平安時代

【源氏物語に情熱を捧げたオタク女子】 菅原孝標女のオタクエピソードと個性的な家族

2024年に入り、大河ドラマ「光る君へ」が始まりましたね。
テレビの前で放映されるのを、待ちどおしく感じている方も多いかもしれません。

源氏物語が大流行していた平安の時代にも、作品にドはまりして「続きを読みたい!」と情熱を燃やしていた少女がいました。その名は菅原孝標女(すがわらのたかすえのむすめ)

今回は、そんな少女が大人になってから自身の人生を回想して綴った「更級日記」を参考に、彼女の源氏物語愛のエピソードと家族について紹介します。

菅原孝標女の生い立ち

菅原孝標女(すがわらのたかすえのむすめ)は、平安時代中期の文学者・歌人です。

先祖は「学問の神さま」として有名な菅原道真(すがわらのみちざね)。

画像 : 菅原道真 public domain

道真は亡くなった後に、神さまへと大出世しました。

その理由は「みんなから怖がられたら」です。

道真は「醍醐天皇を引退させ、自分の娘を嫁がせて斉世親王を皇位につかせようとした」と無実の罪を着せ得られます。

そして左遷された地でそのまま亡くなりました。

しかしその後、道真を陥れた人たちが次々と亡くなり、内裏は落雷して炎上するといった不可解な事件が起こり続けます。

道真公の祟りだ!」と恐れた人たちが神さまとして祀ったことに由来して、今では受験生がこぞってお参りする良い神さまとなりました。

そんなすごい人の子孫である菅原孝標女ですが、彼女はもちろん普通の人間です。

画像 : 菅原孝標女 public domain

彼女の父親である菅原孝標は「受領(ずりょう)」と呼ばれる中流貴族で今でいう転勤族。
国から命じられて地方へ赴き、知事のような仕事をしていました。

家族はその転勤についていくことになるので、当然ながら菅原孝標女も幼いころから地方育ち。
今でこそ全く何もない明らかな田舎という場所は無くなりましたが、当時の地方は本当に何もない辺鄙な場所でした。だからこそ物語は貴重な娯楽だったのです。

そんな中、菅原孝標女も当時流行していた源氏物語に大ハマり。
宮仕えをしていた経験があった義母による聞き伝えで、源氏物語をワクワクしながら聞いていたのでした。

しかし、義母によるお話を聞いているうちに光源氏推しになった菅原孝標女は「これじゃあ満足できない!原本を手に入れて読みたい」と源氏物語への愛をますます強めるのです。

「源氏物語の原本が読みたい!!」オタクパワー全開

源氏物語への情熱を燃やした菅原孝標女は、なんと等身大の仏像を作成して「どうか物語が読めますように」と祈願するようになります。

平安時代の貴族の娘が仏像を彫って祈願するなんて、オタクの行動力と情熱の高さは昔から変わらないようです。

そんな熱心な気持ちが仏さまに届いたのかどうかは分かりませんが、父の転勤で都に還ったある日。
知り合いのおばさんから源氏物語(全巻コンプリート)をプレゼントされたのです。
菅原孝標女は、まさに天にも昇る気持ちだったでしょう。

更級日記ではこのときの心情を

后の位も何にかはせむ
(お后の位だって問題にならないわ。それくらい源氏物語は素晴らしい!)

と残しています。

こうして夢にまで見た源氏物語を手に入れた菅原孝標女は、ひたすら夢中になって読み続け御簾にこもって出てこなくなります。

するとさすがに仏さまも「こりゃいかん」と思ったのか、菅原孝標女は夢の中できれいな黄色の袈裟を着た僧侶に「きちんと勉強もしなさい」と怒られたといいます。

しかし全く反省することはなく、「光源氏のような美形男子に囲まれる、儚くも美しい美少女」という妄想にふける日々が続いたのです。

私はまだ子供だからいまいちだけど、きっと大人になったら浮舟のような、美しい女性になれるはず」といった内容の文章まで残しています。

中学生くらいの少年、少女が何かと夢見がちなのは今も昔も変わらないようです。

菅原孝標女の家族も個性豊か

菅原孝標女の姉は、空想好きのちょっと不思議な女性だったようです。

菅原孝標女と姉には世話をしていたがいました。

ある晩、姉は夢を見ました。そして夢の中でその猫が

おのれは侍従の大納言殿の御むすめのかくたるなり
(私は侍従の大納言の姫君がこうなった姿なのです)

と、お告げしてきたいうことで「猫の正体はお姫様らしいわ!」と姉は大騒ぎします。

すると菅原孝標女は、「道理で高貴だと思った」とそのまま受け入れてしまったのです。

さらにそれを聞いた父も「猫の正体が実は姫君だと!?大変だ、大納言様に伝えなければ!」と一緒になって大騒ぎ。

父もおっとりした天然タイプだったようで、ツッコミ不在の個性的な一家だったことが分かります。

おわりに

孝標女の源氏物語への情熱と、彼女を取り巻く個性的な家族の関係は、現代を生きる私たちも共感できてくすっと笑ってしまうものが多いです。

更級日記だけ読むと夢見がちなおっとりさん、という印象ですが菅原孝標女は「新古今和歌集」に歌を取られていたり、「浜松中納言物語」や「夜半の寝覚」といった作品の作者ともいわれており、素晴らしい才能を持った女性だったのが分かります。

彼女の独自の視点で、日本の文学に深みを与えてくれたのは間違いありません。
歴史の中で輝く物語に、皆さんも是非触れてみてください。

参考 :
菅原孝標女の家族 | 更級日記千年紀2020

 

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