実堂作成(AI)

アイヌ民族の伝承には、イペタムなる恐るべき刀が登場する。

北海道は広大であるため物語の細部には地域差があるが、おおむね次のような内容で伝えられている。

イペタムとは、アイヌ語で「食う剣」を意味する名を持つ妖刀である。
刀でありながら意思を持ち、とりわけ人間の血を好む。

一度解き放たれると誰かを斬り殺すまで収まらず、空中を飛び回りながら獲物を探す。

このように危険な刀であるため、所持者は石などを与えて飢えをしのがせていた。
しかしイペタムは腹を空かせるたびに音を立てて騒ぎ出し、持ち主を脅かしたという。

画像 : イペタムに追われる人々 草の実堂作成(AI)

だがこの恐ろしげな妖刀も時には、人の役に立つこともあったそうだ。

ある集落に、野盗たちが押し入った際のことである。
襲撃に気づいた老人が、壊れた鉈を使ってカタカタと音を鳴らすと、野盗たちはたちまち逃げ帰っていったという。

野盗たちは腹を空かせたイペタムが音を立てることを知っており、鉈の音を聞いて、イペタムが近くにいると誤認したのである。

脅しの道具として、これほどまでに心強いものはないだろう。

北欧神話の魔剣

画像 : ダーインスレイヴを持つヘグニ 草の実堂作成(AI)

ゲルマン民族に伝わる北欧神話にも、さまざまな不思議な武器が登場する。

代表的なものに、ダーインスレイヴ(Dáinsleif)という魔剣が挙げられる。
一度抜刀すると確実に誰かを斬り殺す、恐るべき剣だとされる。

かつて、スウェーデンのエステルイェートランド地方の王「ヘグニ」が、この剣を所有していた。
しかしある時、ヘグニの娘が「ヘジン」という人物に誘拐されてしまったという。

ヘグニは娘がオークニー諸島のホイ島にいることを突き止め、すぐさま乗り込んだ。

ところが娘はヘジンに惚れてしまったようで、父であるヘグニに「ヘジンとの結婚を認めて欲しい」などと言いだした。

怒ったヘグニはヘジンを抹殺するべく、魔剣ダーインスレイヴを鞘から抜いた。
そしてヘジンの部下たちを片っ端から斬り殺し、島は一瞬にして阿鼻叫喚の地獄と化したという。

しかし娘はあくまでもヘジン側に付き、斬り殺された者たちを魔法の力で次々とよみがえらせた。

こうして戦いは泥沼と化し、終末である「ラグナロク」の時まで、終わることはなかったそうだ。

画像 : ティルヴィングを渡すドワーフたち public domain

もう一つ、ティルヴィング(Tyrfing)なる魔剣が、北欧神話には登場する。

こちらもダーインスレイヴと同じく、一度鞘から抜けば、確実に誰かを斬殺する剣だとされる。

また、ティルヴィングには呪いがかけられており、三つの願いを叶える力を持つが、その代償として持ち主には必ず破滅が訪れるという。

この剣は多くの人物の手を渡り歩き、持ち主やその周囲の人々を死へと導いた。

ダーインスレイヴとティルヴィングには、いずれも「ドワーフ」と呼ばれる小人の種族が鍛えた剣である。

ドワーフは優れた鍛冶の技術で数々の伝説的な武具を生み出した一方、強欲で陰険な性格であり、こうした魔剣には彼らの気質が色濃く反映されているのかもしれない。

実はデマだった妖刀伝説

画像 : 村正 wiki c Ihimutefu

日本で最も名の知られた妖刀といえば、やはり村正だろう。

伊勢国(現在の三重県付近)の刀工・村正が打った刀の総称で、古くから数多くの怪しげな伝説が語り継がれてきた。

とりわけ村正は、徳川家に災いをもたらす刀として有名であり、以下のような逸話がある。

徳川家康の祖父・松平清康(1511~1535年)は家臣の謀反によって斬殺されたが、その際に使われた刀が村正だった。
家康の父・松平広忠(1526~1549年)も家臣に脇差で刺されており、これも村正であった。
家康の長男・松平信康(1559~1579年)が切腹した際に用いられた刀も、村正だった。
あまりにも徳川家に不吉な出来事が重なることから、家康は村正の所持を禁じた。

