テレビでは昔から「大食い」の人たちを扱う番組がある。
常に人々の注目を集めて人気を博しているが「大食い」とはいつ頃から始まったものなのだろうか。
江戸時代の大食い大会
「大食い」の歴史は、確認できる文献では江戸時代のものがある。
「南総里見八犬伝」で有名な当時の人気読本作家・滝沢馬琴は、他に当時の大食い大会などの様子を編成して、随筆集「兎園小説」の中にその事を記している。
その大会は、1817年(文化14年)両国の柳町の「万八楼」で行われたものである。
それは5つの部門に分かれていて、参加者は、武士、農民、商人と身分は問わず、約200人が参加している。
大食い参加者の記録
◯飯の部
ルールは味噌茶漬けを何杯食べられるか競うもので、参加者の三右衛門(41歳)はご飯68杯、醤油2合(360ml)を食べ、和泉屋吉蔵(73歳)はご飯54杯、青唐辛子58本食べたと記されている。醤油2合や唐辛子58本とは身体が大丈夫だったのだろうか。
◯蒲焼鰻の部
審査の記述が量ではなく金額で書かれており、参加者の幾右衛門(53歳)が蒲焼鰻1両2分と記されている。
当時のそばで考えると1杯16文なので400杯ほどの額になる。鰻の蒲焼はそばの10倍ほどの価格だったようなので約40枚ほどであろうか。
◯そばの部
この大会のそばは一人前のせいろそばだった。
参加者の山口屋吉兵衛(38歳)63杯、桐屋惣左衛門(42歳)57杯と記されている。
◯菓子の部
自分の食べたいものを自由に選んで食べた量を競う。
菓子といっても江戸時代において食事以外に食べる嗜好本位のものとなっている。そのため、せんべい、梅干し、菜漬なども含まれた。
参加者の丸屋勘右衛門(56歳)饅頭50個、羊羹7棹、薄皮餅30個、茶19杯。足立屋新八(45歳)今坂もち30個、せんべい200枚、梅干し2升(1キロ)、茶17杯と、とんでもない記録が残っている。
◯酒の部
倒れるまでひたすら呑む!がルールで、参加者の鯉屋利兵衛(30歳)は3升入りの盃を6杯半、天堀屋七右衛門(73歳)5升入りの盃を1杯半飲んだとされる。
しかし利兵衛は大会中に意識を失いしばらく横になり、意識が戻ってから水を17杯連続で飲んだとされる。七右衛門は途中で用事があると退場したが、帰宅中に倒れて翌日朝に眠っているところを発見された。命が無事で良かったが、そのまま帰らぬ人になっていたかもしれない。
これらの大会の記述はどこまで信用出来るか分からないが、このような食の娯楽は江戸時代の豊穣と平和の証とも言える。
やせの大食いの秘密
江戸時代の猛者たちの身体は詳しくはわからないが、現代の大食いの人たちはスリム体型の人が多い印象がある。
なぜ太らないのか?その理由とされるものをいくつか紹介する。
ビフィズス菌が普通の人より多い
人の腸内には500〜1000種類の腸内細菌が住んでいる。過去に大学博士らのチーム研究でそれらの細菌が肥満に関係している事がわかった。
実際にテレビ番組で人気大食いタレントの腸内を調べたところ、善玉菌のビフィズス菌が通常の約3倍いたことがわかった。それらを増やすには、水溶性の食物繊維やオリゴ糖、発酵食品などを毎日継続して摂るのが望ましいという。例:ごぼう、バナナ、納豆、海藻類。
胃の柔軟性
一般の人の胃は、食事をすると1.5〜2.5リットルくらい広がるのに対し、大食いの人の胃はなんとその15倍ほど広がることが可能である。
痩せの大食いの人は、驚異的に広がる柔軟性のある胃を持っていることが多い。またその広がり方は様々で、他の臓器を全て押しのけながら脇腹や背中まで伸びたり、肋骨が開いている状態になる人もいる。これらは生まれつきの体質が関係している。
消化時の胃の弁
痩せの大食いの人は、食べ物がすぐ体内から排出される構造にもなっている。
具体的に言えば、胃から十二指腸に食べ物を送る出口「弁」がゆるく、消化、吸収があまり出来ないまま、排出されているのである。
通常は食事をすると、食道から胃に入り胃液でドロドロの状態になる。何を食したかのにもよるが、だいたい胃の中にある時間は2〜5時間程で、その後で十二指腸へ送られる。
痩せの大食いの人はこの流れが早いのである。燃費的には決して良くはない。
褐色脂肪細胞の働きが活発
体の中には「褐色脂肪細胞」というものがあり、脂肪を分解して熱にする働きがある。痩せの大食いの人はこの働きが強いという事がわかっている。
そのために太りにくいのだが、これは遺伝的なものが大きいと言われる。他に褐色脂肪細胞を活性させる方法としては「水泳」が有効とされている。
褐色脂肪細胞の部分(主に首、脇の下、心臓の周辺など限られた場所にある)を冷やした状態で運動すると、細胞が活発に働く事がわかっている。特に冬場の寒中水泳は効果大なのだが、あまりおすすめ出来ない方法である。
200年以上前から、人々の娯楽として注目され人気がある大食い。文献としては江戸時代のものが残っているが、大食いの人ははるか昔から存在していたはずである。
大食いの人を見ていると自分も疑似体験しているような心地よさも覚える。しかし決して無理をしてはいけない。
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