西洋史

ある1人の死体が第二次世界大戦の勝敗を決めた!?【ミンスミート作戦】

はじめに

第二次世界大戦は、まさに人類の明暗を決める戦いでした。

もしナチス・ドイツ(ヒトラー)がこの戦争に勝利していたら、人類の未来はどうなっていたのでしょうか。第二次世界大戦は、連合軍(イギリス・ソ連・アメリカ)と枢軸国(ドイツ・イタリア・日本)の戦いでした。

結果としてナチス・ドイツは敗れ去り、連合国が勝利したことは学校で習ったと思います。

そして、この連合軍の勝利を決定づけた要因の1つが「死体」だったとしたら、あなたはどう思いますか。

今回はある1人の死体が連合軍に勝利をもたらした、という信じられないエピソード(ミンスミート作戦)をご紹介したいと思います。

ヨーロッパ本土の大部分を支配していたナチス・ドイツ

【ミンスミート作戦】

画像 : アドルフ・ヒトラー public domain

1939年に始まった第二次世界大戦ですが、開戦当時はドイツの快進撃が続きました。フランスなどヨーロッパ本土の大部分は、ナチス・ドイツによって支配されていました。

イギリス・アメリカの連合軍は枢軸国のドイツ・イタリアを攻めるため、ヨーロッパ本土に進攻する計画を立てます。

連合軍が目をつけたのは、イタリア・シチリア島です。

シチリア島は地中海における交通の拠点になっています。連合軍がシチリア島を支配できれば、枢軸国のイタリア本土、そしてドイツに進攻するための足掛かり(拠点)にもなります。

しかしドイツ・イタリア軍もシチリア島の重要性は十分に理解していました。数万人のドイツ兵と数十万のイタリア兵をシチリア島に駐留させ、万全の防衛体制を整えていました。

イギリスが考えた奇抜なアイデアとは

そこでイギリスは「偽情報」をドイツに流す計画を立てます。

連合国が攻めようとしているのはシチリア島ではなく、当時ドイツが支配していたギリシャであると、ドイツに信じ込ませようとしたのです。

もし計画が上手くいけば、シチリア島の兵力がギリシャに移動し、シチリア島の防衛に穴ができます。その隙を狙って連合軍がシチリア島に進攻する、ということです。

では、どうすればドイツをだますことができるのでしょうか?

この任務に当たったのがイギリス空軍大尉のチャムリーと、海軍少佐のモンタギューです。2人は少し変わったアイデアを軍に提案します。このアイデアの発案者は、スパイ小説で有名な「007(ダブルオーセブン)」シリーズの作家である、イアン・フレミングだと言われています。

その提案とはこんな感じです。

死体にイギリス軍の軍服を着せて、先ほど紹介した偽の進攻計画が書かれた書類を持たせます。そして、その死体をドイツ軍が発見しやすそうな場所に置くというものです。その死体をドイツ軍が発見してヒトラーに知らせれば、ヒトラーは騙され、シチリア島からギリシャに兵力を移動させるのではないかと考えたのです。

大した予算もかからないということで、この提案は許可されました。この計画は「ミンスミート作戦」と呼ばれました。

【ミンスミート作戦】

画像 : 地図の下にある島がシチリア島 public domain

死体が見つからない…

しかし作戦を進めるにあたって、なかなかピッタリの死体が見つかりません。この作戦に使用しても「遺族から苦情が出ない」「誰も悲しませない」という、大きなハードルがありました。いくら戦時中であっても、そんな死体は見つかりませんでした。

1943年4月上旬、ロンドンの倉庫で1人の男性が自殺しました。名前はマイケル、年齢は34歳です。田舎からロンドンに来ましたが、仕事が見つからず生活苦による自殺でした。すでに両親も亡くなっており、家族もいませんでした。

不謹慎な言い方ですが、イギリス軍にとってはドンピシャな死体でした。

遺体安置所から連絡が入ると、チャムリーとモンタギューはマイケルを架空のイギリス人将校に仕立て上げました。

名前はマーティンでイギリス海兵隊の少佐として、機密書類を任されるほど、有能な軍人と設定されました。

【ミンスミート作戦】

画像 : 偽装された死体に付属された「ウィリアム・マーティン海軍少佐」の身分証明書。

死体をどこに置く?

