『兵馬俑で新たな発見』最高位クラスの軍事指揮官が出土する 〜秦の始皇帝が遺した軍団

兵馬俑とは

画像 : 兵馬俑博物館 public domain

中国の西安にある兵馬俑(へいばよう)は、「世界第八の奇跡」と称される壮大な遺跡であり、秦の始皇帝陵の一部として知られている。

兵馬俑は、始皇帝を死後も守護するために造られたとされ、その兵士や馬の像は一体ごとに異なる姿形を持ち、極めて精巧に作られている。

西安にある兵馬俑博物館には、毎年多くの観光客が訪れる。
筆者も数年前に訪れ、炎天下で長蛇の列に並んだ経験があるが、それでも一見の価値があると感じた。まさに人生で一度は訪れるべき場所といえる。

史書によると、始皇帝陵の建設には38年の歳月が費やされ、延べ70万人もの人々が携わったとされる。その規模の大きさと埋蔵物の豊富さは、世界的にも類を見ない。

1974年3月、地元の村人が井戸を掘るために地面を掘り返していた際、偶然にも砕けた兵馬俑を発見した。これが、兵馬俑が長い眠りから目覚め、世に現れた瞬間であった。

2024年は、兵馬俑が発見されてから50周年という節目の年である。
現在もなお発掘調査が続けられており、1号坑、2号坑、3号坑を含む総面積2万平方メートル以上にわたる調査が進行中だ。

2024年12月、中国の報道によれば、考古学者たちは2号坑で1994年以来となる新たな発見をしたという。

始皇帝陵第2号坑

第2号坑は、東西124メートル、南北98メートル、深さ約5メートル、総面積6000平方メートルにおよぶ広大な発掘エリアである。

1994年に正式な調査が開始され、1998年には第1段階の発掘が終了した。この時点で、約1300点の兵馬俑や陶馬が出土している。

2015年には第2段階の調査が開始され、騎兵方陣、弓矢方陣、戦車方陣、混合方陣などが発見された。

そして2024年11月、新たな発見があった。

それは破損した状態の軍吏俑(将軍俑)であり、他の兵馬俑とは異なる際立った特徴を備えていた。その姿は威厳に満ち、鎧をまとった堂々たる佇まいだという。

鎧の周辺、両肩、前後の胸には垂れ紐が施され、両手は腹の前でしっかりと握られ、頭には高官が被る「鶡冠(かっかん)」と呼ばれる帽子がかぶせられていた。

また、その周囲からは一般的な兵馬俑と鎧を着た武士俑も出土している。これらの特徴から、この軍吏俑は最高位クラスの軍事指揮官であったと結論づけられた。

画像 : 以前見つかった高級軍吏(高级军吏俑)CC BY-SA 4.0

過去には第1号坑からも高級軍吏俑が発見されていたが、第2号坑で軍事指揮官が出土したのは初めてのことである。

また、今回の発掘では戦車も発見されており、3頭の陶馬と3体の陶俑が確認されている。これらの陶俑のうち2体は戦車右側の乗り手、1体は左側の乗り手であったと推測される。

この発見は、馬を操る兵士と、攻撃・防御を担当する兵士が役割分担していたことを示しており、秦代の軍事組織や制度の解明に重要な手がかりを与えるものと期待されている。

画像 : 第2号坑発掘の様子 public domain

現在、これらの出土品は兵馬俑第2号坑に設置された保護実験室にて慎重に調査が進められている。

出土品の病院

発掘現場には「保護実験室」と呼ばれる施設が設置されており、ここでは出土品が迅速かつ丁寧に保護・修復される。

この実験室は「出土品の病院」とも称され、彩色の剥落や運搬中の破損など、発掘品が直面するリスクを最小限に抑える役割を果たしている。

例えば、兵馬俑にはもともと彩色が施されていたが、空気に触れるとすぐに色が失われてしまうため、完璧な環境管理が必要なのだ。

また、この保護実験室はガラス張りの構造になっており、訪問者は外から修復作業を間近で観察することが可能だ。この取り組みは、考古学と観光を融合させた新たな試みとして大きな注目を集めている。

今後もさらなる調査が進められ、新しい発見が次々にもたらされることが期待される。秦始皇帝陵に秘められた謎とその魅力が、どのように明らかにされていくのか期待したい。

参考 : 『秦始皇帝陵博物院公式サイト』『秦兵馬俑二號坑首次發現高級軍史俑』他
文 / 草の実堂編集部

草の実堂編集部

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草の実学習塾、滝田吉一先生の弟子。
編集、校正、ライティングでは古代中国史専門。『史記』『戦国策』『正史三国志』『漢書』『資治通鑑』など古代中国の史料をもとに史実に沿った記事を執筆。

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