しかしこれらの話には確かな史料がなく、後世に広まった伝説と考えられている。
そもそも村正の刀は相当数が流通していたとみられ、大名だけでなく浪人なども所持していた、ごく一般的な刀であった。

そのため謀反や切腹の場面で村正が使われていたとしても特別なことではなく、偶然が重なって「徳川家を祟る妖刀」というイメージが作られていった可能性が高いだろう。

実際のところ、家康が村正を禁じた確かな記録はなく、徳川家ゆかりの村正は現在も徳川美術館に伝えられている。

このように世界各地には、まるで意思を持つかのように人を殺し、持ち主にさえ破滅をもたらすと語られる「妖刀」の伝説が数多く残されている。

実在の刀であれ神話の魔剣であれ、武器という存在が人々の恐れや想像力をかき立て、やがて恐ろしい物語へと姿を変えていったのかもしれない。

参考 : 『散文のエッダ』『古エッダ』『ウエペケレ 』『ユーカリ』
文 / 草の実堂編集部

  • Xをフォロー
好きなカテゴリーの記事の新着をメールでお届けします。下のボタンからフォローください。

草の実堂編集部

投稿者の記事一覧

草の実学習塾、滝田吉一先生の弟子。
編集、校正、ライティングでは古代中国史専門。『史記』『戦国策』『正史三国志』『漢書』『資治通鑑』など古代中国の史料をもとに史実に沿った記事を執筆。

✅ 草の実堂の記事がデジタルボイスで聴けるようになりました!(随時更新中)

Youtube で聴く
Spotify で聴く
Amazon music で聴く
Audible で聴く

コメント

  1. この記事へのコメントはありません。

  1. この記事へのトラックバックはありません。

関連記事

  1. 恐るべき古代の「鳥人間」伝説 ~ハーピーから姑獲鳥まで
  2. 古代ローマにも「トイレの神様」がいた 〜世界の便所に関する神話と…
  3. 神話や伝説に登場する「乗り物の怪異」 ~朧車からフライング・ダッ…
  4. 神功皇后 〜日本神話の中でも指折りの女傑【住吉大社祭神】
  5. 『神々の股間をめぐる戦い』3つの古代文明の恐ろしい去勢神話
  6. ヘラクレスはなぜあれほど強かったのか?【ギリシアの英雄】
  7. 『猫は老いると妖怪になる?』 江戸時代から愛され続けている「猫又…
  8. 堕落した街ソドムとゴモラの最期…振り返った女は塩になった『世界の…

カテゴリー

新着記事

おすすめ記事

戦国時代「小田原北條五代祭り」の武者行列に一般公募で参加してみた!【北条早雲公顕彰五百年】

少し前の話になりますが、小田原市(神奈川県)で毎年5月3日(祝)に開催される「小田原北條五代祭り」に…

村上春樹『ノルウェイの森』を読む 【死は生の対極としてではなく、その一部として存在している】

村上春樹の『ノルウェイの森』は、極めて哲学的な文学作品であると感じています。人間の「死」につ…

『アラスカでの米露会談』やはりトランプ大統領の狙いはノーベル平和賞か?

2025年8月15日、アラスカ州アンカレッジのエルメンドルフ・リチャードソン統合基地で、米国のドナル…

晩夏の花ダリアについて調べてみた

私が小さい頃はまだまだ広い庭のある家も多く、夏から秋にかけて向日葵・朝顔・ダリア・カンナなどがよ…

台湾の外国人労働者について解説 「高齢化社会で海外労働者の需要急増」

外国人労働者の多い台湾台湾の人口は現在約2300万人である。台湾の面積は3万6千…

アーカイブ

人気記事(日間)

人気記事(月間)

人気記事(全期間)

PAGE TOP