中国史

清朝における最も危険だった仕事 「皇帝の理髪師」 ~命がけだった

選ばれない仕事

「皇帝の理髪師」

イメージ

現代において、仕事の選択は人生を左右する重要な決定である。
筆者が就職活動を行っていた時代は「3K」として「きつい」「汚い」「危険」な仕事は避けられる傾向にあった。

現代の若者も同様に、体力的だけでなく精神的に辛い仕事を避ける傾向が強まっている。社会はストレスに満ちており、何をしてもうまくいかず職場に馴染めない若者も多い。

あるアンケート調査によれば、若者が就きたくない職業の一位は意外にも「飲食店員」であった。飲食店員が避けられる理由として、給与が低い、接客が嫌だという点が挙げられていた。また、看護師や介護師なども上位に選ばれている。

いつの時代においても、仕事選びはその人の人生を大きく左右する重要な決定であり、リスクの高い仕事は避けられる傾向にあっただろう。

中国最後の王朝・清朝(1644年-1912年)では、意外な「命を落とす可能性のある仕事」が存在した。

それは「皇帝の理髪師」である。

今回は清朝における「皇帝の理髪師」について紹介しよう。

「皇帝の理髪師」は命がけだった

「皇帝の理髪師」

画像 : 弁髪(辮髪)にカットする清の巡回理髪者 public domain

単なる散髪屋と思われるかもしれないが、これが実に命懸けの職業であったというから驚きである。

当時の「皇帝の理髪師」は極めてリスキーな職業だったのだ。

清朝は満洲族によって創設された王朝であり、独自の文化と習慣を持っていた。その中でも特に象徴的なのが男性に対する髪型の規定であった。
彼らの伝統的な髪型である「弁髪」をすべての男性に強制したのだ。

弁髪とは、前頭部を全て剃り上げ、後頭部の髪を長く伸ばして三つ編みにするという独特のスタイルである。この髪型は単なるファッションではなく、清朝の支配と同化政策を象徴する重要な要素であり、従わなければ斬首刑に処されるほど厳格に守られていた。

このように、清朝において「髪の毛」は非常に重要なものであり、その扱いは慎重に行われた。そして、その中でも特に緊張感の高い役割を担っていたのが「皇帝の理髪師」であった。

彼らは単なる散髪以上の重責を伴い、場合によっては命を危険にさらしたのだ。

「皇帝の理髪師」のリスク

画像 : 初代皇帝ヌルハチ 清太祖天命皇帝朝服像 public domain

皇帝は絶対的な権力を持つ存在であり、言葉を少し間違えただけでも処刑されることがあった。

その皇帝の頭に刃物を入れるという責任は、非常に重かったのだ。

もし皇帝に傷を負わせたり、剃り間違えて髪の毛をすべて落としてしまったりした場合、その場で処刑される可能性があった。

さらに、皇帝の理髪には数多くの規定があった。

まず、その時間は早朝に限定され、太陽が東南の位置に差し掛かった時に始めねばならなかった。そして理髪師は故宮に入る際に徹底的な持ち物検査を受け、服を着替えさせられた。

そして一通りの儀式を行った後、ようやく皇帝のいる場所に入ることが許される。
使用する道具はすべて皇帝専用のもので、毎回新しいものに取り替えられた。

画像 : 理髪師 イメージ public domain

理髪の最中にも多くの要求があり、例えば右手で髪を切る際に、左手が皇帝の体に触れてはならなかった。

また、理髪師は呼吸する際、その息を壁や天井に向けて吐かなければならず、皇帝に息を吹きかけることは不敬とされた。さらに、剃る際には毛並みに沿って剃らなければならず、逆方向に剃ることは許されなかったのだ。

これらの規定を聞くと、「皇帝に傷を負わせること」がいかに重大な問題であったかが多少は理解できそうだ。

最後に

このように、清朝の「皇帝の理髪師」は、極度の神経を使うものであった。

これほどのプレッシャーの中で働く理髪師たちに、相応の報酬が与えられていたのかは定かではない。
しかし、清朝における最も嫌な仕事ランキングの一位が「皇帝の理髪師」であったとしても不思議ではなさそうだ。

現代の職業選びにおいても、仕事内容や職場の人間関係が重要であることは変わらないが、清朝の理髪師のように命がかかった緊張の極限状態となるような職業は、やはり避けたいものである。

参考 : 清朝風險最大的一個職位

関連記事 : 清朝の『弁髪』はかなり臭かった? 「漢民族は弁髪にしないと斬首刑」

 

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草の実堂編集部

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草の実学習塾、滝田吉一先生の弟子。
編集、校正、ライティングでは古代中国史専門。『史記』『戦国策』『正史三国志』『漢書』『資治通鑑』など古代中国の史料をもとに史実に沿った記事を執筆。

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