中国史

「一匹の猫が偶然通ったことで皇帝になった」 南宋の第2代皇帝・孝宗

歴史と偶然

歴史には「偶然」の要素が多くある。

偶然に起きた事が重なって、ある人物が頭角を現すこともあれば命を落とすこともある。

これは個人の話に関わらず、一国家の存続や滅亡にまで関わってくることもある。

今回は、ある一匹の猫が、南宋の皇帝選出に関わった出来事について紹介しよう。

猫がキーマン?

南宋の第2代皇帝・孝宗

画像 : 南宋初代皇帝 高宗(趙構) public domain

南宋の初代皇帝・高宗は生育機能に障害があり、その影響のせいか生まれた子供たちは全て早世していた。

結果、太宗 (宋)の血筋の皇帝は、彼で最後となってしまった。

とはいえ、後継者は選ばねばならない。どうしたものかと考えた高宗は、近しい親戚の中から後継者を選ぶこととした。

まずは、2歳から5歳までの子供を4、5人集めた。
高宗は慎重に選考を重ねたが、どの子も普通の子供に見え、次期皇帝に任命できるほどの資質があるように思えなかった。仕方なく、その子供たちを家に戻した。

翌年、もう一度後継者を探すことにした。今度は年齢を引き上げて、7歳以下の子供たちの中から探すことにした。
さらに、優秀な人材を多く輩出していた「伯」家系統の子供だけに限定すると、10名の子供が該当した。
その10名でいくつかの審査を重ねた結果、2名が最終審査に残ったのである。

一人は「伯浩」、もう一人は「伯琮」という少年だった。

伯浩はまるまると太った体型で、伯琮は痩せ型で貧弱に見えた。一目見るだけでどちらか区別がつく体型であった。

高宗自身も虚弱体質であり、自身の子供を幼くして亡くしていた事から、ふくよかで健康そうな伯浩を気に入った。

高宗の心の中では、次の皇帝は伯浩にほぼ決定していたが、急に思い立ってもう少し観察してみることにした。

高宗は近くに二人を立たせて、しばらく様子を窺ってみたのである。

二人の子供と一匹の猫

二人はずっと立たされていた間、少しずつ退屈を感じ始めたのだった。

その時、一匹の子猫が二人の前を横切った。子猫はとても可愛く愛くるしかった。

南宋の第2代皇帝・孝宗

画像 : イメージ

しかしその時、なんと伯浩は子猫を足で蹴ったのだった。

その様子を見た高宗はムッとし、伯浩にこう言った。

猫は普通にお前の前を通りかかっただけだ。なのにどうして猫を蹴り飛ばしたのか。こんな粗暴な人間に私の国を任せるわけにはいかない。

そして、伯浩は家へ追い返されてしまったのである。

皇帝が猫を仕込んだわけではないが、偶然一匹の猫が通りかかったとこで、伯浩の人となりが明らかになった。

中国の諺に「由小見大」というのがある。「小さな事から大きな事がわかる」という意味である。
小さな事を慎重に行う人は、大きな事を任せても慎重に行うということだ。

そして最終審査に残った痩せ型で貧弱な伯琮は、皇帝になるための訓練を始めることとなった。

南宋の第2代皇帝・孝宗

画像 : 孝宗 public domain

彼は、後の南宋二代目皇帝・孝宗となる。

最終審査の時、もし猫が横切らなかったら、南宋の二代目皇帝は伯浩になっていただろう。

一つの偶然が一人の子供の、一つの国家の運命を変えたのだ。

参考 : 讓宋高宗下定決心選定皇位繼承的關鍵,竟然是隻「貓」 | 故事

 

アバター

草の実堂編集部

投稿者の記事一覧

草の実学習塾、滝田吉一先生の弟子

✅ 草の実堂の記事がデジタルボイスで聴けるようになりました!(随時更新中)

Audible で聴く
Youtube で聴く
Spotify で聴く
Amazon music で聴く

コメント

  1. この記事へのコメントはありません。

  1. この記事へのトラックバックはありません。

関連記事

  1. 徐福 ~始皇帝をペテンにかけた謎の方術士【日本にも伝わる徐福伝説…
  2. 兵馬俑の親指を盗んだアメリカ人 「破損した兵馬俑の価値は450万…
  3. 古代中国のトイレにまつわる話 「トイレに落ちて死んだ王様、尿瓶を…
  4. 纏足(てんそく)とはなにか 【女性の足を小さくする中国の奇習】
  5. チャイナドレスの起源 ~満州族の伝統衣装「旗袍(チーパオ)」の歴…
  6. 謎の古代中国遺跡で発見された「イヌ型ロボット?」 三星堆遺跡の神…
  7. ビジネスにも使える?「三十六計、逃げるにしかず」の元ネタ『兵法三…
  8. 秦の中国統一を数百年早めた名将・蒙恬 【漫画・キングダム】

カテゴリー

新着記事

おすすめ記事

蝦夷共和国の希望の船「開陽丸」とはどのような船だったのか? 【日本初の海底遺跡】

日本の支配体制が、従来の幕府政治・幕藩体制から、天皇を中心とした新政府に置き換わった時代が「幕末」で…

デンマーク人の「ヒュッゲな生き方」とは 【幸福な人生の過ごし方】

心身ともに寛いでいる状態を表した『チル(Chill)』や、暖かくて心地が良い空間を示す『コージー(C…

【光る君へ】 紫式部は再婚だった? 彼女の先夫説がある紀時文とは

紫式部の夫と言えば、藤原宣孝(のぶたか)が有名です。しかし一説には、宣孝との結婚前に夫がいた…

大岡越前は本当に有能な人物だった【町奉行から大名に大出世】

大岡越前とは時代劇ファンなら南町奉行の「大岡越前」と北町奉行の「遠山の金さん」はお馴染みなはずだ…

大塩平八郎の乱 「庶民の為に反乱を起こした幕府の陽明学者」

大塩平八郎の乱江戸時代に天保の大飢饉が起き、庶民の生活は困窮し多くの餓死者を出てしまうが、幕府は…

アーカイブ

PAGE TOP