神話、物語

出会ったら確実に死ぬ、致死率100%の妖怪伝承

致死率100%の妖怪伝承

画像 : 死神 public domain

妖怪伝承は、古代から世界中で語り継がれている。

これらの妖怪の中には、人間に害を与えるものも存在するが、多くの場合、その対処法が長い歴史の中で確立されており、その知恵は今も受け継がれている。

しかし、全ての妖怪に対応策があるわけではない。中には、どんな方法をもってしても太刀打ちできず、出会ったが最後、死を覚悟するしかないような妖怪たちも存在する。

今回は、そんな致死率100%の恐ろしい怪異、妖怪たちの伝承について紹介する。

1. ラームジェルグ

画像 : ラームジェルグ 草の実堂作成

ラームジェルグ(Lham Dearg)もしくは、リエルグ(Ly Erg)は、スコットランドの伝承に登場する亡霊兵士である。

この悪霊は、渓谷の水辺によく現れるという。
その姿は一見すると人間の兵士そのものだが、右手は鮮血で赤く染まっており、これはラームジェルグによって惨殺された犠牲者の血だとされる。

ラームジェルグは戦闘狂であり、誰彼構わず見かけた人間に戦いを挑んでくる。
その際に、血まみれの右手をやたらと誇示してくるという。
「次は、お前の血でこの手を染めてやる」とでも言いたいのだろうか。

ラームジェルグは鍛えられた兵士であり、普通の人間は為す術もなく嬲り殺しにされてしまう。
たとえ、ラームジェルグに打ち勝てたとしても、2週間以内に原因不明の死を遂げてしまうという。

勝っても死ぬ。負けても死ぬ。まさに不条理の塊のような妖怪である。

2. 杖突

画像 : 杖突 草の実堂作成

杖突(つえつき)は、土佐(現在の高知県)に伝わる恐るべき怪異である。

土佐の民俗について書かれた古書『老圃奇談』や、それら文献をまとめた『近世土佐妖怪資料』などで言及されている。

土佐郡蓮池村では、夜中に「杖を突くような音」が聞こえることがあったという。
これは杖突という妖怪が夜道を歩いているためであり、この妖怪に出会った者は、あっという間に死んでしまったそうだ。

原典に明確な姿形の描写はないが、この妖怪はともすれば、「音だけの妖怪」という解釈もできる。
つまり、夜中に杖を突く音が聞こえてきたら、それだけでアウトということだ。

信じ難いほどに理不尽な妖怪である。

もはや耳栓をして、防音室に閉じこもるくらいしか対処法はないだろう。

3. ドッペルゲンガー

画像 : ドッペルゲンガー 草の実堂作成

ドッペルゲンガー(Doppelgänger)とは、もう一人の自分に遭遇する怪奇現象である。

その名はドイツ語で「二重歩行者」などの意味を持つ。
ドッペルゲンガーは不吉の象徴であり「出会った者は近い内に死ぬ」とされ、古来より人々に恐れられた。

それと同時に、自身の分身が現れるというシチュエーションは、多くの作家たちにとって魅力的な題材であり、ドッペルゲンガーをモチーフとした作品も数多く存在する。

小説家・芥川龍之介の短編『二つの手紙』には、ドッペルゲンガーを見たことで家庭崩壊していく夫婦の姿が赤裸々に綴られている。

芥川は、他にも『影』『歯車』などの作品でドッペルゲンガーを登場させており、「芥川自身の体験談を反映させているのではないか?」という説まで囁かれている。

また、ドッペルゲンガーは精神疾患の一種であり、脳に何らかの異常があるゆえに、自らの虚像を幻視しているといった仮説もある。

もし、ドッペルゲンガーを見てしまった時は、お祓いなどに行く前に、まずは病院に駆け込むことが先決かもしれない。

4. 一目五先生

画像 : 一目五先生 草の実堂作成

一目五先生(いちもくごせんせい Yimuwuxiansheng)とは、中国に伝わる妖怪である。

5人1組の妖怪であり、1匹を除いて目を持たず、視力がない。
唯一単眼を有する1匹を「一目先生」といい、他4匹はこの一目先生の指示に従って動くという。

清の時代の文人・袁枚が執筆した『子不語』において、一目五先生は次のように言及されている。

【意訳】

ある男が、浙江省にある宿屋に宿泊した。
その日は大勢の客が泊まっており、相部屋には多くの客がいた。

夜になっても男は寝つけずボーッとしていたが、ふと部屋の灯りが急に小さくなったかと思うと、次の瞬間、奇っ怪な化け物たちが次々と部屋の中へなだれ込んできた。

その正体は、疫病が流行る年に現れるという、一目五先生であった。
男は身を潜め、一目五先生たちの動向をうかがっていた。

まず、部下の1匹が他の宿泊客に近づき、匂いを嗅ごうとした。
すると司令塔である一目先生が「その男は善人です。嗅いではいけません」と静止した。

他の客についても「その男は運気が良い」「その男は悪人である」などと言って、部下に匂いを嗅がせることを禁じた。

やがて一目先生は、2人の宿泊客を指差し、

「あいつとあいつは、善でも悪でも幸運でもない、まさしく凡夫。食われたところで誰も困らないでしょう」と言った。

4匹はそれらの客の匂いを順番に嗅ぎ、最後に一目先生が嗅いだところ、たちまち2人の客の寝息が静まっていき、逆に一目五先生たちの腹は膨らんでいった。

生命力を奪われた2人の客は衰弱し、やがて死んでしまった。

世の中の大半の人間は凡人である。
我々凡人にとってこの妖怪はまさに、致死率100%の天敵のような存在だといえよう。

こういった妖怪に狙われないためにも、日頃から善行を積み続けたいところである。

参考 : 『幻想世界の住人たち』『中国怪奇物語_妖怪編』 他
文 / 草の実堂編集部

 

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