神話、伝説

ユニコーンの正体はサイだった!? サイにまつわる怪異伝承

画像 : クロサイの親子 pixabay cc0

サイといえば、アフリカやインドに生息する大型の陸上哺乳類である。

太い角と分厚い皮膚を持ち、ライオンやトラさえ容易には近づけないほどの屈強さを誇る動物として知られている。

この圧倒的な存在感は、古代の人々に強い畏敬の念を抱かせた。

そのためサイは単なる動物としてではなく、しばしば神秘的な力を持つ幻獣として語り継がれてきたのである。

今回は、そんなサイにまつわる世界各地の不思議な伝承について見ていきたい。

幻獣としての犀

画像 : 水浴びをするインドサイ 写真AC cc0

古くからインドにはインドサイが生息しており、その存在は早くから中国にも伝えられていた。

明代の百科事典『本草綱目』によれば、サイには山犀(さんさい)・水犀(すいさい)・兕犀(じさい)の三種があるとされている。

山犀は山や林に棲む一般的なサイで、数も多く、もっとも典型的な種類と考えられていた。

水犀は甲羅のような皮膚を持ち、水陸を自在に行き来するサイとされている。

また兕犀は、雌のサイを指す名称であるという。

さらに当時の中国では、サイの角には霊力が宿ると信じられていた。

とりわけ「通天犀(つうてんさい)」などの名で呼ばれる特別な犀角は珍重され、魔除けの力や薬効を持つと考えられていたのである。

画像 : 通天犀 草の実堂作成(AI)

こうしたサイにまつわる幻想的なイメージは、日本にも伝わった。

神社や寺院の装飾彫刻には、異国の霊獣としてサイに似た動物が刻まれることがある。

また、平安から鎌倉時代に描かれた絵巻物『鳥獣人物戯画 乙巻』には、甲羅のような背を持つ牛に似た霊獣の姿が描かれている。

この動物は、中国の伝承に登場する水犀を表したものではないかとも言われている。

西遊記のサイの妖怪

画像 : 三匹の魔王 草の実堂作成(AI)

中国の長編小説『西遊記』には、サイの姿をした妖怪が登場するエピソードがある。

以下にその概要を紹介する。

三蔵法師こと玄奘(602~664年)は、孫悟空・猪八戒・沙悟浄を弟子として従え、天竺(インド)を目指す旅を続けていた。

一行は旅の途中で、金平府という町にたどり着く。

その日はちょうど元宵節(小正月の祭り)であり、町中には色とりどりの灯籠が飾られていた。

ところが人々は奇妙な話を語る。この町では毎年元宵節になると、仏、すなわちブッダが降臨し、灯籠の灯りに使われている香油を吸い取っていくというのである。

仏に会いたいと願った玄奘は、灯籠見物に出かけた。

すると突然妖しい風が吹き、三人のブッダと思しき存在が現れる。

玄奘が跪くと、その三人は玄奘をさらい、どこかへ消えてしまった。

この光景を目撃した悟空は、ただちに觔斗雲(きんとうん)に乗り、周囲を探し回った。

やがて山奥の洞窟に玄奘が捕らえられていることを突き止める。

悟空が洞窟へ乗り込むと、そこにいたのは三匹のサイの妖怪であった。

彼らはそれぞれ、辟寒(へきかん)、辟暑(へきしょ)、辟塵(へきじん)という名を持つ屈強な魔王であり、ブッダに化けて人々から香油を騙し取っていたのである。

しかし三対一ではさすがの悟空も分が悪く、いったん退却することになった。

悟空は猪八戒と沙悟浄を連れて再び戦いを挑むが、三匹の魔王は恐ろしく強く、八戒と沙悟浄は叩きのめされて捕らえられてしまう。

再び敗れた悟空は、天界へ赴き、星の神々である「四木禽星」に助けを求めた。

四木禽星は戦いに加わり、激しい戦闘の末、辟寒大王は討ち取られ、残る二匹も捕らえられる。

玄奘と八戒、沙悟浄も無事に救出された。

こうして三匹のサイの妖怪は、すべて討伐されることとなったのである。

ユニコーンの正体はサイだった?

