朝ドラ「ブギウギ」では、芸名も決まり初舞台を踏んだ鈴子たち。
切磋琢磨して明日のスターを夢見る3人ですが、史実ではストライキをきっかけに笠置シヅ子たち新人が、重要な役を務めるようになります。
今回は、労働争議後のシヅ子たちの活躍と、鈴子の同期・リリー白川と桜庭和希の実在モデルについて、史実をもとに解説します。
団員たちのストライキ「桃色争議」後、相次ぐ幹部スターの退団と新しいスターの台頭
1933 (昭和8)、人員削減、賃金カットに反対する松竹楽劇部員たちのストライキ「桃色争議」が起こります。
会社に対する部員たちの改善要求はほぼ通りましたが、騒動の責任をとるため、争議団長の飛鳥明子をはじめ、多くの幹部クラスの団員が退団を余儀なくされました。
ストライキ騒動によってライバルの宝塚から大きく水をあけられた松竹は、イメージダウン回復のため、1934(昭和9)年、大阪松竹楽劇部を大阪松竹少女歌劇団(OSSK)に改称し、本拠地を道頓堀の松竹座から千日前の大阪劇場、通称・大劇に移します。
大劇は「三千人劇場」と呼ばれたマンモス劇場で、レビューは豪華絢爛を極めました。
また労働争議による幹部スターの大量退団は新しいスター台頭のきっかけとなり、大劇での第一回公演『カイエ・ダムール』で中心になって活躍したのが、三笠静子(のちの笠置シヅ子)、柏晴江(のちの柏ハルエ)、美鈴あさ子(のちのアーサー美鈴)の3人でした。
シヅ子(当時は三笠静子)は、『秋の踊り』の舞踊劇『女鳴神』での好演が認められ、1933(昭和8)年「トップスター10選」に選ばれるという快挙を成し遂げています。
1935(昭和10)年には、芸名を「笠置シヅ子」と改名。
大正天皇の皇子が三笠宮の宮号を賜ったことから、三笠という名は畏れ多いという松竹の意向でした。
こうした新しいスターの台頭やレコード会社とのタイアップ、大々的な宣伝効果によって、劇団の経営不振は解消され、1938(昭和13)年には、選抜メンバーからなるラインダンスチーム「ロケットガールズ」が誕生します。
「ロケット」や「ロケットダンス」と言われる「ラインダンス」は、ダンサーが舞台上に一列になり、そろって脚を上げて踊るダンスで、ぴったり合った振りやスピード、回数、上げる脚の高さなどが見どころです。
ちなみに「ラインダンス」という名が使われるようになったのは、1936(昭和11)年、日劇ダンシングチーム(NDT)の第8回公演『日劇秋のおどり』からと言われています。
OSSKのラインダンスは速いテンポで高く脚を上げることを特徴とし、その一糸乱れぬ美しさと圧倒的な迫力は劇団名物の一つとなりました。
1930年代はレビュー全盛の時代。連日3千人の観客を前に、シヅ子たちは華やかなショーを繰り広げました。
男役のトップスター、柏ハルエとアーサー美鈴
柏ハルエは1913(大正2)年生まれ。笠置シヅ子よりも1歳年上です。
女学校中退後、1930(昭和4)年に松竹楽劇部に入部。東京で絶大な人気を誇っていた男役・水の江滝子(愛称・ターキー)に対抗して、劇団は柏ハルエを西のターキーとして売り出します。
『カイエ・ダムール』では、コロムビア・レコードとタイアップしてレコードも発売。A面が笠置シヅ子の『恋のステップ』、B面が柏ハルエの『いぢわるもの』でした。
柏ハルエは男役として活躍し、経営不振にあえぐOSSK復活の立役者となりますが、昭和13年頃に引退しています。
一方、アーサー美鈴は、1916(大正5)年生まれで、シヅ子より2歳年下。シヅ子と同じ1927(昭和2)年に松竹楽劇部に入部しているので、二人は同期です。
当初「美鈴あさ子」の芸名でしたが、シヅ子と同時期に「アーサー美鈴」に改名。
「西のアーサー、東のターキー」と呼ばれ、女性から圧倒的な支持を得ることに成功します。
美鈴はOSSKの新たな男役のトップスターとして活躍し、観客を魅了しました。
シヅ子を追い続ける後輩たち
1936(昭和11)年、劇団は新たに若手の秋月恵美子・芦原千津子をスターとして売り出します。
秋月恵美子(本名・金子三枝子)は、1917(大正6)年生まれ。
1930(昭和5)年、松竹楽劇部へ入部し、剣舞や日舞、中でもタップダンスを得意としていました。
娘役・芦原千津子とのコンビで人気を博し、後に京マチ子らと大阪松竹歌劇団(OSK)の黄金時代を築きます。1948(昭和23)年に引退し、1994(平成6)年までOSK日本歌劇学校の講師を務めました。
娘役の芦原千鶴子(本名・木村たみ)は、1931(昭和6)年に松竹楽劇部に入部。
踊りの名手であり、特にクラシックバレエは、プリマドンナ・飛鳥明子の再来と言われるほどの華麗さだったといいます。
また非常にカンがよく、のみこみが早いという才能も持っており、新しい振付でもすぐに楽々と踊りこなしてしまう彼女に、振付師は才人的なものを感じていたようです。
男役の秋月恵美子と機関銃のような早いスピードで踊るタップは人々を虜にし、芦原千鶴子は娘役トップスターとして君臨。
笠置シズ子やアーサー美鈴たちが退団した後、秋月とともにOSSKの中心メンバーになりました。
リリー白川と桜庭和希の実在モデルは?
「ブギウギ」のヒロイン、鈴子の同期であるリリー白川(演・清水くるみ)と桜庭和希(演・片山友希)のモデルは、笠置シヅ子とともに活躍した柏ハルエとアーサー美鈴が考えられます。
ただしどちらも男役なので、娘役のリリー白川には当てはまりません。桜庭和希は男役ですので、ハルエか美鈴のどちらかがモデルであると言えそうです。
リリー白川のモデルとして考えられるのは、シヅ子たちの後輩・芦原千津子です。
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娘役トップであることとバレエを得意としているところに、白川との共通点があります。
また芦原千津子とコンビを組む秋月恵美子は、伊原六花さん演じる秋山美月のモデルだと思われます。
NHK「ブギウギ」公式サイトによる秋山美月の紹介にも、男役で大人気となるタップダンスの名手と記載されています。
ドラマでもリリー白川と秋山美月の名コンビが見られるかもしれません。
参考文献:青山誠『笠置シヅ子 昭和の日本を彩った「ブギの女王」一代記』
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