主家・尼子氏の滅亡
山中幸盛(やまなかゆきもり)は戦国時代の武将で、通称の鹿介(しかのすけ)の名でその生涯をかけて主家・尼子氏の再興を願った忠義の士として、江戸期以降の講談などでつとに知られた人物です。
幸盛は、その秀でた武勇から「山陰の麒麟児」とも呼ばれ、講談などでの脚色とも言われますが、尼子氏の再興のため、「我に七難八苦を与えよ」と唱えた逸話でも稀代の忠臣として有名な武将です。
尼子氏は、尼子晴久の時代には中国地方に覇を唱え隆盛を誇った戦国大名でしたが、次の義久の時代には急速に台頭してきた毛利氏に押され、ついに永禄9年に居城・月山富田城を明け渡して降伏、ここから幸盛の尼子氏再興への戦いが始まることになりました。
主家再興への旗揚げ
幸盛の生年に関しては正確には不明ですが、一説によれば、天文14年(1545年)に出雲国で生まれたとされています。
幸盛は早くから尼子氏に仕え、永禄4年(1561年)齢16のときには主君・義久の伯耆尾高城攻めに従軍し、因幡国や伯耆国にまでその名を知られた敵の猛将・菊池音八を一騎討ちにて討ち取ったとも伝えられています。
幸盛が21歳頃の永禄9年(1566年)、主君・義久がその居城月山富田城を毛利氏に明け渡して降伏、一旦大名としての尼子氏は滅亡を迎えました。
幸盛はその2年後の永禄十一年(1568年)に京で僧侶となっていた尼子誠久(勝久の祖父・政久の弟)の遺児・勝久を還俗させ、尼子氏再興の主君に据え、各地にちらばっていた尼子の旧臣らを糾合して、毛利氏の隙を待ちました。
そしてついに毛利氏が九州の大友氏との戦さに及び、本拠地の中国地方を留守にした隙をついて出雲へ侵攻しました。
幸盛が擁した軍勢は最大で約6,000人にも上り、かつての居城・月山富田城を攻めました。しかし攻略は叶わず、またこの動き対応すべく九州攻めを中止して引き返した毛利勢に敗れ、幸盛は敵将・吉川元春に捕えられてしまいました。
なんとか脱出には成功した幸盛でしたが、再び雌伏のときを余儀なくされました。
織田氏の後ろ盾
幸盛は元亀四年(1573年)、再び兵を挙げて但馬から因幡へ攻め込みました。桐山城を陥落させてこれを拠点とし、月山富田城を目指しました。
このときも幸盛の率いた軍勢の士気は高く、寡兵にもかかわらず、5,000人が籠城していた鳥取城をわずか2ヶ月で攻略したと言われています。ただし、その後の毛利勢の反撃によって鳥取城は奪還され、結果この挙兵も天正四年(1567年)には失敗に終わりました。
幸盛はこれまでの2度の挙兵の失敗から、強力な後ろ盾が必要だと判断したと思われます。京へ上って織田信長との提携を図ったのです。
中国攻めを本格化させていた信長の思惑と一致したこともあり、幸盛は織田の協力を得ることに成功しました。
このとき幸盛は信長から「四十里鹿毛」という名馬を拝領したと伝えられています。
こうして織田勢の末席に加わった幸盛は、まず明智光秀勢に加勢し、続いて信長の長男・信忠の下で、謀反人・松永久秀の鎮圧に従軍しました。
そして秀吉が中国攻めの織田方面軍の大将となったため、秀吉に従って播磨西部の上月城を落とす事に成功し、ここを拠点に3度目の尼子氏の再興を目指しました。
山中幸盛の最期
幸盛らは上月城を得たもの束の間、三木城の別所長治が織田氏から離反したことで、これに呼応した毛利勢が吉川元春・小早川隆景ら約30,000人の軍勢で播磨へと侵攻、上月城を包囲されることになりました。
秀吉は、荒木村重らを引き連れて上月城の救援へと向かい、信忠を総大将とした織田の将ら滝川一益、佐久間信盛、明智光秀、丹羽長秀、細川藤孝らも後詰を行いましたが、信長から三木城の攻撃を優先する命が出され、また高倉山合戦で毛利氏に敗れたこともあって、上月城の救援は断念され、幸盛ら尼子勢は織田勢から事実上見殺しにされることになりました。
結局、幸盛ら尼子勢は毛利氏に降伏することになり、勝久を含む尼子氏は切腹させられました。
幸盛は毛利輝元の下へと護送される途中で、毛利家臣の河村新左衛門・福間彦右衛門らに謀殺されたと伝わっています。
鴻池財閥(こうのいけざいばつ)
幸盛の死後、その長男とされる山中幸元(鴻池新六)は、山中家本家の別所長治の臣・黒田幸隆に託されたとされています。
しかし後には別所氏も滅亡したため、齢9歳にして流浪の身となりました。
幸元は大伯父である山中信直を頼りに伊丹の地に赴き、武士の身分を捨てて摂津の川辺郡鴻池村(現在の兵庫県伊丹市)において酒造業を営んだとされています。
後にこの清酒の生産で財をなしたとされ、以後大坂へと移住、江戸時代には日本で最も大きい鴻池財閥の始祖となりました。
さらに幸元は大阪の地で両替商の事業も始め、これが後に三和銀行、さらに三菱UFJフィナンシャルグループの一員となって今日まで続くことになったのでした。
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