画像 : ユニコーン public domain

ユニコーン(Unicorn)と聞けば、多くの人は「一本角の馬」を思い浮かべるであろう。

中世ヨーロッパの伝承では、ユニコーンは非常に獰猛な生き物で、あらゆる動物を角で突き殺すと恐れられていた。

しかしその一方で、処女の前ではおとなしくなるという不思議な性質を持つとも信じられていたのである。

このユニコーンのモデルになった動物については、古くからさまざまな説が唱えられてきた。

砂漠に生息する牛の仲間オリックスや、一本角を持つクジラであるイッカクなどがその候補として挙げられている。

だがその中には、サイこそがユニコーンの原型ではないかとする説も存在する。
その根拠の一つとしてしばしば挙げられるのが、古代ギリシャの探検家メガステネス(紀元前4世紀頃)の記録である。

彼がインドについて著した『インド誌』には、サイを思わせる奇妙な一角獣が登場する。

この動物は現地の言葉で「カルタゾーノス(Kartazōnos)」と呼ばれていたという。
その姿は、馬ほどの体格でたてがみを持ち、黄色がかった柔らかな体毛を持つとされる。
また脚はゾウのようで関節がなく、尻尾はブタに似ていると記されている。

さらに、この動物の最大の特徴は眉間から生える一本の角である。
その角は黒く、螺旋状で鋭く強靭であったという。

また草食であり、基本的には単独で生活し、同族に対して非常に強い敵対心を持つとも記されている。

もちろん、体毛やたてがみなどサイとは一致しない特徴もある。

しかし単独行動を好む点や、縄張り意識の強さなど、生態的な特徴にはインドサイと共通する部分も少なくない。

実際、インドサイも繁殖期以外は基本的に単独で生活する動物である。

また、その巨体にもかかわらず短距離ではかなりの速度で走ることができ、トップスピードは時速40~50kmほどに達するとされている。

こうした特徴から、このカルタゾーノスはサイをもとに誇張された一角獣だったのではないか、と考える研究者もいるのである。

もっとも、『インド誌』にはカルタゾーノスとは別にサイの記述も存在する。

そのため、この一角獣が本当にサイを指していたのかどうかは、現在でもはっきりとは分かっていない。

画像 : エラスモテリウムの復元想像図 wiki c Dmitry Bogdanov

古生物「シベリアのユニコーン」

ユニコーン伝説と関連づけて語られる動物は、古代の記録の中だけに登場するわけではない。

実際に地球上に存在していた古生物の中にも、ユニコーンを思わせる動物がいた。

それがエラスモテリウム(Elasmotherium)である。

この動物はサイの仲間で、巨大な一本角を持つ姿で復元されることが多く、その長さは2メートル近くに達したとも推測されてきた。

エラスモテリウムはかつて、約35万~20万年前に絶滅したと考えられていた。
しかし近年の研究によって、少なくとも約3万9000年前まで生き残っていたことが明らかになっている。

これはすなわち、ホモ・サピエンスと同じ時代を生きていた可能性を意味する。

こうした特徴から、エラスモテリウムはしばしば「シベリアのユニコーン」と呼ばれることがある。

もし古代の人類がこの動物を実際に目にしていたとすれば、その記憶が後の一角獣伝説に影響を与えたとしても不思議ではない。

ユニコーン伝説の起源は依然として謎のままであるが、その背景にはサイという実在の動物、あるいは太古のサイの仲間の記憶が潜んでいる可能性もあるのである。

参考 : 『本草綱目』『鳥獣人物戯画 乙巻』『西遊記』『インド誌』
文・校正 / 草の実堂編集部

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草の実学習塾、滝田吉一先生の弟子。
編集、校正、ライティングでは古代中国史専門。『史記』『戦国策』『正史三国志』『漢書』『資治通鑑』など古代中国の史料をもとに史実に沿った記事を執筆。

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