まひろの弟 藤原 惟規(ふじわらの のぶのり)
高杉 真宙(たかすぎ・まひろ)まひろ(紫式部)の弟で、幼名は太郎。勉学が苦手で、文学の才がある姉としょっちゅう比較されている。のんびり、ひょうひょうとした性格。
※NHK大河ドラマ「光る君へ」公式サイトより。
紫式部の実兄弟として知られる藤原惟規。紫式部ともども生没年不詳(諸説あり)のため、どちらが年長者かハッキリしません。
NHK大河ドラマ「光る君へ」では、まひろ(紫式部の役名)の弟という設定になっていました。
果たして藤原惟規は紫式部の弟か?それとも兄なのか?
いまだに決着がつかない問題について、独自考察したいと思います。
利発だった妹
結論から言うと、藤原惟規は紫式部の兄だったのではないでしょうか。
藤原惟規の少年時代を記録した数少ない史料として、『紫式部日記』にこんな記述があるからです。
……この式部丞といふ人の、童にて書読み侍りしとき、聞きならひつつ、かの人は遅う読み取り、忘るるところをも、あやしきまでぞさとく侍りしかば、書に心入れたる親は、「くちをしう、男子にて持たらぬこそ、幸ひなかりけれ。」とぞ、常に嘆かれ侍りし……
※『紫式部日記』より
【意訳】かつて式部丞(しきぶのじょう。惟規)が子供だったころ、父・藤原為時から漢籍を学んでいた。
しかし彼は呑み込みが遅く、しばしば忘れてしまうのに対して、私は不思議なくらいに覚えてしまったのである。
我が子に学問で身を立てさせたいと思っていた父は言う。
「実に残念だ。この娘が男でなかったことは、幸運に恵まれなかったとしか言いようがない……」と、常々お嘆きであった。
……耳学問だけで漢籍の内容をマスターしてしまうとは、まさに「門前の小僧、習わぬ経を読む」ですね。
※当時、女児に対してわざわざ学問をさせることはありませんでした。
これだけだと、藤原惟規と紫式部のどちらが年長者かは分かりません。
しかしこの自慢話?は、紫式部が惟規の姉であるより、妹であった方がより凄さが引き立ちます。
もし紫式部が惟規の姉であれば、耳学問であっても漢籍にふれる時間が長かった可能性があるでしょう。
一方で紫式部が惟規の妹であれば、ちゃんと教えてもらえる惟規に比べてふれる時間が少ないのに、早く習得できたからより凄いというわけです。
紫式部がわざわざ自慢話を書くのであれば、相応に凄いと思える状況に言及するでしょう。
だから紫式部は「兄」惟規よりも優秀だった、と書いたものと考えます。
よって、藤原惟規は紫式部の兄だったと考えるのが自然ではないでしょうか。
しかし、その賢さが後にコンプレックスとなり、彼女の性格をこじらせていくのでした。
兄妹?姉弟?の略年表
ここで、紫式部と藤原惟規の略年表を並べてみたいと思います。
紫式部・略年表
・天禄元年(970年)~天元元年(978年)ごろ 誕生(諸説あり)※NHK大河ドラマ「光る君へ」では、天禄元年(970年)生まれ説が採用されている。
・永観2年(984年) 父・為時が 六位蔵人(ろくいのくろうど)式部丞(しきぶのじょう)となる
・時期不詳 源倫子の女房として仕えた?女房名は藤式部(とうのしきぶ)
・永延元年(987年) 主君・源倫子が藤原道長と結婚
・長徳2年(996年) 父・藤原為時の越前守任官に伴い越前へ移住
・長徳4年(998年)ごろ 帰京して藤原宣孝と結婚
・長保元年(999年)ごろ 藤原賢子(大弐三位)を出産
・長保3年(1001年) 藤原宣孝と死別
・長保4年(1002年)ごろ 『源氏物語』の執筆を開始
・寛弘2年(1005年)または寛弘3年(1006年) 藤原彰子に出仕
・寛弘8年(1011年)ごろ 彰子の元を去った?
・長和年間(1012年~1016年) 没した?※没年については諸説あり。
藤原惟規・略年表
・生年不詳
・時期不詳 藤原貞仲女(さだなか娘)と結婚
・時期不詳 子供の藤原貞職(さだもと)・藤原経任(つねとう)らを授かる
・時期不詳 擬文章生(ぎもんじょうしょう)
・時期不詳 文章生
・長保6年(1004年) 少内記(しょうないき)
・寛弘4年(1007年) 六位蔵人・兵部丞(ひょうぶのじょう)
・時期不詳 式部丞
・寛弘8年(1011年) 従五位下
同年 父・為時の越後守任官に伴い、現地へ同行
同年に現地で卒去
……何かヒントがあるかと思いましたが、比べて見てもあまりピンと来ませんね。
紫式部(まひろ)の没年は諸説ある一方で、惟規については紫式部よりも早く亡くなることが分かっています。
終わりに
結局、藤原惟規が紫式部の弟なのか?兄なのか?についてはいまだ分かりません。
ただNHK大河ドラマ「光る君へ」における惟規はいい感じの弟であり、とても好ましく観ています。
いつかまた、惟規が兄となっている設定のドラマも観てみたいですね!
※参考文献:
倉本一宏『紫式部と藤原道長』講談社現代新書、2023年9月
与謝野晶子 訳『紫式部日記・和泉式部日記』角川ソフィア文庫 2023年6月
文 / 角田晶生(つのだ あきお)
この記事へのコメントはありません。