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不倫はなぜダメなのか? キリスト教と結婚制度から考える 「元は人口抑制政策だった」

不倫の報道が止まらない

芸能人の不倫が話題になっています。しかし少し立ち止まって考えると、なぜ不倫はダメなことなのでしょうか。

歴史をさかのぼると、日本人は「」にとてもルーズでした。1人の男性が複数の女性と結婚できる「一夫多妻制」を実質的に採用しています。

戦国時代の武将たちは多くの妻を抱えて、自らの子孫を残すためにたくさんの子どもを産んでいます。江戸時代でも「大奥」という将軍の後継者を残すために、幾多の愛人を抱えるシステムが存在しました。

しかし今では性に関して、とても厳格です。その理由は「一妻一夫制」という結婚制度にあります。結婚をした女性(男性)以外の人と、浮き名を流すなど「けしからん」という言い分です。

そこで今回の記事では、一妻一夫制がどのような歴史的過程によって成立したシステムなのか、その起源を見ていきたいと思います。

「不倫がダメ」と定めたのはキリスト教

「不倫がダメ」というルールを、明確に定めたのはキリスト教です。

中世のヨーロッパ(5世紀から14世紀)は「暗黒時代」と呼ばれ、とても貧しい時代でした。

中世以前の古代ギリシアやローマ時代、ヨーロッパはとても豊かな地域でした。その理由は、地中海を支配していたからです。温暖な気候を背景として、各地域は特産品を生産し、海上貿易を盛んに行いました。当時の人々は地中海がもたらす恩恵によって、繁栄を享受していたのです。

しかし、4世紀から始まるゲルマン民族の大移動によって、西ローマ帝国は滅亡。社会は混乱し、経済秩序も破壊されます。また繁栄の礎であった地中海はイスラム教の勢力に支配され、貿易もできなくなります。

ヨーロッパの人々は深い森のなかで、小さな村を形成して自給自足の生活を強いられたのです。

中世ヨーロッパの貧しい生活を描いた童話『赤ずきんちゃん』や『ヘンゼルとグレーテル』は、この時代を背景にして作られたものです。

イメージ画像:中世ヨーロッパの森

マルサスの『人口論』

マルサスという経済学者が書いた有名な本に『人口論』があります。

彼は「食料は算術級数的にしか増加しないのに対して、人口は幾何級数的に増加する」と主張しました。難しいのでざっくり言うと、人口は掛け算のようにすごい勢いで増えるけれど、食料(食料を作るための土地)は足し算でしか増やすことができないことを意味します。

ここからマルサスは「人口は絶えず食料増加の限界を超えて増加する傾向がある。社会で起きる貧困など多くの諸問題は、この人口増加に起因して発生する」と結論付けたのです。

中世ヨーロッパが直面した問題は、深刻な食料不足です。当たり前ですが、人間は食べ物がなければ生きていけません。

しかし、森のなかで貧しい生活をするヨーロッパの人々は、人口を支えるだけの食料を生産できなかったのです。

人口増加をどう抑制するか

貧しさに苦しむヨーロッパ社会は人口増加を防ぐために、新しいシステムを構築する必要がありました。食料が不足している社会にも関わらず、子どもを多く作られてしまったら、社会全体が共倒れしてしまうからです。

このときに利用したのがキリスト教です。宗教の力を利用して、人々の道徳意識(倫理観)を変化させ「性欲の管理」に着手します。

性行為(子作り)の回数を減らすため「労働に励み禁欲した生活を送ることが美徳である」という倫理観を作り、人口を抑制しようとしたのです。

不倫はなぜダメなのか?

画像:人口抑制のために利用されたキリスト教 public domain

厳しい戒律

キリスト教はどのように「性欲の管理」をしたのでしょうか。

性行為をする機会や、性欲が高まってしまう場面を、キリスト教会はできる限り少なくするよう指示しました。1人としか結婚できない一妻一夫制を導入し「性欲を持つこと自体が罪(悪)である」という考え方を広めることで、不倫や離婚を厳しく禁じたのです。

また夫婦同士が性行為をするときにも厳しいルールがあります。性行為をして良い日は月曜、火曜、木曜日だけで、キリスト教のイベントと重なった場合は禁止です。

それ以外にも「夫婦で一緒にお風呂に入ってはいけない」「裸も見てもいけない」など、これでもかと思うくらいNG項目が並んでいます。

キリスト教ほど生活場面における、性の禁止事項を具体的に定めた宗教はありません。当時のヨーロッパ社会が、いかに人口増加を恐れていたのかが分かります。

「人間は狂ったサルである」

不倫はなぜダメなのか?

画像:ジークムント・フロイト public domain

心理学者のフロイトは「人間は狂ったサルである」と言います。

動物は繁殖活動以外の目的で性行為をしません。オスは排卵期ではないメスに欲情しませんし、出産能力のない子どもに欲情するオスはいません。自然の世界における動物たちの行動は、すべて子孫を残すという摂理(ルール)に従っています。

しかし人間は自然のルールから明らかにズレています。幼い子どもを性的対象として欲情する人間がいるし、そもそも人間は生殖の目的がないにも関わらず性行為をします。こうした発情(欲望)に基づく愚かな行為は、日々のニュースなどで報じられている通りです。

性行為と生殖活動の分離が、人間の異常な現象を引き起こす原因になります。動物(自然)の観点から見ると、人間は異常であり、変態なのです。

人類の歴史とは「性欲をどのように抑制するのか」という、課題に向き合い続けてきたとも言えるでしょう。

しかしその結果として、現代社会が少子化に苦しんでいる現状はなんとも皮肉に感じてしまいます。

人間の性をどのように捉え、管理するのか。人類が抱える永遠の課題なのかもしれません。

※参考文献:ゆげひろのぶ、ゆげ塾ほか『ゆげ塾の構造がわかる世界史』ゆげ塾出版、2018年4月

 

村上俊樹

村上俊樹

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“進撃”の元教員 大学院のときは、哲学を少し。その後、高校の社会科教員を10年ほど。生徒からのあだ名は“巨人”。身長が高いので。今はライターとして色々と。フリーランスでライターもしていますので、DMなどいただけると幸いです。
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