お守りや達磨、七福神に招き猫。開運や家内安全、商売繁盛など、さまざまな福を招きよせてくれる縁起物は、お守りや置物だけでなく、動植物や玩具、生活道具や人まで多岐にわたります。
今回は縁起物の中でも、最も身近な存在である食べものについてご紹介します。
縁起物とは?
「縁起」は、もともと仏教用語でしたが、日本では「縁起絵巻」に見られるように、社寺の開基や由来、功徳を記したものも縁起と呼んでいました。
それが転じて、「縁起」は由来や起源、吉凶の前兆を意味するようになります。
良い縁起は禍福をもたらすと信じられ、社寺に参詣した人々がそのご加護やご利益を享受するために作られたのが縁起物です。
祭礼やご縁日に、境内や参道、門前町などで授与・販売されていた縁起物は、江戸中期頃に商品化され、盛んに製造されるようになりました。
縁起物の祈念と種類
縁起物の祈念は、五穀豊穣や大漁追福、商売繁盛、家内安全、無病息災、安寧長寿、夫婦円満、子孫繁栄、学業成就、招福祈願、厄除祈念など多岐にわたります。
お守りや置物など「もの」が主流ですが、力士やなまはげ、福男など「人」も縁起物といわれています。
また、松竹梅などの植物や動物にも縁起物があり、福島県の「赤べこ」のように地域の信仰や伝説から作られた郷土玩具も縁起物の一つです。
それ以外にも熊手や団扇といった生活道具、年中行事など、ありとあらゆる縁起物が存在し、私たちが普段なにげなく口にしている食べ物にも縁起物が存在します。
フォーチュンクッキーは、日本生まれの縁起菓子
クッキーの中に小さなおみくじが入っている「フォーチュンクッキー」は、中華料理店のサービス品や東京ディズニーランドで売られていたお土産として有名です。
そのため中国やアメリカ発と思われている方も多いのですが、フォーチュンクッキーの起源は、江戸時代の「辻占煎餅(つじうらせんべい)」だといわれています。
辻占とは、四つ辻(交差点)に易者が立ち、通りすがりの人々の言葉を元に吉凶を占うもので、その言葉を紙片に書きつけたものも辻占といいました。
辻占煎餅は、瓦煎餅を二つ折り、もしくは四つ折りにし、中に大吉小吉などのおみくじや占い、ことわざ、はやり歌の文句などが書かれた紙片を入れた菓子です。
現代の辻占菓子は煎餅が主流ですが、江戸時代には辻占豆や昆布、飴、かりんとうなど、商品に辻占を混ぜた、さまざまな菓子が流行しました。
特に恋にまつわる言葉が多くを占めていたため、宴席や夜の花街でよく売れたそうです。
明治時代、辻占煎餅は日系移民とともに海を渡ります。
1910年頃、サンフランシスコのゴールデンゲートパーク内にある日本庭園で、公園の管理者をしていた山梨県出身の日本人・萩原眞氏が英文で書かれたメッセージ入りの辻占煎餅を作り、庭園を訪れる観光客にお茶屋で煎茶とともに提供していました。
その後、辻占煎餅は大量生産されることになりましたが、運悪く第二次世界大戦が勃発。
強制収容によって土地を追われた日本人に代わり、中国系移民が作った辻占煎餅が中華料理店でサービスとして出されるようになり、それがフォーチュンクッキーとしてアメリカで普及したと考えられています。
古都金沢で「辻占」は、「福梅」、「福徳」とともにお正月の縁起菓子として有名です。
色とりどりの花や「つき羽根」の形に仕上げた美しい菓子の中に、小さな「おみくじ」が包まれており、新年ならではの縁起物として楽しまれています。
福を呼ぶ食べ物
縁起の良い食材や料理は、最も身近に存在する縁起物です。
その代表は、御節(おせち)です。
神様にお供えをする節日(せちにち)の料理である御節は、神様と食を共にすることで力を授かり、守護を得られると考えられてきました。
お節は、一年の家内安全と無病息災を願うもので、材料は語呂合わせで縁起を担ぐものが多く、お料理のひとつひとつに五穀豊穣、健康長寿、子孫繁栄、金運などの意味があります。
江戸時代「祝い肴三種」があれば正月を祝うことができるといわれたのが、「田作り、数の子、黒豆」の三品です。田作りは豊作、数の子は子孫繁栄、黒豆は不老長寿の意味があります。
なお、「幸せを重ねる」という意味をもつ縁起物のお重は本来五段重ねで、「年神様からいただいた福を詰める場所」、「翌年はすべての段をいっぱいにできるように」と、あえて五段目は空にしたそうです。
・餅
餅は稲の神様が宿る特別な食物であり、力と再生の霊力があると信じられてきました。
そのため、正月には鏡餅、桃の節句には草餅や菱餅、端午の節句には柏餅というように、年中行事や慶事、お盆、お彼岸などの季節の節目に無病息災を祈って食べられるようになりました。
・酒
古くから日本では、神様に祈願したり教えを聞いたりする場合には、必ず「御神酒(おみき)」が必要とされました。
日本酒には清めの力と厄を除く力があり、神聖な儀式を行う際、神様へのお供えやお清めとして用いられます。
儀式の後に行われる直会(なおらい)は、神様に捧げた「御神酒」や「神饌(しんせん)」を参列者一同がいただくことです。お供えを口にすることで、神様の霊力を分けて頂くことができると考えられてきました。
・塩
「お清め」は、イザナギノミコトが黄泉の国から帰って来た時、海水で穢れた体を清めたという古事記の神話がもとになっています。
そのため塩には穢れを清め、災厄を祓う力があるとされています。玄関先や家の中に「盛り塩」を置く風習は奈良時代から行われており、主に厄除け、魔除けの意味を持っています。
・小豆
古事記には「五穀豊穣」の五穀のひとつとして小豆が記されており、太古の昔から縁起の良いものだと考えられていました。また赤色には病魔や災厄を祓う力があると信じられ、赤い小豆は除災招福の縁起物として和菓子や赤飯に使われるようになりました。
小豆の力を借りて邪気を払うことを願って、1月15日の小正月に小豆粥を食べる風習や小豆粥を用いて農作物の豊凶を占う「粥占(かゆうら)」という神事があります。
これらの他にも、「めでたい」の語呂合わせでおなじみの「鯛」や魔除けの効果があるといわれる「桃」、「れんこん」や「南瓜(なんきん)」など運を呼び込むといわれる”ん”の付く食べものなど、数多くの福を呼ぶ食材があります。
長い歴史の中で、禍福を願う人々の想いは縁起物として形を変えてきました。
森羅万象に感謝と慈愛、そして畏敬の念を含む縁起物は、日本文化に深く根付いた伝統的な呪物です。
参考文献:『日本のたしなみ帖 縁起物』自由国民社
文 / 草の実堂編集部
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