そして次の課題はどこに死体を置くかです。

チャムリーとモンタギューが選んだ場所はスペインです。当時のスペインは中立国の立場でした。しかし軍事政権であったため、ナチス・ドイツとは良好な関係を築いていました。そのため、スペイン国内にはナチス関係者やスパイが多く潜伏していました。

イギリス軍は、スペイン軍がこの偽情報を知ればきっとヒトラーに流すだろうと考えたのです。

1943年4月下旬、マーティン少佐(死体)はイギリス軍の潜水艦に乗せられ、スペイン南部の沿岸に漂着させられました。数時間後、マーティン少佐の遺体は地元の漁師に引き上げられました。そしてスペインの医師によって検死が行われ、溺死と判断されました。

また偽情報の入った鞄はスペイン軍に預けられました。しかし、スペイン軍はその鞄を律儀にイギリスに返却しようとしました。これはイギリス軍にとっては誤算でした。

ナチス・ドイツと良好な関係にあったスペイン軍は、ドイツ軍に鞄を渡すだろうと考えていたからです。

ドイツ人スパイ・キューレンタール登場

しかし、ここでスペインに潜伏していたドイツのスパイがその鞄に目をつけました。そのスパイは、キューレンタールという人物です。その鞄にある文書を入手したキューレンタールは、その情報を完全に信じきってしまいました。

優秀なスパイであったキューレンタールは、なぜあっさりと偽情報を信じてしまったのか。その理由は、彼の祖母がユダヤ人であったためです。彼が手柄を上げなければ、家族は迫害の対象になってしまいます。

そのため、特大スクープであるイギリスの軍事作戦(偽物)に飛びついてしまったのです。

キューレンタールは「確実な情報」として、この偽情報の写真をドイツ本国に送りました。

ヒトラーは偽情報を信じたのか?

1943年5月、イギリス軍はドイツ軍の通信を傍受しました。

その内容は「連合軍のギリシャ攻撃に備えて、シチリア島からギリシャに兵士を移動せよ」というものでした。

ヒトラーは騙されたのです。

1943年7月、連合軍はシチリア島に進攻を開始しました。連合軍は14万人の兵力で攻め、手薄になっていたシチリア島は1ヶ月ほどで陥落しました。

シチリア島の上陸をきっかけにドイツは、不利な状況に追い込まれていきます。1944年6月にはノルマンディー作戦によって、連合軍のヨーロッパ本土への上陸を許します。

そして1945年5月、ドイツはついに降伏しました。

画像 : ノルマンディー上陸作戦 public domain

最後に

もしマイケルが自殺をしなければ、もしスペイン軍が鞄をイギリスに返却していたら、もしキューレンタールの家族にユダヤ人がいなければ…

歴史というものは偶然の積み重ねであり、その偶然が1つでも違っていたら、今の世界はまた違った形になっていたかもしれません。

今回の主役であるマイケル(マーティン少佐)の遺体は、スペイン南岸の街ウエルバの墓地にあります。その墓にはこのような記載があります。

「マーティン少佐として、国に奉仕したマイケル 安らかに眠れ」

※参考文献:
・ベン・マッキンタイアー『ナチを欺いた死体-英国の奇策・ミンスミート作戦の真実』(小林朋則訳)中央公論新社、2022年1月

 

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村上俊樹

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“進撃”の元教員 大学院のときは、哲学を少し。その後、高校の社会科教員を10年ほど。生徒からのあだ名は“巨人”。身長が高いので。今はライターとして色々と。フリーランスでライターもしていますので、DMなどいただけると幸いです。
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